3-5. 変態と罵ってもらっても構わない
リタ(マルグリット)が部屋で休んでいると、魔女様が来た。
何か様子がおかしい。
「リタ。お主に願いがある」
あらたまって何だろうかと心配になる。
とは言え、話を聞いてみないことには叶えられるかわからない。
「はい。叶えられるかはわかりませんが、内容をお聞きしても?」
すると魔女様はこう言った。
「わしを変態と思ってもらっても構わぬのじゃ」
え?
そう言われても、実際のところリタは魔女様は変態かもしれないと思っていた。
どのくらい凄い変態的なことを言われるのかと恐れる。
「変態ですか? いったいどのような?」
「お主の胸に顔をうずめてみたいのじゃ」
何を言い出すかと思えばコレだ。
まあ確かに以前から胸が好きだというような話は聞いていた。
「はあ。この服装のままでよろしいですか?」
「良いのか?
服装はどれでも良い。わしは胸に顔をうずめてみたいのじゃ」
服を脱げと言われたら断るが、このままで良いなら、そこまで変態だとは思わない。
予想していた変態度よりもそんなに高くない。
※あくまでも、リタさんのの基準です
「はい。そのくらいでしたらかまいませんが」
「本当か? 火炙りじゃぞ?」
「そのくらいで火炙りにはならないと思いますが」
昔はそんなことで火炙りになったのだろうか?
「今すぐでも良いか?」
なんか、べつにその程度どうと言うことも無いような気がする。
リタは心の準備ができてしまった。
どんと来いくらいの勢いで。
「どうぞ」
それを聞くと、魔女様はぽふっと顔をうずめた。
やはり、あまり性的な感じはしない。母親に甘える娘という感覚だ。
「どうされたのですか?」
「安心じゃ。ここが一番安心できる……が、これは腰が厳しいのう」
”腰が厳しい” まあ確かにそうかもしれない。リタと魔女様は背丈は大して変わらない。
なので魔女様は中腰を維持している。
これは疲れそうだ。
「それではベッドの上ではいかがでしょうか?」
「良いのか?」
「このまま横になるだけであれば」
このまま横になったら、魔女様が覆いかぶさるような格好になりそうだと思ったが、魔女様は上半身だけベッドに乗せて少し横から顔を胸に埋める。
これなら特に問題は無い。
「おお、ここが一番安心できる。良い匂いもするのう」
「ああ、石鹸ですね。先日の買い物で入手しました。
ひさしぶりにお風呂に入れました。
いったいどうされたのですか? 何か心配事でもおありですか?」
「わしには安心が必要じゃったのじゃ」
なぜ急に安心が必要になったのかを知りたいのだが。
そこにカリーヌがやって来る。
「お嬢様。ここにいらしたので……いったい何を?」
「魔女様が胸の間が一番安心できると」
「安心……ですか」
魔女は顔を上げてカリーヌの方に少しだけ顔を向けるが目は合わせない。
「わしを変態と罵ってくれても構わぬ。ここが一番安心なのじゃ!」
そう言うとまた『ぽふっ』と顔をうずめた。
変態と言うよりは、母親に甘える子供に見える。
……………………
……………………
その日の夜。
「お嬢様……」
カリーヌがぬっと迫ってきた。
「何? カリーヌ、なんか怖いんだけど」
「私を変態と罵っていただいても構いません」
なんか、これを聞いた瞬間覚悟が決まった。
なんとなく来そうな気がしていたのだ。
リタはそのままベッドに押し倒される。
「え? ひっ、ちょっと、怖いから」
そこにカリーヌがぼふっときた。
「確かに安心できます!」
「私は安心できません!」
「凄く安心です」
リタの胸は安心できそうなほど大きくない。
顔をうずめるには明らかに足りていない。なのにカリーヌはこれが良いという感じに見える。
「カリーヌ、なんだか変態っぽいですよ」
「変態でも良いのです。これが私の幸せです」
”幸せ”。貴族令嬢として生まれ、貴族令嬢として育てられたリタには、それ以外の生き方は選択肢として存在しなかった。
だが、もはや家や領民のために働くことも無いマルグリット(リタ)は他人の幸せのために働けない気がしていた。
「こんな私でも、誰かを幸せにすることができるのですね」
「何を言っているのですか、私の幸福はお嬢様とお会いできたことです。
私にとってはあなたが……」
正直、リタ(マルグリット)は自身に貴族令嬢という肩書以外の価値を感じていない。
そして、その貴族令嬢という肩書が無くなった。
もう、何も無い。たぶん、普通の平民の方がリタよりよほど役に立つ。
「今の私にそんなに価値があるのかな?」
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これはカリーヌにとってショックな言葉だった。
カリーヌが価値を認めているのに、その言葉が届かない。
「そんなこと言わないでください。私は、私にとって……」
カリーヌが泣いた。たぶん、はじめて見たと思う。
※こういう泣き方ははじめて見たという感じです。
泣かないと思っていた人物が泣くのを見るのはかなり衝撃的なことだということを理解した。
何かが心に刺さる。
「カリーヌが人前で泣くなんて」
「お嬢様の前で泣くのは失礼かもしれませんが、私は他の場所で泣きたくはありません」
「ええ。カリーヌ。泣くなら私の前で泣いてください」
「それに、お嬢様の価値を認めている私の前で、ご自分の価値を否定しないでください」
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そうか……カリーヌはいろいろできるのに、私はできることが多くない。
貴族令嬢という肩書を失った私には、あまり価値は無いと思った。
だから、そう言っただけのつもりだった。
でも、カリーヌは価値があると言っている。
結果的に、それを否定することになってしまった。
変態っぽいとなどと思ってしまった自分が情けなく思える。
年上とは言え、1歳しか違わない女の子が命懸けで助けてくれた。
もう貴族令嬢でも何でもなくなって、身の振り方を考えていたけれど、必要としてくれる人のために頑張りたい。
価値があると胸を張って言えるようになりたい。
「魔女様の髪を強引にでも洗って差し上げましょう」
「どうしたのですか? 急に」
「カリーヌの髪はとても良い匂いがします」
カリーヌは察した。
「はい。私もお手伝いさせていただきます」
……………………
「…………で、カリーヌ、これはいつまで続けるのですか?」
「私が安心できるまでです」
(私は安心できません)
もぞもぞするけど、温かくて眠くなってきた……
※結局、リタ(マルグリット)さんが寝落ちしてしまいました。




