3-4.釜と火炙り(2)
カリーヌの目的を知った後に体を洗ってもらうのは、なんだかとても気まずかったけれど、髪を洗うのを手伝ってもらえるのは、とても助かる。
※これはリタさんが、髪の手入れが面倒な状態にしているのと、
一人で髪洗った経験が無いので大変だと思っているだけです。
「ああ、良かったー。髪は一人じゃうまく洗えなくて。
どうせ社交会とか行かないし、もう短く切っちゃおうかな?」
リタは実際にそう思っていたが、カリーヌは即否定する。
「それを切るなんて、とんでもありません!」
「でも、面倒じゃない。
町の人と同じくらいにすれば、目立たなくなるし。
いろいろ便利だし、わたし、髪、短く切ってみたかったのよね」
「それを切るなんて、とんでもありません!」
「そう?」
とはいえ、切ろうと思った理由にブラシが引っかかるようになったというのがあったので、洗髪剤が手に入り、洗髪を手伝ってもらえるようになった現段階では、多少なりとも改善はしていた。
「でも、本当に洗髪剤が手に入って良かった。困ってたのよね。
すぐブラシが通らなくなっちゃって。
カリーヌは髪いつもどうしてるの?」
「はい。凄く面倒だと思ってますが、私が短くすると、お嬢様も短くしそうなので頑張っております」
「あ、そうなの? カリーヌってこんなによくお話するのでしたっけ?」
「はい。今、主人に捨てられそうなので、必死に縋りついているところです」
捨てようと思っているわけでは無い。
ただ、この先のことを考えるとちゃんとした貴族の侍女になった方がカリーヌのためになると思っているから、そう言っているだけだ。
「以前から思っていたのだけれど、あなた、ときどき、
そうやって責めるような言い方するところあるわよね」
「はい。失礼かとも思いましたが、敢えて真っすぐに伝えさせていただきました」
「主従の関係は別として、私の方から急に遠ざけたりはしないですよ」
「私は今の関係で良いのですが」
「私は主従関係よりも、もっと親しい友人になりたいの」
「はい。私も親しい友人でありたいと願っております」
リタは既に侍従を持つ貴族令嬢では無いので、カリーヌとはもっとお友達のようになりたいと思っていた。
好きの意味合いについては多少の相違はあると思うが、リタがカリーヌを好きなのは本当だ。
「急にいろいろあって驚いただけで、よく考えたら私もカリーヌのこと好きなのよね。
たぶん、お母様が亡くなる以前から、一番親しい人だった。
生きてこうして会えて本当に良かった」
----
「お嬢様……」
そう言ってもらえるのはカリーヌとしても有り難いが、わかっていない。
好きだという気持ちは本物だが、侍従にとって生活のほとんどは主人のことなのだ。
特にカリーヌは自分から望んでマルグリットお嬢様の侍従になった。
お嬢様が居なくなったら、カリーヌの生活のほとんどは無くなってしまう。
でも、自分が死んでも、お嬢様の生活のほとんどが無くなったりはしない。
もちろん、お嬢様が居なくなれば……或いはお仕えすることができなくなったら、
別の貴族の侍女にでもなるのかもしれない。
ただし、そこに自分の幸せがあるとは限らない。
実際のところ、おそらく、そこに自分の幸せは存在しないと思っている。
本当はそうではないのかもしれない。
それでも、自分がそう思っているのは紛れもない事実だ。
……………………
「私が終わったらカリーヌも洗って差し上げます」
「良いのですか?」
「良いと思いますけど?」
お互いの関係になれば、お嬢様の中の私の比率は増えるのだろうか?
……………………
……………………
リタはカリーヌの入浴を手伝うことはできたのだが、見事に服が濡れてしまった。
「どうしてかしら? 服がびしょびしょに……」
「はい。湯が跳ねないようにかけないと服が濡れるのです」
カリーヌはこんなに服が濡れたりしていないと思う。
「はあ、本当に私は何もうまくできないのですね」
「慣れないことですから仕方ありません。嫌でしたら私は一人でできますから」
「でも、一人で髪を流すのは大変ですよね」
「はい。ですが慣れていますので問題ありません」
そうは言っても、リタは、もう一方的に世話をしてもらうという関係にしたくない。
----
二人の想いは少々すれ違っていた。
……………………
……………………
「魔女様、遅くなりましたが、お湯用意してあります」
「うむ」
「お体洗って差し上げましょうか?」
「不要じゃ」
凄くあっさり断られた。
「髪は一人じゃ無理じゃないですか?」
「不要じゃ」
凄くあっさり断られたが、不要には思えない。
魔女様、明らかに髪をまともに洗えていないのよね……リタはそう思っていた。
髪のお手入れが全く行き届いていない。
だが、魔女様の興味はそこには無かった。
「それよりお主、なぜ火炎輪が使えるのじゃ?」
釜の火のことだ。何故使えるかと言われてもリタには分からない。
そういう道具だと思って使っていた。それが全てだ。
「釜の火のことですよね?
知りません。私は火が出る道具だと思って使ってました」
「おかしいのう? 魔女でも無いのに火炎輪が使えるはずは無いのじゃが」
リタはいつ魔女になったのか全く心当たりが無い。
使える人と使えない人が生まれたときから決まっているというのであれば、
生まれたときから魔女だったのだろう。
もし、親から受け継がれるような能力だとしたら?
過去に魔女の森に入り、魔女様と会うことができたのは、リタの母とリタだけ。
生まれたときから魔女だったのではないだろうか。
仮に使えるにしても、火炎輪は物騒なので、他の魔法の方が良かったと思う。
「おかしいと言われると、なんだか凄く嫌なのですけど。
火炎輪? なんだか物騒に聞こえますし」
正直なところ、そんなものが使えると、火炙りにされそうで怖い。




