1-4.貴族令嬢暗殺 逃走(4) 商談
やはり相当疲労していたようで、昨日は横になってすぐに寝てしまった。
だいぶ遅くまで寝ていたようだ。
服は昨日着ていたものそのまま。
普通の町民にしか見えない服装だ。ただ、逃走の過程で、酷く汚れ、あちこち破れている。
リタは日頃からときどき町民に紛れて町に出かけることがあったので、ある程度着慣れた服ではあった。
ごくごく普通の服だったが、ここに来るまでに見事にボロボロになった。
髪もバサバサで、この姿で人前に出るのは失礼だとも思うが、この状況では仕方がない。
魔女様が気にするかもわからない。
「おはようございます」
「おお、起きたか。疲れは取れたか」
「はい。おかげさまで」
そう答えたものの、疲れが取れたどころか体中が痛い。
朝食は、昨日の夜とほとんど同じ。
これも母から聞いていた。毎日メニューは変わらない。
そして、魔女様は料理が得意ではない。
……………………
食事が終わると遂に商談に入る。
「服はすぐに確認しますか?」
「うむ。新しい服が楽しみで待っておった」
魔女様はなぜか、町で簡単に手に入るような品を待ちわびている。
だから、魔女様が望むものをいくつか提供し、しばらくの間匿ってもらう交渉をするつもりで来た。
ところが、大きな誤算があった。
魔女様の20年前の背格好はわかるものの、その後20年でどのように変化したのかは全くわからなかった。
20年経てば、当然20歳分歳をとるはずなので、中年女性が着るような服を持ってきた。
しかもリタが持ち込めたのは1着のみ。
しかし、偶然にも、リタと体格が近いため、リタが自分の着替え用に持ってきた1着が、おそらく魔女様にも着られるはずだ。
「母と同じくらいの歳と聞いていたので、ご婦人用をお持ちしましたが、
魔女様にはこちらのほうがお似合いではないかと」
そう言って、リタが自分の着替え用に持ってきた服を見せる。
「これは私が着替え用に持ってきたものですが、サイズも合いそうです。
新品ではございませんが如何でしょうか?
魔女様の好みがわかれば、追加で用意することも可能です」
魔女様は、あまりピンと来ていないような感じに見える。
「若い娘と、中年女性は着る服が異なるのではないか?」
服が若すぎると言っているようだ。
だが、魔女様の実年齢は置いておくとして見た目の年齢的には恐らくこちらの方が合いそうに思う。
「はい。ですが、魔女様は私の歳に近く見えますので、こちらの方がお似合いかと」
「はて? わしは45歳位じゃったと思うが」
「とてもそのような年齢には見えません。私と変わらないような歳に見えます」
「おぬし、歳はいくつであったか」
「15です」
「わしが15歳の娘と変わらぬような見た目をしておると言うのか?」
これはリタにとっては相当違和感が大きい。
あまり良いものでは無いが、十分な大きさの鏡がある。
その鏡の前で話をしているのに、なぜわからないのだろうかと疑問に思う。
「はい。鏡を見ても分かりませんか?」
「わしはずっと一人で暮らしてきた。
毎日少しずつ変化するものを見ても分からぬ」
これを聞いてリタはさらに疑問を持つ。
毎日鏡を見ていれば変化はわからないかもしれない。
だが、15歳と45歳の差はわかるのではないかと思う。
魔女様自身は45歳くらいと言っているが、リタが母から聞いた話では、40くらいのはずだ。
「45くらいと言われますが、生まれた年が何年かお判りでしょうか?」
「17年」
「17年ですか?」
17年生まれであれば、45歳ではない。もっと上の筈だ。
「違ったか?」
「はい。今は75年ですから計算上は58歳ということになります。
魔女様はそのようなお歳には見えません」
「この地に逃げ込んだのが11歳の頃。それ以来、人と話したことはあまりない。
人は年を取ると見た目が変わるのは知っておる。
じゃが、何年でどのように変わるのかは知らぬ。
わしはこれが普通の45歳だと思って居った。
58歳というのはおかしく思う。
17年生まれという記憶が間違って居るのかもしれぬ」
魔女様の歳に関しては、以前から謎があった。
母は今から20年少々前の時点で15歳程度だったと言っていた。
ところが、魔女様の森は110年前にできた。
そして、魔女様は20年経っても、見た目的には歳をとっていない。
魔女の森ができたときから、この魔女様が住んでいたとしたら?
旧暦の17年だとしたらどうだろうか?
魔女様は11歳のころにこの森に来たと言っている。
だとすれば110年。
魔女の森は110年前からある。計算上はぴったり合う。
「魔女の森は110年前からあると聞いています。
110年前に魔女様が11歳で、それから110年経ったとすれば計算が合います」。
「110年? はて? わしは35年くらい前に、この森に逃げ込んだ」
結局、魔女様が何歳なのかはよくわからない。
とにかく、服は現状の見た目に合わせるのが良いと思う。
魔女様は、中年向けの方が目当てなようなので、とりあえず試着する。
着替えの際に下着を見ると、ちょっといろいろ酷かった。
布が無いのだから仕方が無いが、蔓草を編んだようなもので、平民でもこんなものは使わないだろうと思うものだった。
早急に下着を用意したい。
リタは他人の着替えの手伝いなど、生まれて初めてやった。
今までは自分が手伝ってもらう側だった。
この服は町民が着るものなので1人で着られる簡素な物だ。
リタが着替えを手伝うのがはじめてであっても困らなかったが、複雑な気持ちになった。
リタは貴族令嬢であることに誇りを持っていたりというタイプではないが、
それでも、自分の立場が一気に変わったということを実感する。
「中年向けのものは、やはりお腹周りが合わないようです」
魔女様は楽に着られる服を望んでいることはわかっていたので、多少太っていても着られるようなものを選んで持ってきた。大は小を兼ねる。
リタにサイズ直しの技術は無い。着られなかったら、そこで話が終わってしまう。
着られないものよりは、多少サイズが合わずとも着られるものが良いと考えた。
だが、それが見事に裏目に出た。
調整できる範囲で目いっぱいまで絞っても、腰が余ってしまい全く合っていない。
だらしないシルエットになってしまう。
それに、デザイン的にも、見た目の年齢と全く合っていない。
「サイズがわからなかったので、少々余裕のあるものを選びましたが、
魔女様は私と同年代の体形です。
こちらの方が良くお似合いだと思いますよ」
リタが自分の着替え用に持ってきた服を見せる。
早速着ると、サイズもほぼぴったりだった。
「わしも、こっちが合うように思う」
早速着せるが、思った以上にサイズぴったりだった。
「よくお似合いですよ」
「そうか、それではこっちにするか。
こっちも貰って良いだろうか?
交換の品は2着分持って行って良い」
リタにとっても、その方が都合が良いが、ご婦人向けの方は魔女様には必要無いように思う。
2着欲しいというのはよくわかるが、サイズの合うもののほうが良いと思う。
「はい。もちろん、それはかまいませんが、
2着ご所望であれば、お似合いの品を
もう1つ別に用意した方がよろしいように思いますが」
これに魔女様は即答した。
「お主が戻ってくるとは限らぬから」
その言い方では二度と近寄らなかったように聞こえるが、母はちゃんと服を届けようとした。
が、森に入れてもらえなかったのだ。
だがリタも同様に、一度出たら二度と入れないかもしれない。
……………………
「交換に何を持っていく?
この石は持ち運びやすく価値が高いと言って居った。
獣であれば、この森に居るようなものであれば望みのものを狩ってこよう」
ここが勝負所だ。
魔女様は物々交換で何を持っていくか選ばせる。
リタの望むものは決まっている。財宝で命は守れない。




