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プロローグ



 ──何かに吹き飛ばされた。そう認識した次の瞬間には少年は地面に横たわっていた。


 なんだ? 一体何が起きて……。


 体を起こし状況を探ろうとして──体に全く力が入らないことに気づく。腰の下に違和感を感じ、なんとか視線だけ動かせば信じられないものを見た。


 足が……下半身が、無────!


「あ──────っっっっ」


 その状態に気づくとともに、気を失いそうになる激痛が体に走る。痛いなんて通り越した灼熱のような熱さ。叫ぼうとして、しかし声が出ない。代わりに出たのは喉奥からせり上がってきた血液だけだ。


 何なにナニ!!? 俺の体、いったいどうな、いやそれよりこれ──。


 死ぬ、と少年は悟った。それは抗いようもない純然たる現実として自分の身に振りかかったのだと少年は否が応でも認識されられた。


「………………」


 死ぬのだとわかった途端、猛烈な眠気が襲ってくる。痛みすらももはや感じない、絶対的な睡魔が少年の意識を刈り取ろうとする。


 ああ……これが死ぬってことか……。


 瞼すら閉じる力も残されてない中、漠然とそんなことを思う。


「──朝霞あさかくん!」


 霞んでいく視界に、誰かが映り込む。その顔を、少年は知っている。


 宮下みやした、さん? と出そうとした声は、唇すら動かすこともできず何も発せられない。同じクラスの前の席にいる同級生が、泣きそうな顔で覗き込んでいるのを少年はただ受け入れることしかできない。


「朝霞くん! ごめ……お願い! 死なないで!」


 いやぁ……それはちょっと無理なんじゃないかなぁ。


 思わず少年は笑ってしまいそうになる。


 しかし彼女はただのクラスメイトのために泣いてくれているのだと思うと、少し罪悪感が湧く。


 だから、せめて──。


「──ぁ……」


 なんとかして声をひねりだそうとする。


 それに気がついたのか少女は少年の顔に耳を寄せた。


 ありがたい、と思いつつ、少年は最後の力を振り絞る。


「だい……じょ……ぶ」


 何が大丈夫なのか少年にも全くわからなかったが、出てきた言葉はそれだった。


 死にゆく人たちが、残される人たちに泣いていてほしくない理由が、なんとなくわかった。多分安心させたいのだ。悲しんでほしくないのだ。


 彼女は少年の言葉を聞くと、何か決意を固めた表情で立ち上がる。


「──!」


 次の瞬間、彼女はピンク色の髪色と白を基調とした衣装を纏っていた。


 顔を上げ、星のような光の残滓だけを残して走り出し、少年の視界から消えていく。


 ……死に際に見る幻覚にしちゃ上等ではあったと、少年は頬を動かそうとして、できないことに気づく。


 流石に、もう終わりか……。 


 闇色に染まっていく視界に身を委ね始めた。眠気ももう限界だ。


 さようなら、現世──。





 ………… 


 ……………………


 …………………………………………


 ……………………………………………………………………………………





「おや? 何やら面白いものが落ちてるじゃないか」


 年季がかかった男の声が響く。その声の割には、おもちゃを見つけたときのような、楽しげな声だった。


 救急車とパトカーのサイレンが近づいてくる中で、黒衣のマントで身を包んだ人形ひとがたが上半身だけの少年の体を見下ろしている。


 黒衣の声に少年は反応しない。もう耳も聞こえなくなっているだろう。




「どれ、少しお手伝いしてやろう」




 黒衣の男は懐から、黒い宝石のようなものを取り出す。オニキスに似た親指大ほどの大きさの宝石を黒衣の男は、少年の体に落とした。体に跳ねるわけでもなく、宝石は沈みゆくように少年の体に入っていく。


「どうなるかねぇ」


 愉快そうな声を残して、黒衣の男は姿を消した。



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