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テクノロジーを語る勿れ  作者: 城西腐
Prologue
2/14

第2話

 奇抜さを抜きながらも発色の良い紫色の花柄のワンピースに、なだらかにウェーブのかかった肩元までの長さの栗色の髪は手入れが十分行き届いている。後ろ姿からみる頭のてっぺんからミュール踵までのシルエットは、まるでドレスアップを施したアバターのように完成されている。肩から掛けた黒のレザーバックは重さを感じさせない。この日のコーディネートに合わせてセレクトされたもので、決して毎日手提げていて使い古された感は皆無だ。

 信号が変わり動き始めた人の群れの中で、奇遇にもその対象は周囲の人々の歩くスピードよりも小さな歩幅で、スローテンポで特段急ぐ様子も無く歩みを進めた。直感的に歩くスピードを合わせて声を掛けるしかないと、広木は背中を押さる衝動に駆られる。流石に人の群れの中で声を掛けて、部分的にでもその会話のやり取りが周囲に聞き取られるのは本意ではない。後方にチラホラと人影はあるものの、これくらい疎だと取るに足らないものだ。


 後方から出来るだけ自然にその対象と距離を縮めながら、広木は横に並んだタイミングで声を掛けた。

「すみませーん。帰宅されてる感じですか?」

「!?」

「あ、いや。全然怪しい者じゃないです。同じ方向の方かなって」

「フフ…(笑)」

 前方を見据えて足を止めないその対象が動じずそう返す。大体の場合、突然声を掛けられると少なからず驚いた様子を返されるのが常だがそうではなかったため、広木は次の一手をどのように繰り出すべきか一瞬たじろいだ。そうしながらもせっかく切り出した流れに何とか立てつける。

「歩きながらで全然OKです、ちょっと喋って良いですか?」

「良いですけど、何ですか?」

「いや、何でもないんですけどね(笑)」

「罰ゲーム!」

「まさか。それだと茶化してるみたいで流石に失礼だと思います」

「そうでなくても、知らない人が急に声掛けて来たら、皆びっくりしちゃいますよ?」

「それは確かに。驚かせてしまってすみません」

「早く帰った方が良いですよ?」

「はい、帰りながら喋れば良いかな?みたいな(笑)」

「暇なんですか?」

「まぁ暇です。帰宅ついでにというか、最近引越して来てこの辺に友達いないんですよ。お姉さんは元々この辺の方ですか?」

「昔からこの辺住んでますけど?」

「じゃぁこの辺のこと色々教えてください(笑)」

「駅前に出れば色々ありますよー(笑)」

「でしょうね(笑)」


 広木は会話を通して見定められている感を覚えながらも、得体の知れない者対してそれは不可避だろうと、そんなことには気付きもしない素振りで取り繕う。完全に無視をされる訳ではないが気の無い返しで応じてくれるのをプラス捉えて、会話を発展させる糸口を探る。

「今日はもう遅いのでこのまま帰るしか無いと思うんですけど、友達になって頂けませんか?」

「お友達ですか?」

「まぁ一度食事とか何かで時間作るとかして、つまんなかったら放置して下さって大丈夫です」

「別に良いですけど、もっと若い子にそうやって声掛けた方が良いんじゃないですか?」

「いや、お姉さんも僕とそんな変わらないでしょ(笑)」

「いえ、私大分歳上だと思いますよ?」

「だとしてもお姉さんと仲良くなりたいんです。綺麗なお姉さん好きです(笑)」

「仲良くなれるかしら」

「なれますよ、今こうして普通に会話成り立ってるくらいですし」

「成り立っている?大分強引だと思うけど」

「良いんですよ、細かいことは。連絡先を交換しておかないとですね!」


 友達になるということはそういうことだろうと広木は切り出し、一瞬怪訝な反応を返されるのも見なかったことにして引かずに続けた。

「まぁ、気が向かなかったら連絡入れてもシカトしてもらって良いですから(笑)」

「そういう手口ね。別に良いけど、連絡マメじゃなくても良ければ」

 そういう流れになるのかと、納得行かなそうな様子で返されながら、畳み掛けるように続ける。

「携帯電話ちょっと貸してください、直ぐに済みます」

 手渡された携帯電話から自分の携帯電話の番号にコールして着信を確認する。続けてメール送信画面を開き、自分の宛先を素早く入力して空メールを送信すると、同じようにその場で受信したのを手元の携帯電話で確認した。

「キョウコさん!」

 メールアドレスからそのように見て取れたので、当てずっぽでも言うようにそのまま読み上げる。

「当たり」

「漢字は?このまま登録しちゃいます」

「あんずに子です」

「『杏子さん』っと!僕は広木です、そのまま登録しておいてくださいね(笑)」


 最後は少し強引だったかと思いながらも、こういう時は手際の良さが肝心なのだと、広木は構わずその場で杏子の名前と電話番号、メールアドレスを交換した。その小慣れた様子に、杏子は最初こそ軽蔑したような顔色を浮かべたようだったが、最後は吹っ切れたとも感心したとも取れる表情に変わっていた。

「どの時間帯なら暇しているとか、メールで都合合わせましょっか!」

 広木にとっては初対面でここまで出来れば上出来だった。これまでのやり取りで有りのままに人となりを晒しており、それ以上取り繕いようがなかったし掴みも悪くはない。


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