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テクノロジーを語る勿れ  作者: 城西腐
Prologue
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第1話

 神奈川県のとある駅前の商業施設に隣接するタワーマンションのエントランスをくぐり抜け、指定されたエレベーターホールに辿り着いた。駅からはこのマンションに向けて綺麗に整った連絡通路が結ばれており、雨が降っていても居住者は濡れずに駅と商業施設と住居間を行き来出来そうだ。外から眺める分には微妙に高さの違う縦長の立方体が3棟、ただただ頭上に高くそびえているに過ぎなかったが、いざその敷地に足を踏み入れてみると、エントランスから各棟の居住エリアを繋ぐエレベーターホールが複数に散らばっている。更に同じエレベーターホールからも押下する向かい先のフロアのボタンに依っては、また上層階と低層階向けとで開く扉が異なるようだ。場違いなところにやって来たなと広木は思う。


 就職して社会に出るのをきっかけに、このタイミングでなければ一生実現はしないことだろうと踏んで、広木は地元を離れて首都圏へと移り住みソフトウェアハウスへと就職した。社会人となって始めの何年かを都市部で経験を積み、地元に近い地方都市へ身を移せばそのキャリアをアドバンテージに無双出来ないかというのと、企業の規模や程度はさておき、地方にいるよりは首都圏へ行けば色々と世界も開けるだろうという安易な目論みだった。確かに考え方に依ってはそれも部分的には間違いではなかった。けれども多感な時期故に外を見れば見るほど、自身の身を置く境遇と理想とのギャップに次第に違和感を覚える日々を送るようになり、仕事に慣れ始めた頃にはこの環境に留まって安生するわけにはいかないと、広木は周囲とも適度に距離を取りながら内に秘めたものを大事に抱えるように、日々の業務の傍らひっそりと転職活動に勤しんだ。そしてハッタリを咬ましながら転職を重ねることで、間に別の一社を挟みながらも広木は難なく外資系の名のあるIT企業へと所属を移すことが出来た。だがそこは、前職の先輩社員に言わせても「そんなところ何かの間違いで入ることが出来たとしても、ハードワークで5年持つ気がしないし絶対に行かない」であるとか、また別の知人からも「あそこは外資だから金払いは良いらしいが、例えば女性だと子供の産めない体になるらしい。まぁ都市伝説みたいなものだろうし、本当かは知らないが」などと揶揄された。実際に最終面接となるパートナー面談では、「ウチの社員は皆仕事はキッチリとやりますので、覚悟しておいてください」と添えられながら、その場で内定を告げられた。確かに転職後は身入りとしてそれまでの3倍近くも手取りが増え、給料日には代官山や表参道の路面店で洋服や革靴をたくさん買い込んだ。


 そうして地元を離れてから早くも3年と半年が過ぎようとしている。ろくにスキルも身につかないまま転職を重ねた皺寄せなのか、案の定前職の先輩社員に事前に指摘されていたように長く在籍していられるのかといった暗雲がチラつき始め、広木は事あるごとにジワジワと傍に追いやられているような気に苛まれるのだった。事実2回目の転職後、入社から半年程した頃に急性腸炎を患い半月の間医師から出社を止められた。メンタルへのダメージがそのまま分かりやすくフィジカルへも影響することにショックを受け、その半月は落ち込みながら過ごした。

 ちょうどそんな時に差し掛かろうとバタバタした日々のさなか、広木は帰宅途中に杏子と出会った。出会ったといっても、駅から自宅までの帰り道にたまたま視界に入った杏子の後ろ姿に広木から声を掛けたのだった。

 駅の改札を出て直ぐの横断歩道の信号が変わるや否や、一斉に横断歩道を渡ろうとする同じ方面の帰路に着こうとする群れの中で、ヘアスタイルや着ているものだけでなく、体のラインも含め後ろ姿がひときわ目を引いた。


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