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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

童話 黒い大きなイヌ

作者: 黒い大きな狗

よくロックバンドとかがバンド名と同じ名前の曲をレパートリーにすることがありますよね。

アイアンメイデンとかX JAPANとか。

そんな感じで、私もペンネームと同じタイトルの話を書いてみました。

 ここは町はずれの保健所。

 今日も捨てられたイヌたちが連れてこられます。

 トイプードルのマロンも、その一匹でした。


 縮れた栗色の毛におおわれたマロンは、「収容室」のプレートのあるオリに放り込まれました。


 オリの中には、十数匹の先輩イヌたちがいました。

 オリの外に向かって吠えているイヌもいれば、ふてくされたように寝ころんでいるイヌもいます。


 マロンが入って来ると、イヌたちはみな暗い目を向けて、新入りをひと睨みしましたが、やがてふたたび、めいめい勝手に過ごし始めました。


 マロンは思いました。

(ここがイヌたちの間でウワサになっていた、『ホケンジョ』か。クソッ! オイラもヤキがまわったもんだ。いいぜ。模範イヌになって、こんなとこ、さっさと出てやるさ)


 しばらくすると、エサが運ばれてきました。イヌの頭数分の皿に、それぞれのイヌの体重に合わせた量が取り分けられていました。

 マロンの前に、エサが盛られた皿が置かれました。


(よかった。メシだけはまともそうだ)


 少しだけ嬉しくなったマロンは、エサに口をつけようとしました。


 その時、一匹の、やたら目つきの悪いブルテリアが、マロンの前に立ちました。

 全身が白く短い毛に覆われていて、顔の左目のあたりだけ黒いワンポイントがあるイヌでした。


 ブルテリアはマロンの前で、片足を上げて、マロンのエサに小便を引っ掛けました。

 エサはべちゃべちゃになり、臭いにおいがついて、とても食べられなくなってしまいました。


「なにすんじゃいワレェ!」


 マロンは腹を立てて、ブルテリアに飛び掛かって噛みつこうとしました。

 しかしブルテリアはマロンの倍くらいの大きさなので、もみ合っているうちにマロンの方が噛まれそうになりました。


「ガウッ!」


 もうだめだと思った瞬間、黒い毛むくじゃらの大きなイヌが猛然とダッシュしてきて、ブルテリアに噛みつきました。


「ギャウン!」


 ブルテリアは情けない声をあげ、すごすごと自分のエサの皿があるところまで戻りました。


「あ……ありがとよ……」


 マロンは、黒い大きなイヌにお礼を言いました。

「いいってことよ。おめえさん、トイプーだろ? 目ェつけられてるぜ」

 黒い大きなイヌは言いました。


「あいつはブルテリアのムギ。ニンゲンのガキに噛みついて大けがさせちまった『咬傷犬(こうしょうけん)』なもんだから、どの道、もう貰い手はねえのさ。あいつにくらべりゃあ、おめえさん、トイプーだからな。おめえさんみてぇな人気犬種は、どうせすぐに次の貰い手が現れるだろうから、気に喰わねぇんだろうよ」


「クッソッ! あの野郎!」

 マロンは、離れたところにいるムギに向かって、歯をむき出しました。


「まあ落ち着けって。ところで、コレあるかい?」

 黒い大きなイヌは、口元でピースサインをしながら尋ねました。

「ああ、ほらよ」

 マロンはタバコを取り出して一本渡し、火を付けてあげました。


「フーッ……こんなもんでも吸()()と、やってらんねえからなあ」

 黒い大きなイヌはおいしそうに一服すると、言いました。


「オレは雑種のクロ。おめえさんは?」

「オイラはマロン。見ての通り、トイプーでさぁ」

 そう言うと、マロンもタバコをくわえて一服しました。


「なにがあった?」

「ああ……オイラは『ペットショップ』ってとこにいたんですがね。ご主人様が、『フサイだ』『トウサンだ』とか言い出したと思ったら、ある日突然、帰ってこなくなって、それでこのアリサマでさぁ」


 マロンは自分の身に起こったことを話しました。


「そっか。そりゃあ難儀なこった」

 クロさんは、煙を吐き出すと、言いました。


「オレは『タトウ・シイク・ホウカイ』ってとこから来た、タトウ(モン)さ。前のご主人様は、イイ人だったんだが、寂しがりやすぎて、捨てイヌを見つけちゃあ考えなしに拾ってきて、そんで狭い家の中は数十匹のイヌでギュウギュウよ。ガキも()()さか生まれてなぁ。、オレも、その一匹さ。そのうち、ちょっと歩けばイヌの死骸に当たる、地獄になっちまった。で、ある日、ご主人様が動かなくなっちまってな。そんで、ここに連れてこられたってぇわけよ」


「そいつぁエグいっスね……」


 クロさんが煙を吐くと、マロンも真似をするように煙を吐きました。

「そこに比べりゃあ、ここは天国みたいなもんだけどよ、やっぱり、どうしてもケンカは起きるからな。そこで頼みがあるんだが、オレと組まねえか? あのムギに対抗するには、協力しねえ手はねぇぜ。共同戦線、安全保障ってやつよ」


「ああ……かま()()スよ。助けてもらった借りがあるんでね」

「ありがとよ。おめえさんが新しいご主人様に貰われていくまででいいから、よろしく頼むぜ」


「ま、オイラはどうせすぐに次のご主人様が決まるでしょうがね。でもクロさん、あんただって、勇敢なイヌじゃないですか。あんたも、きっといいご主人様に巡り会えまさぁ」


 しかし、その言葉を聞いたクロさんは、悲しそうな目をして言いました。

「それはねぇよ」


「えっ……でも……」


「ニンゲン様はな、オレみたいな黒くて大きいイヌは、好きじゃねぇんだ。そりゃあ、ゴールデン・レトリバーとか、グレートデーンとか、血統書付きの上級イヌとなりゃあ、黒くて大きくても引く手あまたさ。でもな、オレみたいな、黒くて大きいだけの、つまんねえ雑種は、見向きもされねぇ。


 オレは、ここに放り込まれたときから、ずっと見てきたんだ。『ジョウトカイ』ってやつで、人気の犬種のヤツらは次々とニンゲンに貰われて行く。その一方で、オレと姿かたちが似ている、黒い大きなイヌどもは、あいつら、てんで無視よ。


 誰にも貰われなかった、そういう余りモンが、どうなるか知ってっか? ある日突然、引っ張り出されて、『ドリームボックス』って所に連れてかれるんだ。連れてかれたヤツは、誰も、二度と戻ってこなかった。オレだって、もうすぐ、そうなるんだろうよ」


「ど……どうなるんスか? その、ドリームボックスってぇ所に連れてかれたら?」


「ああ。間違いなく、アレだな」

「アレっスか……」


 二匹とも、タバコを深く吸って、ため息と一緒に煙を吐き出しました。

 紫色の煙と白い煙が、ゆっくりと天井に昇り、エアコンに吸い込まれて行きました。


 ところが――――

 ちょうどその頃、

 人間の世界では、奇跡が起きていたのです。


 とあるテレビ番組で、何の罪もない黒い大きなイヌたちが人間に嫌われて、貰い手がなかなか現れないという事実が伝えられ、たくさんの黒い大きなイヌたちが処分される様子が映し出されました。


 番組の司会者は、言いました。


「みなさん、これは、現実に起きていることです! こんなことが許されるのでしょうか? 

わたしたち一人ひとりが胸に手を当てて考えなければいけない問題です!」


 番組は大変な反響を呼びました。


 人々は口々に言いました。

「かわいそう」

「なんて残酷なんだ」

「ウチで引き取りたい」


 SNSも、バズりまくりました。

「#黒い大きなイヌを救え」

「#黒い大きなイヌを引き取ろう」

「#黒い大きなイヌ最高!」


 人間の世界では、またたく間に、BBDLM(ビッグ・ブラック・ドッグ・ライブズ・マター)運動が盛り上がりました。


 人間たちは、かわいそうな黒い大きなイヌを助けるのに夢中になりました。


 世界中の保健所や収容所から、黒い大きなイヌたちが、次から次へと新しい主人に貰われて行きました。


 世界のセレブたちは、引き取った黒い大きなイヌを、競うように自慢しました。


「トイプーなんてダッセーよな! 黒い大きなイヌのほうがかわいいよな!」

 イヌ好きの間では、こんな合言葉まで交わされました。



 そんなこんなで、マロンたちのいる保健所に定期譲渡会の日がやってきました。


 マロンの入っているオリの前に、五歳くらいの男の子を連れた、値段の高そうな上品な服を着た夫婦が立ち止まりました。


「あのコを貰おうか」


 父親が指さしたのは、クロさんでした。


「えっ、オレ? えっ、マジ? ウソ!」

 クロさんは困惑のあまり、声が上ずりました。


 保健所の飼育員がクロさんの首輪にリードを取り付け、出口まで引っ張りました。


「あれ? ……来ちゃった? オレの時代?」


 クロさんは、残される仲間に、満面の笑みを見せつけました。


「いやー。おめえら、悪く思()()でくれよ。なんか、そういうことらしいんだわ。へへっ、かーっ、つらいわー。人気犬種はつらいわー。かーっ」

 クロさんは、調子をこきました。


 ちょっと前まで、あんなにシブかったのに、見苦しいほどのはしゃぎぶりでした。


 マロンは、譲渡会で絶対自分が選ばれると確信していましたが、理不尽すぎるこの現実を、呆然と見ているしかありませんでした。


 ところで、一緒にいるソバカス顔の男の子は、ちょっと不満そうでした。

「えー……これじゃなくて別のやつがいい」


「そんなこと言っちゃいけません!」

 母親が男の子をたしなめました。


「このコはかわいそうなコなの。私たちが助けてあげなければいけないのよ。黒い大きなイヌを助けるのは、良いコトなの。良いコトをすれば、みんなにほめてもらえるわ」


「そうだぞ」父親も続きました。「それに、SNSに、黒い大きなイヌと遊んでいる写真や動画をアップすれば、世界中のお友達から『いいね』をいっぱい貰えるんだ。楽しいぞ」


 クロさんをつないだリードが、笑顔の父親に渡されました。男の子はまだ不満そうでした。


 クロさんは、しっぽをちぎれんばかりに振って、ウッキウキで新しい家族についていきました。


 数日後。

 マロンは、いままでいた部屋からむりやり連れ出されて、もっと狭い部屋に押し込められました。


 マロンには、ここがどういう場所なのか、おおよそ察しがつきました。


 ブルテリアのムギも一緒でした。


「よお。タバコ、いるかい?」

 マロンはムギに尋ねました。


「そんなもん吸いたいとも思()()ね。オレは健康に気を使ってるんだ」

 ムギは答えました。


「そっか。意外だな……」


 マロンは天井をぼんやりと見つめながら、タバコを深く吸い込むと、ゆっくりと煙を吐き出しました。


 やがて、炭酸ガスが部屋に充満すると、マロンが持っていたタバコの火が、ひとりでにフッと消えました。


 さて、クロさんがその後どうなったかというと――――


 黒い大きなイヌブームは、あっという間に過ぎ去り、クロさんを引き取った家族も、やっぱりかわいくないということで、クロさんをロクに世話をしなくなり、ストレスが溜まったクロさんはイライラして子どもに噛みついてしまいました。


 あわれ、クロさんは危険なイヌということにされて、ドリームボックスに送られてしまいましたとさ。


最後までお読みいただきありがとうございました。

欲をかいて童話市場に食い込もうと思ってはみたものの、

私が書くとなぜかこんな話になってしまいます(泣)


前作「弱者男性をころす機械」とテーマが一部カブっていますが、

そのときのアイデアの残りカスを流用してショートショートにまとめたものなので、

どうしても似た感じにはなってしまいます。


それでは次回作(ペンを折ってなければですが)でまたお会いしましょう。

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