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ショートショート10月〜4回目

うまい水が私の人生を決めてくれた話

作者: たかさば

 うちの学校には、水飲み場が五箇所ある。


 テニスコートの横、体育館前、校舎一階にある一年一組の前、校舎二階にある二年四組の前、校舎三階にある美術室の横。


 トイレの水、手洗い場の水、花壇の蛇口の水は、飲んではいけないことになっている。なんでも、屋上のタンクの水だから生水で…おなかをこわすとか、なんとか。


 三階建ての校舎の各階にはウォーターサーバーがあって、年がら年中冷たい水が飲めるのだが、温度が低すぎるのが難点だ。夏は休み時間に列ができるし、冬は冷たすぎて凍えてしまい、使い勝手が悪い。


 体育館の入口の蛇口が六つある水飲み場は、この学校の創立のときに作られた年期もので、ボロボロのコンクリートはあちこち欠けているわ、排水口の流れが悪いわ、蛇口が錆びているわで、あまり使いたくない。


 イメージ的なものなのかもしれないが、テニスコートのところの水が、ものすごく…美味しく感じる。


 初めてテニスコートのところの水を飲んだのは、一年生の時……、ボランティア部で草刈りをしたあとの事だった。


 思いの外熱中してしまい、若干脱水症状が出てしまって…慌てて水をがぶ飲みした。

 やや冷たい、勢いよく溢れ出した水を口に入れた瞬間、そのうまさに驚いたのだ。


 なんというか、水が…活き活きしているというか、ぴちぴちしているというか。新鮮で、元気な、はしゃいだ水とでも言えば良いのだろうか。


 なんの味もしないただの水なのに、明らかにパワーがあって、おいしくて。


 あの日以来、私はずっと…テニスコートの水道の大ファンなのだ。


 ウォーターサーバーのように、冷やしすぎて味がぶっ飛んでなくて。体育館の水道のように、寂れたオーラが漂ってなくて。


 ……つくづく、うまい。


 毎日、必ず水を飲みに来てしまう程に。

 汲みたてのぴちぴち水を飲むために、マイコップを用意する程に。

 帰る前に一杯飲むのが習慣になっている程に。


 なんでこんなにおいしいのかな?


 たぶん、湧き水ではないハズ。

 ごく普通の、水道管だとは思う。

 井戸水…でもないよね。

 もしかして、名水だったりするんだろうか。

 でも、このあたりで水が美味しいという話を聞いた事はない。


 ……。


 ……水のこと、調べてみたいな。

 どうせ調べるなら……、本格的がいいよね。


 よし、きーめた!

 きっちり……研究したろ!


 ええと…水を極めるためには…、ふむふむ、理系の…環境科学科が良いのか。


 じゃあ、進路希望の紙は理系に◯つけよ!


 サクッと自分の進路を決めた私は、豪快に蛇口をひねり。


 マイコップになみなみと注がれたうまい水を、グビリグビリと飲み干したのだった。






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