表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
143/144

140 無から有は生み出せない

 さて、ユリストさんの元気が出たのはいいが、私にしがみついてガクブル震えてるレイシーをどうしたものか。私の心がペッパーミルで粉々に砕かれた胡椒のようになる前に離れてもらわなければ。既に粗挽きくらいにはなっているけど。


「そろそろ離れてもらってもいいです?」

「や、やだ……!」


 また一段階細かく挽かれた気がする。


「だって……アレ(・・)が聞こえたら……また……!」


 レイシーの発言から考えるに、セレナが近くにいることを察したディープワン達が活性化したのだろう。もしくは、あの咆哮を聞いて気絶しなかった代わりにパニック状態になったとか?


「み、みんな、人も宙族も関係無く暴れ始めて、人同士で殺し合ったり、それに、じ、自分で……!」


 続けて紡がれた言葉に、ああはいなるほどね、と一人納得する。

 要するに、セレナの咆哮によるSANチェックに失敗した際の狂気内容が殺人衝動だったり自殺衝動だったりして、控えめに言って地獄絵図且つ混沌とした状況になったということは想像に難くない。ご遺体を詳しく確認する勇気は無いが。

 それを運良くSANチェック成功したレイシーが目撃して追加SANチェックが入り、恐怖に駆られた彼女は馬車に閉じこもり籠城することになった、というところか。


 やや無理矢理彼女を引き剥がすと、レイシーは今にもギャン泣きしそうな絶望顔で私を見てきた。やめろ。地雷とは言え流石に可哀想になってきて「ちょっと厳しくしすぎたかもしれんな……もうちょい優しくした方がいいかな……」とか思っちゃうだろ。


「人魚の声は人を狂わせるって聞きましたけど……もしかしたら、そのせいでしょうか」


 ユリストさんの疑問の声に、「多分そうかもね」と私は答えた。


「原理としては他の宙族を見た時と同じで、とんでもない恐怖を感じてパニック状態に陥ってしまう……って所だと思う。そのパニックの行く末が単純に感情のオーバーフローから気絶したり、突拍子も無い思考回路に行き着いて皆死ぬしかないじゃない状態になったり、絶望した! ってセルフ命ないないしたり……って感じか」

「声だけで、ですか?」

「声だけで。それに、その突拍子も無い思考回路から、逆に崇拝対象となったりするパターンもあると思う。それが人魚に誘惑される的な話の正体じゃない?」

「何で冷静にそんなこと分析してんの!?」

「いや私は多少耐性あるんで」

「推しの声だと思ったら怖くなくなりました!」

「この人は単純に崇拝パターンね」


 あり得ないものを見るような視線を私達に向けてくるレイシーに、至極冷静に返事を返す。ユリストさんに関してはドヤ顔をしているけれど、うん、それ完全にフェティッシュ系列のやつだからね? さっきまでガクブルしてたのに推しの声だと分かった瞬間目ェキラッキラさせてんのは狂気のそれやぞ?

 推しは宗教。はっきりわかんだね。


 レイシーは小さく「えぇ……」と困惑した声を漏らしていたが、ややあって、何を思ったのかは不明だが、何故かまた私の傍に来てぎゅっと腕にしがみついてきた。

 ……いや何で!?


「やっぱ離れないでおく……!」

「えっ」

「だってアレに耐性あるんでしょ!? ってことは、アイツらを見ても、あの声を聞いても狂ったりしないアンタが一番安全ってことじゃん!」

「あ」

「あたしもうしばらくアンタから離れないからね!? 絶対守ってよ!? 護衛するって言ったんだから絶対守ってよね!」


 墓穴掘った。

 そう気付いた時には、レイシーは某神隠し映画の母親の腕にしがみついてトンネルを進む主人公の如くガッシリと私の左腕を掴んで離さず、絶対に離れない意志しか感じない状態となってしまっていた。

 腕に当たるうっすいおむねの柔らかさを服越しに感じる。なのに嬉しくないのは何でだろうなぁ。わかりきってるけどすっとぼけたいなぁ。流石にこの状況で「あなた地雷だから私から離れて」なんて真っ正面から言う非常識さは無い。


 たすけて。そう視線だけでユリストさんに訴えるも、ユリストさんは何か閃いたような顔で私とレイシーを見てい……いや閃くな!? お前三次元でもイケるタイプか!? やめろ!?

 そしてモズはというと、何か対抗心でも燃やしたのか、レイシーを睨み付けながらも右腕にしがみついてきた。動けないんだが!?


「そうくっつかれると身動きが取れないんで離れてください。ほらモズ、お前も離れて。動けないから」

「ねえちゃんが邪魔じゃあ言っとう。離れぇ、女」

「お前もだからな?」

「アンタさっき先頭って言われてたじゃん! あたしは護衛するって言われたからいいの!」

「良くないですけど?」

「……臆病な陰キャ女子と無愛想ショタから取り合いされるぶっきらぼうな年上女性。なるほどね?」

「ユリストさんは閃かないでいただけます?」

「僕今3Pに目覚めました」

「目覚めないで?」


 明らかにそういう場面じゃない状況で新たな性癖に目覚めないで欲しい。人が地雷に困ってるんやぞ!?

 とりあえずモズとレイシーを宥め賺して離れてもらった後、私は胃痙攣に効くかは分からないけれど、一応治癒のポーションを一つ飲んだ。気持ち程度にしか痛みが引いていない気がする。


 それから先程伝えた陣形で、私達は港へと向かった。

 道すがら聞いた話では、レイシーを連れていたはずのジュリアは現在別行動中で、ダニエル女公爵はスタンピードを食い止めるために自ら戦場に赴いたとのことだ。周囲の氷は、予想はしていたが全てダニエル女公爵のスペルによるものだそうで。やっぱ全部ダニエル女公爵一人で良いんじゃね?

 そうは思いつつも、いくらダニエル女公爵とはいえ宙族アレルギー、もとい宙族への拒絶反応からは逃れられないはず。それに彼女はディープワンだけでなく、港に現れたセレナごと討伐しかねない。


 港へと近づくにつれて、更に寒さが増していく。市場から漁港にさしかかると、明らかに体感出来る程の冷気を感じた。

 この辺りまで来ると、氷に飲まれている人影はほぼディープワンだけて言って良い。ごく稀に、漁師らしき大男の遺体が、船の残骸らしきものと共に守られているだけだ。


 戦渦の音はもうすぐそこから聞こえる。時折、氷の柱が天を貫かんばかりに生えてくるのが見える。


 そう、空高くそびえる氷の柱しか見えない。海が見えるはずの漁港は巨大な氷の壁によって阻まれ、船着き場への立ち入りを禁じられていたのだ。


 波の音、氷の音、それらは壁の向こうから聞こえる。

 この先に、セレナとダニエル女公爵は居るのだろう。


「こんな大きな壁……あれだけ街を氷漬けにしてたのに、こんな壁を作った上で戦う余力があるなんて、規格外にも程がありますよぅ!」


 驚愕半分、恐れと尊敬が四分の一ずつといったテンションでユリストさんが叫ぶ。

 本来異世界転生や異世界召喚のチート系主人公が受けるはずの反応だなぁ、なんて、頭の隅で呑気に思った。


「道を開けるんで進みましょう。セレナが待ってます」

「あっ! その前に、レイシーさんからゴーレム部隊作って貰いましょう! 何があるか分かりませんし!」


 それもそうか、とレイシーに顔を向ける。視線は極力顔を視界に入れないようにずらしているが。

 そうしてゴーレム生成をしてもらおうと口を開きかけて――。


「えっ。いや無理だよ」

「えっ」

「えっ」

「えっ。いや無理だって。だってコア無いもん。魔石があれば簡易的なのは作れるけど……」


 予想だにしていなかった言葉に、思わず思いっきり彼女の顔を直視してしまった。レイシーはきょとんとした顔で、何当然のこと言ってんの、とでも言いたそうだった。


 彼女の言葉から察するに――ゲーム内では無限増殖出来るゴーレムは、現実ではコアが無いと量産出来ないらしい。


「こーんのや、ンッンン! そういうことは早めに言って貰わないと困るんですけど!?」

「だって聞かれなかったし、言うタイミングが無かったじゃん」


 危ない危ない、危うく脳直で役立たずって言う所だった。いかん、地雷と濃厚接触しているせいで気が立っているせいか、以上に口が悪くなってしまっている。


 ……どうしよう。当てにしていた戦力が水泡になったぞ。

ご清覧いただきありがとうございました!

片頭痛でダウンしてて水曜日の更新お休みしていました。

季節の変わり目ってめちゃくちゃ体調崩しやすくなりますし、気圧も乱高下するので気圧病持ちはしんどい時期ですよね。

気圧病とかいう人体のバグの修正パッチ早く配信してほしい。


ちょっと面白そうじゃん? と思った方はブックマークをよろしくお願いします!

いいねや評価、レビュー、感想等も歓迎しております!


※追記 2025/03/23

完全に体調を崩してしまい寝込んでいます。思いっきり風邪引いちゃいました……。

回復するまで更新をお休みします。誠に申し訳ありません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ