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139 性能は最強、肝っ玉は最弱

 乱れた髪を結い直してから、咳払いを一つ。レイシーを極力視界に入れないようにはしているが、それでも彼女から向けられている若干冷たく感じる視線を気にしていないフリをして、改めて彼女に伝える。


「君には私達に同行してもらうけれど、残念ながら安全地帯に連れて行く事は出来ない」

「な、なんでさ!」

「君はスペルによって、その場でゴーレムを生成出来るだろう? 非常事態につき戦闘能力のある者には働いてもらう」

「そんな無茶苦茶な!」


 レイシーはゲーム内においては最強キャラと言っても過言では無い。

 しかし性格的には一言で表すなら「ビビリ」であり、何なら彼女の戦闘力の評価は「ゴーレムが本体」と言って良い程ゴーレムに依存している。

 ハッキリ言ってラガルと肩を並べるくらいのヘタレなのだ。戦闘中のボイスでも攻撃を受けると大変情けない悲鳴を上げるし、防御モーションも性格が全面に出まくったへっぴり腰である。

 そんな彼女に戦場に連れて行くと言えば、こんな風に反抗されるのは自明の理だ。


「一人で逃げ惑いたいと言うなら止めはしない」

「うぐっ……!」


 一言そう言えば、レイシーは口を噤んだ。

 臆病が故に、こんな危険地帯を一人で彷徨うより、まだ守ってもらえる戦場に付いて行く方がマシだという思考に陥るのだ。原作でもそうだったのだ、似たような場面ならば同じ選択をするだろうと思っていたが、予想は的中したようだった。


 彼女がゲーム内で最強と言われる所以は、彼女の固有スキルカード「ゴーレム生成」にある。

 ゴーレム生成は、戦闘メンバーの枠が空いているならばその数だけゴーレムを生成することが出来るスキルカードだ。スキルを使った際に生成出来る数は一つだが、行動ポイントとスキルカードさえ揃っていれば一ターンに何度でも使える。

 肝心のゴーレムの性能だが、速度が遅くスペルによる攻撃は一切不可能だが、代わりに全ての状態異常が無効で防御面や体力が高く非常にタフな上、攻撃力も弱いわけでは無い。

 更に庇う系のスキルを有しているため、使い捨ての肉壁に出来る。ついでに行動ポイントをレイシー限定で譲渡するスキルも持っているため、レイシーの行動ポイントが足りない状態でゴーレムが倒れても他のゴーレムから行動ポイントを供給して、新たなゴーレムを生成出来てしまう。

 レイシー本人は攻撃・防御両方共貧弱で、本人の戦闘力に限って言えば最弱と言わざるを得ないが、行動ポイントは非常に多く、パッシブスキルで行動ポイントの回復量も多くなっている。ゴーレム生成以外の固有スキルカードにはゴーレムを強化するものも存在しているため、ゴーレムを作ったらすることが無くて棒立ち、なんてことにはならない。


 ARK TALEの戦闘システムはターン制で、キャラクター毎に1ターン内の行動回数や行動順調整の役割を持つ速度ダイス、スキルカードのコストを支払う為の行動ポイント、常時発動のパッシブスキル、戦闘時に攻撃や回復行動をスキルカードとして所有している。

 そして重要なのが、スキルカードは固有と汎用の二種類存在し、固有スキルカードは外せないものの、汎用スキルは自由に入れ替えられること。そして攻撃と防御以外――バフやデバフ、回復といった類いの補助系――のスキルカードは、ターンの開始前の行動選択時に発動するという点だ。

 レイシーのゴーレム生成はバフやデバフと同じで補助系の分類にあたる。つまり、ゴーレム生成を引くことさえできれば、1ターン目からゴーレム軍団を作ってしまうことだって出来てしまうのだ。


 故にドロー系汎用スキルを大量に積んだレイシー単騎でゴーレム生成を引いて初手でゴーレムを増やしまくって物理で殴り、レイシーへの攻撃はゴーレムが庇い、倒れたら新たにゴーレムを生成するゾンビ戦法が出来てしまうというわけである。一戦闘にかかる時間は長くなってしまうものの、確実にクリアするならばレイシー単騎が最善手なのだ。

 これが、レイシーが最強キャラと言われる所以だ。

 ゾンビ戦法なんてそりゃ強いに決まっている。当然の成り行きである。


 現実ではターン制なんてものは存在しないので、ゲーム通りの最強性能を発揮する事は出来ないだろうが、それでもレイシーが即座にゴーレムを作り戦わせられるのはまず間違い無い。

 公式のストーリー内でやっていたのだ、描写されているのなら事実である。

 それもゲーム内と違い、人数制限が無い。魔力を消費するらしいが、要するに魔力さえあればいくらでもゴーレムを増やせるはずだ。マナポーションは持ってきているので存分に活用させてもらおう。


 さて、予想外の戦力増強とメンタルデバフを受けたところで、当初の目的通り港に向かいたい所ではあるが、大変個人的に悩ましい問題が生まれてしまった。


 その問題とは、行軍時の陣形である。

 ここまで来る際は前衛で周囲の警戒兼切り込み隊長としてモズ、中衛に前後どちらにも対応出来るように私、後衛に索敵系のスペルを使えるため殿を任せていたユリストさんという順で行動するようにしていた。

 しかしここにレイシーが入った場合、馬車から降りる際の動きから察する通り本体が貧弱そのものであるレイシーはどこに入れるべきか。当然、護衛が出来るように中衛に居させるべきだろう。強いて言うなら、中衛が主に護衛対象を守るよう立ち回るべきだ。

 つまるところ――その役割は、私になる。


 ああ、胃が痛い。胃が引きちぎれそうだ。


 彼女を守りたくないとかそういう次元じゃない。役割の責任が重いという問題でも無い。

 純粋にアレルギー持ちがアレルゲンを摂取したらどうなるかという話なのだ。現在進行形で地雷(アレルゲン)であるレイシーとちょっと会話しただけで胃痙攣になってんだぞ。そこから更に濃厚接触かましたら胃に穴が空くんじゃないか。

 しかし護衛能力はともかく、索敵能力が無い変わりに、ある程度近接もバフ補助も出来る飛び道具持ちである私が一番中衛に向いている事実からは目を逸らせない。


 レイシーに聞こえないようにか、ひそりと小声で「ポーションを使わなくて良いのかい?」と囁くヘーゼルを無視して、私は全員に伝える。


「陣形は先頭にモズ、殿にユリストさん。君は隊列の真ん中に。私はこれまで通り中衛で行動し、彼女を護衛する」


 私の言葉に、視界の端に映ったレイシーが少しだけ安心したように胸をなで下ろすのが見えた。

 仕事、これは仕事だから。仕事なら嫌でもやらなきゃならないから。トワさんもうおっきいからお仕事できるもん。


 必死に自分にそう言い聞かせて、さあ出発だと言おうとした、その瞬間だった。


 ――衝撃、とでも言うべきだろうか。

 港の方角から響いてきた音の無いそれを聞いた(・・・)瞬間体が硬直し、脳が真っ白になる。

 魂を揺さぶり、その隙間を恐怖で埋めるようなその咆哮(・・)は、あの浜辺で聞いたセレナのものであった。


「今の……ッ!」


 ワンテンポ遅れてセレナの咆哮だと理解した私はモズ達の安否を確認しようとしたのだが、悲鳴を上げるレイシーから唐突に抱きつかれてしまいメンタルがしめやかに爆発四散した。


 可愛い女の子に抱きつかれてこんなに嬉しくない事ってあるんだな!?

 正直セレナの咆哮よりよっぽど精神ダメージがきっついです。


 唇を噛んで、息を止めて、そのまま六秒。そして深呼吸を一つしてから、改めて二人の安否を問う。


「モズ、ユリストさん、大丈夫!?」

「へ、いき」

「だ、だ、だ、だいじょばない、です」


 モズは二回目だからか、それとも距離があるからか、頭を振って何とか正気を保っているようだ。顔色は悪いが、マトモに動けそうな様子だ。

 しかしユリストさんは腰が抜けてその場にへたり込んでしまい、体の震えが止まらないのか自分の腕を抱えてガタガタと震えている。返事を返せるということは一応正気は保っているらしく、それだけは不幸中の幸いだった。


 受け答えが出来るならば、ユリストさん特効の精神分析手段はある。


「ユリストさんに朗報! 今のセレナの咆哮です!」

「見た目あんなにロリ感強いのにこんな恐怖感かき立てられる咆哮出せるとか人外である事を忘れていない、流石セレナ! そこに痺れる憧れるゥ!」

「よぉし元気出たな!」


 推しへの愛はSANチェックを凌駕する。

 一瞬で目をキラッキラに輝かせて立ち上がったユリストさんを見て、今だけ何となく、ほんの少しだけ、彼を羨ましく思った。


 ……さっき別れたばかりだけど、早くルイちゃんとラガルに会いたいなぁ……。

ご清覧いただきありがとうございました!

昨日は眠すぎて投稿出来ませんでした……。

最近やたらと眠くなりませんか?

なるなる、と同意して下さる方はブックマークをよろしくお願いします!

いいねや評価、レビュー、感想等も歓迎しております!


※2025/03/12 追記

片頭痛が酷く執筆作業が出来ておりません!

申し訳ありませんが、次の更新は3/15(土)となります。ご了承ください。

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