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123 苦手と出来ないは別物

「努力目標、一体は極力生かして残す!」

「おん」


 モズはいつものように短く返事をして、軽く素早い足取りで距離を詰める。相手が宙族だから怯えて動きが固くなってしまわないかと思っていたが、杞憂だったようだ。

 迎え撃とうとするディープワン達に威嚇射撃を行い陣形を乱しなら、私は未だ抱っこ紐の中に居座っているヘーゼルに声をかける。


「おいヘーゼル出てこんかい!」


 普段なら何だかんだで抱っこ紐から出てきて肩に乗ってくれるヘーゼルだったが、今日に限って出てこない。

 まさか寝ているんじゃないかと思って声をかけたのだが、予想に反してすぐに返事が返ってきた。


「嫌だよ。生臭くて呼吸できたもんじゃない。この個体はヒトと違って鼻が良いんだ」

「こーんのかさばるふわふわカイロめが!」


 ヘーゼルの防壁は基本的にオート発動だが、モズ相手のように発動条件に引っかからず発動しない事がある。そういう時に任意発動してもらえるよう、常に状況を目視で確認していてほしいのだが……この冬毛でより一層ふわふわになった毛玉は嫌だと抜かす。

 まだコートの前を閉めてないので無理矢理抱っこ紐から引きずり出してやりたいが、戦闘中は一瞬たりとも敵から目を離したくないし武器から手を離したくもないので諦める。銃身が長いから両手持ちしないと標準合わせる時のバランスが取れないし、撃った後の反動も抑えられないのだ。


 流石に一人で三体を相手にするのは無理だったのか、一体がモズの攻撃と私の射撃の合間を縫って飛び出し、私の方へと向かってきた。


「ねえちゃんっ」

「問題無い、こっちで対処する!」


 珍しく慌てたように声を上げるモズに、自分が相手すると伝える。

 元よりモズ一人に三体全員を押しつけるつもりなんて毛頭無い。というか二対一でもキツいだろう。戦いは数なのだから。

 思っていたより早く抜け出してきたが、一体だけならば私にだって何とか出来る……はずだ。多分、恐らく、きっと。


 後ろには教会がある。もし距離を離そうと移動した時に、ディープワンが標的を私から教会内のルイちゃん達に変えたらまずい。


 不退転の覚悟を決め、一秒だけ決意を固める時間を取って、火属性の魔石による魔法弾を撃つ、撃つ、撃つ。

 魔法弾はクールタイムや弾詰まりとは無縁で連射出来る一方で、実弾と比べると威力がかなり落ちる。確かに先日のラプトレックスと比べたらかなり効いているようで、体表の粘液が焼け焦げて肉が抉れているが、ディープワンの足を止めるには至らない。


 いくらディープワンの動きは遅いとはいえこれ以上接近されたら、適当に撃っても当たるがその銃撃をする暇が無くなってしまうし、マチェットはあるが三叉槍の攻撃を受け止められる程頑丈ではない。切り替えて銃剣術で対応するしかないだろう。

 銃撃を切り上げ、接近戦の覚悟を決める。苦手と出来ないは違うんだと自分に言い聞かせた。


「抵抗スルナ、生意気ナ雌メ!」

「人語を喋るなーーーーーッ!! 戦い(やり)辛いだろうが!!」


 人語を喋られると攻撃するのにもの凄い抵抗感があるんだよ!! 何か人間を攻撃しているみたいで嫌だよこれ! ただえさえ見た目はともかく二足歩行で人型なんだからさぁ! 普通の魔物や動物でも狩りする時めっちゃ罪悪感あるのに!


 ディープワンが振るった三叉槍の重い攻撃を何とか銃身で受け流し、受け流した時の衝撃でビリビリと麻痺する腕で銃剣の刺突攻撃を行い攻める。

 ぬめる上にぶよぶよとした柔軟性のある皮膚と硬い鱗のせいで、物理攻撃があまり効かず決定的なダメージを与えられない。幸いだったのは、ディープワンの攻撃が近接へなちょこの私でも見切れる程度の攻撃速度だということか。

 膠着状態にはなってしまうが、モズも三対一より二対一の方がまだマシだろうし、何とかその二体を処理してくれるまで時間稼ぎさえ出来れば良い。ワンチャン私がこいつを倒すことが出来ればラッキーだ。


「サッサト服従シテ孕ミ袋ニナレ!」

「言ったな!? お前が負けた時にケツ穴とスリットに×××××ぶち込まれて×××××された上に×××××されて×××××になる覚悟があって言ってんだろうなぁ!? ついでに×××××もさせたろかい! オォン!?」

「エェ……」

「三倍返しされたくらいでドン引きするくらいなら最初から口にするなーッ!! お前が始めたスケベ語彙バトル(たたかい)やぞ!?」


 いや私の性癖が常人より捻れている自覚はあるけども。スケベな知識も常人よりかなり豊富だけども。

 とはいえディープワンにドン引きされるとちょっと心にキますね!?

 というか「いや、私平然と下ネタを口にする女性はちょっと……もっと大和撫子なタイプの女性が好みなんで……」みたいな反応しないでいただけます!? 先にスケベ語彙バトルを仕掛けて来たのはそっちじゃろがい!! 私は売られた喧嘩を買っただけだが!?


「スケベ語彙力バトルならなんぼでもやったるぞアーッ!? いきなり攻撃法方法変えてこないでいただけます!?」


 急に腹めがけて突き出された三叉槍の攻撃に、思わず悲鳴を上げてしまう。ヘーゼルの防壁が無かったら完全にアウトだった……!

 私は生け捕り目的だったから、今までは三叉槍という刺突武器を持っていながら薙ぎや払い等の打撃攻撃をしていたのだろう。

 しかし、できれば(・・・・)の範疇だったから諦めたのか、それとも自分の性癖に合わなかったからか、明らかにその鋭い切っ先で貫かんとしてきたのだ。


 更にもう一度、今度は上段からの攻撃。防壁で受ければ良いものの、私はつい反射的にその攻撃を銃で受け止めてしまった。重い一撃の衝撃が体全体に伝わって軋み、腕がじんと痺れた。

 元々の膂力の差に加えて体格差と体勢のせいで、いくら刻印のバフがあっても押されてしまう。受け止められたは良いものの、痺れて力の入らない腕では押し返すことも、押し切らんと更に込めてくる力を逸らす事も出来ない。 


「クッソ……こ、ん、の、馬鹿力があぁぁぁ……っ!」


 ぎらりと鈍く光る三叉槍の切っ先がじりじりと顔に近づいて来る。

 まずいかも、とヘーゼルに助けを求めようとした、その時。

 視界の端に何かが映り、ディープワンの右肩にぶつかってパリンと割れる。

 その瞬間、ぶつかった所を中心にディープワンの体が炎上する。上半身の右半分を覆ってしまいそうな範囲で燃え上がり、ディープワンは黒板を引っ掻いた時の音のような悲鳴を上げた。


「トワさん、今だよ!」


 一瞬何が起こったのか分からず頭が真っ白になっていたが、ルイちゃんの声ですぐに理解する。

 ルイちゃんが火炎ポーションを投げつけたのだ。

 私を貫かんとしていた三叉槍が離れる。今や私はディープワンの眼中に無く、炎を消そうとするのに必死になっている。


「ルイちゃんナイスアシスト!」


 すぐさま隙だらけとなった丸太のような腕を銃のグリップで殴りつけて、三叉槍を叩き落とす。焼かれる痛みとはまた違う呻きが不揃いな牙の生えた口から漏れた。

 丸腰になっても気は抜けない。奴等の水かきが付いた手には鋭いかぎ爪がある。

 私の攻撃に対して反射的に反撃しようとしたのか、腕を振るってきたのでそれを躱し、顎に向けて銃を振るい硬いグリップを直撃させる。

 人型であり、脳が人間と同じ頭部に存在するならば、顎に衝撃を与えるのが効果的だ。

 いくらファンタジーだろうがクトゥルフ神話系の存在だろうが、脳のある生物ならば、肉体の最重要器官に衝撃を食らって耐えられる奴はそう居ない。ジュリアにもそう教わった。


 狙い通り脳震盪を起こしたのか、ぐらりとディープワンの体が揺れる。

 銃をくるりと回転させて持ち直し、足払いをするように膝の内側を狙って薙ぐ。攻撃ではない。その巨体のバランスを崩すためだ。


 見事足を取られたディープワンの体は傾き、脳震盪で受け身を取れないまま、ズゥンと音を立てて地に伏した。

ご清覧いただきありがとうございました!

筆が乗りすぎて長くなったので良い感じに編集してたら遅刻しました! 申し訳ございません。

ちなみに作中の×××××表記は必ずしも言葉と文字数が一致する訳ではありません。お好きな単語に置き換えて読んでください。


ちょっと面白そうじゃん? と思った方はブックマークをよろしくお願いします!

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