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121 バラシ

 ベアード神父と話していると、ふと、ある事を閃いた。


 先程のベアード神父の解釈違い発言についてだ。

 ヘーゼルは何かの術にかかっていたと言っていたが、どういった経緯で術をかけられてしまったのかは不明だし、そもそもその犯人が聖女だという確証も無い。

 丁度雑談をしているのだ。この機を逃すわけにはいかない。何か聞き出せないか、それとなく探りを入れてみようと考えたのだ。


「ところで、眠気は覚めましたか?」

「ええ、おかげさまで。寒さ自体には強いのですが、種族柄冬は眠気が……いやはや、お恥ずかしい」

「うちのペットも同じですよ。元々野生を忘れて半日はヘソ天で寝てるような奴でしたけど、最近じゃ冬眠の時期だからか、日がな一日眠りこけてて。ほら、今もこの中でぬくぬく寝てるんですわ」


 抱っこ紐を少しずらし、中でぷうぷう寝息を立てているヘーゼルをベアード神父に見せる。今はコートを着ていないので抱っこ紐を装着しているのが丸見えで、見慣れないからか最初の内はシスターさん方がチラチラ視線を向けていた。

 流石に作業中は厚手のコートは邪魔になるし、暖炉に火が入っていて室内は暖かいので今は脱いでいる。いや暖かいって言っても底冷えして寒いけど……私寒がりだし冷え性だから正直着ていたいのは山々だけど、仕方がない。


 外気に晒されたことに気が付いたのか、のそりと縁に顎を乗せて、ヘーゼルは眠そうな細目のままベアード神父を見上げる。

 行動だけはマジで可愛い小動物なんだよな……。


「不思議な装備をしていると思っていたのですが、その中にキャラットが居たのですね。こんにちは、寒くはないかい?」

「なーるるん」

「そうですか。ご主人から抱っこしてもらって嬉しいねぇ。暖かくて良いねぇ」

「んなぁん」


 ベアード神父は幼子を相手にするような口調でヘーゼルに話しかけ、ヘーゼルはそれを適当に獣声で流す。

 知らない人が見れば微笑ましさと小動物好きな大柄成人男性というギャップ萌えを感じる光景であるだろうが、残念ながらこの毛玉が人類と同等かそれ以上の知能を持つ存在だと知っている身からすれば、絶対会話は成立していないんだろうなぁという残念な感想しか沸いてこない。

 本当、ぱっと見の光景なら滅茶苦茶可愛い組み合わせなのに……。


 小動物と戯れる熊おじ、ネズミーランドのプリンセスか? 可愛いおじさんは受け、つまり熊おじは受け。はっきりわかんだね。

 ヘーゼルがただのチンチラモドキだったのなら、きっと私はそんな事を思っていただろう。


 しかし、ベアード神父が小動物好きで良かった。元々聞き出せそうな雰囲気ではあったが、ヘーゼルの小動物パワーおかげで大分油断している。

 これなら、雑談の延長で聞いても普通に答えてくれそうだ。

 うなんうなんと文句を言うヘーゼルが再び丸まって寝始めたタイミングで、私は話題を振る。


「さっき眠気が来てたのって、午前中に行ってた聖女様ん所がよっぽど居心地が良かったせいなんじゃないですか?」

「……良い匂いがする部屋だった、とか?」

「おっ、確かにラガルは割と部屋の匂いとか気にするもんな」

「パンの焼ける匂いとか……」

「確かにそれはそれでリラックスはするかもだけどめっちゃ腹減りそう」

「ははは、そうですね。パンの匂いですと、お腹が空いてしまって眠気がどこかに飛んでいってしまいそうです」


 意外にもラガルが会話に混ざってきたので、それに乗っかって話を広げる。


 ちなみに揚げ物が好きなくせに油臭いのは嫌いらしく、揚げ物をしている最中は大抵別室に避難している。エビフライとかコロッケが大好物のくせに……。

 それとルイちゃんが調剤室から出てきたばかりだと比較的近づかない。薬臭いのが苦手なのだろうが、ハンドクリーム等、作る物によっては普通に良い香りの時もあるので、一度近くに寄ってさりげなく(ただしルイちゃん以外は一目で気付くくらいにさりげなくない)匂いを確認した後にそのままカルガモの雛になるか否かが決まる。


 たまにこっそりちゅん吸いしているのには気付いていたけれど、こうして考えるとラガル……お前匂いフェチだったんか……?

 なるほどね? だから焼きたてのミルクちぎりパンにナッツクリームを塗ったやつの匂いが好きだったんだな? アレ食べる前必ず深呼吸ばりに吸うもんな? 理解した。

 分かるよ、ルイちゃんの翼部分の匂いに結構似てるもんなアレ。


「後はー……鎮静効果のあるハーブティーをいただいたとか? カモミールのミルクティーとか案外効くし。後でめっちゃ眠くなってふにゃふにゃになりますもんアレ」

「かも……?」

「お前が寝付けない時にルイちゃんがよく入れてくれるやつ。ちょっと黄色っぽくて薬草っぽい林檎の匂いがする方ね」

「ああ、アレか……」

「お茶はいただきましたが、そう言った類いのものではありませんでしたよ。先程ぼんやりとしてしまっていたのは、恐らく逆の理由からでしょう」

「逆?」


 予想外の返答に素で聞き返すと、ベアード神父は少し困ったように苦笑しながら、少し言い淀みながらも答えてくれた。


「聖女殿は少々……苛烈な一面がありましたから」

「なるほど、こっちに来て気が緩んだから眠くなっちゃったんですね」

「……アンタ、意外と抜けてる所あるんだな……」

「おいこら流石に本人を目の前にして言うのは失礼だぞ」

「いえいえ、良く言われるんですよ」


 まあ私はARK TALE本編やってるんで知ってるんですけどね。

 初見だと「穏やかで優しい気性で理想の大人の男性といった風体の神父様」という印象だが、実際はぽやぽやふわふわした幼女みたいな一面のある可愛いおじさんだし、夏になると初めての海水浴でテンション上がっちゃってはっちゃけるような子供っぽい一面もある可愛いおじさんなんだよなぁ。


 いや冷静に考えれば考えるほど可愛いなこの熊おじ。熊おじ推しの腐女子から幼女と言われるだけはあるわ。たまんねえな。汝は受け。


 それはそれとして、普段の振る舞いは迷える子羊を導く父性溢れる神父様らしい神父様だからよりたまらんのだよなぁ……。

 気を許した相手の前だからこそ、ちょっと抜けた所のあるぽやぽや幼女じみた一面を見せるんだ。可愛いね。


「……今思うと、聖女殿との対話は、少々不思議な体験をしたように思えますね」

「と言うと?」


 ぼやくそうにそう語るベアード神父の言葉に、私はさりげなく先を促す。

 釣りで言うならば、竿にアタリが来た感じだ。後は合わせ、フッキングが重要だ。


「聖女殿は一目で引きつけられるようなカリスマ性も、人々を無意識に従えさせる厳然たる態度や威厳もありません。少々自分に正直すぎる一面があるだけの、普通の女性という印象でした。しかし……話している内に、妙に惹かれてしまうんですよ」

「話術に長けているというだけの話では?」

「いいえ。むしろ口で人を引き込むのは苦手な方ですよ、聖女殿は」

「その心は」

「所作と口調です」


 一呼吸置いて、ベアード神父は続ける。


「人の性格というものは、自然と表情や言葉遣いに出てきます。例えば、シスター・ヘレンは少々独善的な一面が時折言葉に表れますが、声や表情は他者に寄り添おうとする姿勢を感じます。ほら、彼女は微笑みを絶やさず、話しかける際は優しい口調と穏やかなトーンで声をかけているでしょう?」

「そうですね」

「一方でモズ君は常に無表情で、他者から友好的に話しかけられても『どうでも良い』という無関心さが、態度や言葉の節々から察することが出来ます。とても分かりやすくね」

「それは本当に申し訳ないですわ……いやアレでも最近はまだマシになってきたんですけども……」

「彼は少々、興味を持てる範囲が狭いようですからね。彼の視線は基本的に、あなたにしか向いていませんから」

「そうなんですよねぇ……いい加減、私以外の人や物にも興味持って欲しいですわ。それで、聖女様はどんな感じの人だったんです?」


 私がそう言うと、ラガルも少し気になるのか、期待のこもった視線をベアード神父に向ける。

 私達の視線を受けたベアード神父は、ニコリと笑って返答する。


「宙族が現れるとしたら、聖女殿も姿を見せるでしょう。ご自身の目で確かめた方がよろしいかと」


 ……残念。バレてしまったようだ。

ご清覧いただきありがとうございました!

エビフライの尻尾、ルイとラガルティハは残す派、トワとモズは食べる派です。


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