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119 夢と現実の違い

 急に廊下が騒がしくなる。どうしたのかとモズ達との会話を中断して顔を上げると、数人のシスターさんを引き連れたユリストさんがやって来たのが見えた。移動を開始したということは、そろそろ出発するのだろう。いつの間にか迎えの馬車が来ていたらしい。


 ユリストさんはシスターさん達に「ちょっと先に行ってて下さい」と言って、私の元に来る。

 挨拶か報告のどちらかだと察してくれたらしいシスターさん達は、私に軽く会釈をして足早に立ち去る。私達の会話を邪魔しないように気を遣ってくれたようだった。


 私の前に立ったユリストさんは、仰々しく敬礼し、ドヤ顔で発言する。


「ユリウス・ネッカーマ、これより任務を遂行するであります!」

「張り切りすぎてキャラ変わってません?」


 つい思ったことをそのままツッコむと、ユリストさんは自覚があるのか、お手本のようなテヘペロ顔を見せた。

 クッソ、中身がおっさんだって分かってるのに見た目が可愛いからぶりっこしててもただただあざと可愛く感じる……悔しい……!


 しかしテンションが完全に遠足に行く前の幼稚園児のそれである。

 割とヤバめな状況だという事をちゃんと理解しているのだろうか、この人は。もしかしたら、「ファンタジー作品あるあるのバトル展開だ、うっひょー!」とか思ってない?

  ふ、不安だ……。


「実を言うと、折角ファンタジー世界に転生したんだから、こういうバトル展開も経験してみたかったんですよぅ! うっひょー!」


 あ、駄目だこの人。コミケとかのイベントと似たようなモンだと思ってやがる。

 不安な予感がものの数秒で的中してしまい、思わず眉間を押さえる。


「一度ガチの戦闘やって死にかけた経験者として忠告しときますけど、お遊びじゃないんで真面目にやってくださいね。ホントお願いしますよ」

「え」


 ファンタジー作品のお約束であるバトル展開に興奮していたユリストさんだったが、私の発言を聞いた瞬間、表情が固まった。


「多少スペルの扱いに長けてようが、多少のチート系能力を持っていようが、戦闘経験がほぼ素人の我々は一瞬でやられますからね。その事だけはゆめゆめ忘れないように」

「いや、死にかけたって、えっ」

「わかったら、伝書鳩し終わったら大人しく屋敷で待機して、ジュリアの言う事をよく聞いて下さいね。くれぐれも前線に立とうとか思わないように。私も友人に死なれたくないんで」

「いや僕と出会う前に一体何を経験してきたんですかトワさん」

「聖女の身辺調査したらヨダカから暗殺されかけたってだけです」

「それ初耳なんですけど!?」

「言ってませんでしたっけ?」

「聞いてません!」


 前に諸々の情報共有をした時に話してなかったっけ? と思ったが、どうやらユリストさんの反応的に、以前ヨダカから暗殺されかけた事に関しては話していなかったらしい。話したとしても、それこそ「ヨダカは聖女と繋がっている」程度にしか伝えていなかったのかもしれない。


 まあ、今はそんなことをゆっくり話している時間は無い。もし聞かれたら、フラグみたいな台詞になるが、この戦いが終わったらゆっくり茶をしばきながら話すことにしよう。


「それでよく生きてましたね!?」

「ヨダカの謎のルイちゃん贔屓が無ければ今頃死んでましたね~。正直今回はそれと同レベルかそれ以上のヤバさなんで。わかりましたか?」

「ひゃい……」


 ヨダカは風属性キャラの中でもトップクラスに強いキャラクターだ。

 その事を知っているからこそ、彼と戦う事がどれだけ危険な事なのかを想像出来たのだろう。そして、それと同じかそれ以上に、宙族のスタンピードが迫っている今の状況が危険なのだと理解してくれた。

 ユリストさんは先程までの、ヒーローごっこで楽しんでいる男の子のような表情から一片して、緊迫感のある大人の顔つきに変わった。


「じゃ、よろしくお願いしますね」

「お任せ下さい!」


 先程と同じように、しかし雰囲気が精神年齢相応になった彼は、ぴしりと敬礼をして、先に行ったシスターさん達を追いかけて行く。

 私はユリストさんの姿が見えなくなるまで、その場で見送った。


 少し時間を取り過ぎてしまっただろうか、現場の方はどうなっているだろうか、と中間管理職的な不安を抱えつつ調剤室に戻ると、扉を開けた瞬間、私が戻ってきた事に気付いたルイちゃんが駆け寄ってきた。


「トワさん、良い所に!」


 どうやら先に戻って来ていたベアード神父と何か相談をしていたようで、ワンテンポ遅れてベアード神父もやって来た。


「属性ポーションも作っておいた方が良いよねって神父様と話していたんだけど、どの属性のポーションを作れば良いかな? トワさんって物知りだから、意見を聞きたいなって思ってたの」


 そういえば、ダニエル女公爵も「役に立つなら治癒でも属性でも作って良い」なんて言っていた記憶がある。


 ターン数やスキル使用に必要な行動ポイントが存在するゲームとは違い、在庫さえ確保してしまえば装備に塗布して戦闘力を上げるだけでなく、投げつけたりその場に撒くだけでも効果を発揮する属性ポーションは、物さえあればお手軽且つ強力な戦力になり得る。それに、現状非戦闘員が多く残されているこの教会の防衛にも使える。

 回復系のポーションを優先させていたが、戦力の底上げという点から考えると、属性ポーションも作っておくべきか。


 店では日常生活で使用する頻度の高いランプ等に使う効果の弱い光ポーションや、火付け兼着火剤用の非常に弱い火炎ポーションくらいしか置いていないが、注文されれば戦闘用の効果の高い属性ポーションも作っている。ルイちゃんの専門外という事もないので、制作に問題は無い。


 どの属性が有効だったか、と当時の夏イベを思い出す。ディープワンが登場したのは最初の夏イベだったこともあって少し記憶が曖昧だったが、少し記憶を探れば思い出すことが出来た。

 火属性パで周回していた事を真っ先に思い出せたのは僥倖だった。火属性パで周回していたという事は、それがディープワンに有効な属性だという事だからだ。ついでにそこから芋づる式に記憶が蘇ってきた。

 当時はまだ複合属性のキャラが実装されていなかったので、複合属性の耐性については不明だ。イメージとしては火+風の複合属性である雷属性は効きが良さそうだが、流石に根拠が薄い予想を当てにするギャンブルはしたくないので言わないでおくことにする。


「えーと確かディープワンの属性耐性は……水耐性土闇抵抗風弱点火脆弱光等倍だったはず。複合属性までは分からんや」

「……何かの呪文?」

「とりあえず火炎とか爆発系のポーション作っときゃいいよ」

「そうですね。魔物の話になりますが、基本的に水棲の生物には火属性がよく効きます。私も同意見です」

「じゃあ、火属性のポーションを作る事にしますね。私、特定薬品製造資格を持っている人が居るか聞いてきます!」


 そういえば、ゲーム内の通常ルイちゃんは攻撃属性を任意の属性に変更するスキルが使えていたのだが、恐らくこれは属性ポーションを使っているということだったのだろう。ゲーム内でのスキル名は単純に「属性変更」なので今まで分からなかったが、今更ながら気が付いた。

 便利は便利なスキルではあるが、単体バフなのと使用コストがやや重めなこと、そして何よりルイちゃん自身の不遇性能により日の目を見る事は無かった。

 趣味パでは使っていたけど、正直あまり使い勝手良くなかった……どの属性編成にも入れられるというメリットはあるんだけどね……。


 だが現実では違う。属性ポーションは誰にでも使える、使い勝手の良い便利な戦闘アイテムなのだ。

 手軽に強力すぎるので、簡単に量産できないよう制作には取扱資格が必要だし、物によっては購入時に領主へ申請したり誓約書へのサインが必須だったりする。今回はその領主の娘であるユリストさんがグルだし、そもそもローズブレイド家が一枚噛んでるのでその辺りの面倒な手続きはそっちでやってくれることだろう。

ご清覧いただきありがとうございました!

昨日は完全に寝落ちてしまって更新が一日遅れました! 申し訳ございません!


ちょっと面白そうじゃん? と思った方はブックマークをよろしくお願いします!

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