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116 羊と山羊

 教会に着いた私達は、バラット支部の代表とも言える神父様に事の次第を説明し、無事に治癒術師の派遣と避難誘導の協力、そして調剤設備の使用許可を約束してもらった。

 ローズブレイド家という貴族のトップの要請ということもあるが、領主であるネッカーマ伯爵家の令嬢であるユリストさんがいたおかげで、かなり話がスムーズにいってひとまずは安心である。


 ……話していく内にどんどん神父様の顔色が悪くなって、終いには胃の辺りを擦っていたから、かなりの心労をかけていそうだったが。

 気の弱そうなおじいちゃん神父様だったもんなぁ……暇を見てルイちゃんに胃薬作ってもらおう……。


 ルイちゃんは調剤室の確認へ向かい、ラガルはそれに着いて行った。


 ユリストさんは屋敷へ戻るついでに、治癒術が使える人や医学知識がある人を集めて同行してもらうとのことだった。そこで私兵騎士団と合流させて、共に避難誘導や警備、対策本部の設立に当たる予定らしい。

 ちなみにこのアルバーテル教会が避難場所にもなるため、万が一の時のため、全員ではなく必要最低限の人数は残ってもらうのだとか。


 馬車の手配を屋敷に頼むために、伝書鳩の居る場所に案内してもらおうとしていたユリストさんだったが、その前にヘレンから呼び止められる。


「私はネッカーマ伯爵令嬢に同行した方がよろしいでしょうか? 私は人一倍治癒術に長けていますから、きっとお役に立てるはずです」

「うーん……そうですね……」


 ユリストさんがちらりと私を見る。原作を知っているからこそ、本来殺されてしまうモブ少女の立ち位置になってしまっているヘレンが心配なのだろう。


「少しトワさんと相談してきますね! ローズブレイド家の意見も聞きたいですから!」


 そう言って、ユリストさんは私の元に来て、ひそひそと話し始める。


「正直めっちゃ連れて行きたいです」

「いざという時に守りきれます?」

「それが出来るか分からないから聞いているんですよぅ!」


 ユリストさんはスペルに長けているけれど、実戦経験は皆無だ。もしそうなった場合、確実に守りきれるかと言われたらNOである。

 恐らく馬車を手配する際に護衛として一部の私兵騎士団も来るだろうが、彼等だけで守れるかも分からない。


「トワさんって戦えるんでしょう? 着いて来て下さいよぉ~!」

「そしたらルイちゃん達含め、教会に残ってる人達はどうするんですか。現状非戦闘員のラガルと素人に毛が生えた程度のルイちゃんしか居ませんよ。それにこちらとしては、ジュリア達から連絡来るまでここで待機しておきたいです」


 それにぶっちゃけ聖女側も味方とは言えないし……もしかしたら、こうして宙族撃退に向けて動いていることを察した聖女が、邪魔だからって私の時みたいにヨダカ派遣して暗殺しにくる可能性もあるし……。

 正直暗殺リスクを考えるとユリストさんとも一緒に行動したいけれど、ユリストさんにはネッカーマ伯爵邸でやることがあるから無理だ。あと、もし暗殺リスクがあるのならば、私とユリストさん、原作を知っている勢が一網打尽されて詰んでしまう可能性も考えなければならない。

 リスクは分散するべきだし、守るべきである原作登場キャラは、少しでも守り切れる確率が高くなる戦力の高い方と一緒に行動するべきだろう。


 ユリストさんにそれを説明すると、しょんもりしつつも同意してくれた。


「それに、今セレナとヘレンを引き離すのは如何なものかと」

「ハッ……! それもそうですね!!」


 訂正。百合のためならと全面的に同意してくれた。

 いや、フラグ管理的な意味で何が起こるか分からないから出来るだけ引き離したくないって意味合いで言ったつもりなんだけど……まあカップリング的な意味でもセレヘレを引き離したくないのは私も同意見だからヨシッ!


 ヘレンに向き直り、私の方から結果を伝える。


「申し訳ありませんが、シスター・ヘレンは我々と共に行動してもらいます。今後ローズブレイド家から連絡が来ますので、そちらの指示を待ちたいのです」

「そうですか……ええ、わかりました」


 それっぽい理由を付け加えたのだが、どうやらすんなりと聞き入れてくれたようで安心した。安心したような、残念がっているような、どちらともいえない声色だった。


「じゃあトワさん、くれぐれもよろしくお願いしますね!」

「出来る限りのことはしますよ」


 ユリストさんのサムズアップにサムズアップで返し、私は連絡へと向かったユリストさんを見送った。


 その後、ヘレンから調剤室へと案内してもらい、一足先に来ていたルイちゃんに軽く状況を聞くことにした。

 バラットのアルバーテル教会は都市で流通しているポーションの大部分を制作しているだけあって中々の規模、かつ設備だった。多分この支部限定のことだろうが、運営資金の要だろうから金をかけるのは当然だろう。私はあまり詳しくないのだが、ぱっと見でもかなり新しめの機材があるし、どういった用途で使うものかまではド素人には判別付かないが、個人経営のルイちゃんの店では見ないような大型の機械もある。


 片手で数えられる人数が軽く入れる調剤室は、指示を受けたシスターさんが慌ただしく機材や材料の準備をしていて、その中にルイちゃんも居た。ラガルは……一瞬見当たらなかったのでどこに行ったのかと思ったが、端っこで小さくなっている。戦力外通告でもされたんかお前は。


 入室してきた私に気付いたシスターさんが、人に指示する事に慣れていなくてわたわたしているルイちゃんに声をかけて知らせる。ルイちゃんは慌てたようにペコペコと頭を下げてから、こちらに駆け寄って来た。


 うーんこれは……若干頼りないし、私の方から行動指針を出した方が良いかもしれない。ルイちゃんは人の上に立つより、人の下で働く方が向いているタイプの性格だからね。

 とりあえず指示を出すにも、現場がどうなっているか知りたいので、そちらを先に聞くことにした。


「どんな感じ?」

「かなり新しい機材なんかもあるし、調剤知識のあるシスターさんが協力してくれるから人手もあるし、材料さえ何とかなれば量産は問題無いと思うよ。ある程度は原材料の在庫はあるけれど、どのくらい必要になるか分からないから……」

「オッケー、じゃあその辺りは私の方からユリストさんとかジュリアに伝えるね」


 幸いにもユリストさんはまだ出発していないので、出る前に必要な物のリストを渡しておけば大丈夫だろう。

 供給ルートとかは……まあユリストさんの方で何とかして欲しい。流石にそこまでは私には無理だ。


「とりあえず今は作れるモンを作っておいて欲し……あーそうだ、制作済みのポーションの在庫はどうだか聞いた?」

「もう殆ど納品しちゃってて、教会で使う分くらいしか無いって言ってたよ。あるのは治癒とか、解毒のポーションくらいだったはず。細かい数は分からないけど、ぱっと見だとあんまり多くなかったかな……」

「じゃあ治癒のポーションを重点的に……それと気付け薬とかあればそれも。解毒とかの状態異常系のやつは後回し、ああでも止血は必要になると思うから止血用ポーションだけは作ってて欲しい」

「うん、じゃあそうするね」

「そういう方針でお願いしたいんだけど、その場合必要になる材料と必要量をリストアップしてもらえる? 必要量の目安はー……とりあえず普段騎士団に納品する分の倍量にしとこうか。紙とペン貸すからメモっといてね」

「わかった、シスターさん達に聞いてくる!」

「私もお手伝いします。こちらに残るよう指示を受けましたし、治癒術の方が得意ではありますが、薬の知識も多少はありますから」

「ありがとう、ヘレンさん! とっても助かります!」


 メモ帳とペンを受け取ったルイちゃんは、ヘレンと共に足早にシスターさん達の元へと向かい、材料のリストアップを始める。


 私から指示を受けた途端、いつものルイちゃんのようにテキパキと手際が良くなった。

 やはりこっちの現場に残る判断をしておいて良かった。ルイちゃん一人だったら、恐らくてんやわんやしてしまい、にっちもさっちもいかなくなっていただろう。


 ついでに、現場を離れるまでの間は、何かあればローズブレイド家の使いである自分に連絡すること、基本的にこちらの指示に従って欲しいことをこの場に居るシスターさん達に向けて呼びかけておいた。


 これで現状、この場のトップは私という事になってしまった。

 中間管理職! 現実でやりたくない仕事ナンバーワン!


 いやシスターさん達も皆おっとりしてるからさぁ……仕切り役居ないとね、動けなさそうだったからね……。

 私は羊の群れの中に居る山羊。非常時だから仕方の無いことなんや……一時的なものだから……。


「……で、ラガルや。お前はどうしてそこで隅っこ暮らししてるんだ」

「だ……だって……邪魔しちゃ悪いし……」

「あーうん……せやね……薬の知識ある訳でもないし、手伝えること無いもんな……」

ご清覧いただきありがとうございました!

中間管理職は経験したことが無いですが、端から見ているだけでも絶対にやりたくないなって思います……知っている中間管理職の人みんな地獄みたいな仕事量とストレス抱えているので……。


ちょっと面白そうじゃん? と思った方はブックマークをよろしくお願いします!

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