111 前作キャラの登場
ああでもないこうでもない、とユリストさんと相談していると、不意にルイちゃんがぽつりと呟く声が耳に届いた。
「……あれ? そういえば私、ヨダカさんの名前言ったっけ?」
「! ……言った言った。言ったよ。あーそうだ、確か友達になったって子が聖女関係者だったんだっけ? その子に詳しい話聞くかぁ」
正直、白状させた内容にヨダカの名前を出していたかどうかは覚えていない。が、言ったということにしておく。実際一方的に知ってるだけだから、私が奴の名前を知っているのはおかしいもんね。
そして、ルイちゃん達と一緒に居た子。
まだ外見どころか声すら拝めていないが、その子が聖女の関係者というのも気になる。ヨダカが聖女側に着いているということを考えると、さりげなくルイちゃんに接触して仲間に引き込もうとスパイ活動的なことをしているのではないかと疑ってしまう。
いや戦力的にルイちゃんを引き入れるっていうのはあんまり無いかもしれないけども。ルイちゃん、ゲーム内性能は不遇だから……。
言うて警戒するに越したことは無い。
ダニエル女公爵の発言から察するに、聖女自身にも何か厄介な能力があるっぽいし。
「ルイちゃんや」
「うぅ……はい……」
「ああうん、お説教じゃないからそう怯えんでいいから、ただの忠告だから。……君はまずはね、人を疑うということを覚えようか」
ルイちゃんは他人に寄り添える優しい心の持ち主だが、それ故に他者への警戒心が薄い。ヨダカに拉致られかけて怖かっただろうに、ちょっと敵意が無いように振る舞われただけで対話を試みようとする上、私達に説明する際には「悪い人じゃないと思う」なんて言うのがその証拠だ。
頭お花畑という訳じゃない。ただ、ちょっと人より心の懐が広すぎるだけだ。
そのスタンスは確かにラガルみたいな人にとっては居心地の良いものだろうけど、一応それなりに社会人をやってきた身からすると、甘いとしか言えない。
そこがルイちゃんの良い所なんだけどさぁ! 画面越しの二次元キャラだったら普通に「聖母かよ~好き~!」で済むけど、現実の同居人として接していると不安だよこの子!
私が守護らねば……という気持ちになってしまう。
私、真の意味で理解しました。だから後方彼氏面とか面倒臭い男とか性癖がヤバい男に執着されるんだよこの子! カップリング二次創作で言うなら危険な男と旦那面も! 母性もあって年の割にしっかりしてそうに見えて人を疑うという事をしない純真な少女性があるからこそ、ロリおかあさん属性で刺さった男はもう一方の一面を知る頃には最早脱出出来ない沼の底に居るからそのままオスとしてメスを守るという本能に目覚め、守りたくなる無垢な少女属性が刺さった男はその母性から来る嫁適正の高さに底なし沼への潜水が止められなくなるし、無垢な少女を陵辱するのが好きな奴は母性という他者を守ろうとする性質を利用することも出来るから一度で二度美味しくて止められない止まらない! 最高かよ。
いやそうじゃなくて。
それに、だ。正体を知っているギィはともかくとして、もう一人、何やら訳知り顔の謎の人物とも接触していたとルイちゃんは言っていた。
フレンドリーなのはいいけど警戒して! 詐欺に遭うよ!? いやちょっと怪しいって疑ってたみたいだけども。
「そういや、ブローチ渡してきた男ってどんな見た目だったの? 一応警戒しときたいし、外見の情報が欲しいな」
「宙族の蛇男よりそっちなのか……?」
「ああいやだってギ、ごほん、宙族って割と友好的なんでしょ? なら平気平気。むしろ敵か味方か分からんローブ男の方が怖いって」
「えっとね、モズくんみたいな黒髪で、青い目をしていて……」
「待って?」
モズのような黒髪に、青い瞳。
その外見的特徴は、まるで――。
「あ、トワさんも気付いた? その人ね、伝説の勇者様と同じ特徴だったの」
「いやまあそうなんだけどちょっとお待ちください? もしかして身長170cm前後の外見年齢十六歳前後で、こめかみよりちょっと上辺りの髪がひょんって跳ねてなかった?」
「えっ? 髪の癖は分からなかったけど、その通りだよ」
私は鞄からメモ帳とペンを取り出し、心当たりしかない人物のイラストをざっくりと描き、ルイちゃんとラガルに見せてみた。
「そいつさぁ……こんな見た目してなかった?」
「あっ。そうそう、こんな感じの人だったよ」
モノクロ且つデフォルメの効いた私程度の画力でも、幸いにもルイちゃんにはその特徴が伝わったらしい。そのキャラクターのイラストを見たルイちゃんは、うんうんと頷いて肯定した。
ラガルはあまりピンと来なかったようだが、まあそれが普通だと思うよ……私そこまで絵上手くないからね……。しかしルイちゃんが肯定したことで、言われてみればそうかも、的な反応をした。
「あんたもあいつの知り合いか……?」
「いやぁ一方的に知ってるだけというか何というかそういう感じのそういうアレというか……ともあれ、そのブローチは間違い無く悪いもんじゃないってことは断言出来るよ」
「そうなの?」
「まあ、うん。悪意で人を貶めるような奴じゃないから。あいつがそれを渡してきたってことは、言葉通り、ルイちゃんにとって必要になる時が来るからだよ」
不思議そうに首を傾げるルイちゃんと、ジト目でこちらを睨み付けるように見つめてくるラガル。
ルイちゃんは少し疑問に思う程度で済んでいるようだが、ラガルは「どうして詳しく説明してくれないんだ」と視線で訴えているのだ。
いやそれお前にも言える事だからな? お前何で行き倒れてたのかとか、過去のこと全然話してくれないじゃんか。
ラガルがそういう気になったら話してくれるから待とう、とルイちゃんが言っていたから私も特に言及することは無かったけど、私そこんところめっちゃ気になってんだからな?
そんな風に、ルイちゃんが隠したい個人の事情を本人が話してくれるまで待っていてくれるタイプだったからこそ、色々隠し事をしている私も助かってる所あるけど。
お前が言うな、と視線に込めてラガルを軽く睨み返してやると、慌てて視線を逸らしてルイちゃんの後ろに隠れ……いや体格差的に隠れられてないやんけ。
自分より小さい年下の女の子に助けを求める成人済み名誉ショタ(27歳)。
うーん、情けなくて良き。お前は一生ルイちゃんに守られてろ。
そんな沈黙の応酬が終わったのを見計らって、ユリストさんが耳元でこそりと質問してきた。
「もしかしてこの青年、他作品の推しですか?」
私はメモ帳で口元を隠し、二人に聞こえないように囁き声で返答する。
「そうなんだけど……前作に出てきたラスボスだって言ったら?」
「なんて?」
「前作に出てきたラスボスだって言ったら?」
「二度も言わなくてもわかりますよぅ!」
そう。私が描いたこのキャラクターは、ARK TALEの前作に登場するラスボス――アルレイン・クロノスという青年なのである。
「ユリストさんはせかすく未履修でしたっけ?」
「プロスタ作品に触れたのはARK TALEが初ですね」
「じゃあ後で説明しますね」
ARK TALEの開発元であるProjectStarがリリースした作品は、全部で五つある。ARK TALEが最新作であり、その前の作品が「勇者は世界を救うもの」、通称せかすく。
この二作品は共通の世界観での物語であり、時系列順的にはARK TALEが過去、せかすくが未来の話となっている。
せかすくはARK TALEの約300年後の話であるため、要するに、本来300年後に登場するはずのキャラクターがルイちゃん達の前に現れたということになるのだ。
しかしせかすくをやりこんだ私としては、それは不思議なことではないと断言出来る。そういうこともあるかもしれないし、実際そうなった。
というのも、このキャラクターは設定上、登場するせかすくの世界から約900年前、ARK TALEが舞台である今の時代から言えば、約600年前には既にこの世界に生を受けているのだ。
平均寿命が人間と同等の汎人種でありながら、千年竜の尾から作られた魔剣に取り憑かれた結果不老不死となったものの、その魔剣の力と残った千年竜の意志により非業の運命を辿ることになってしまった、お労しい設定のあるラスボスなのだ。何なら死ぬために生きていると言って良い。
死ぬ方法を探すために各地を放浪する期間と、絶望に心が壊れて人が立ち入らないような場所で延々と自殺未遂を行う期間とを交互に繰り返しているのだが、ルイちゃん達の前に現れたということは、恐らく今は前者なのだろう。
言うてせかすくでの回想イベントだと、今の時期って鬱って洞窟内に引きこもりしてる最中の期間だったはずなんだけどなぁ……これも原作改変の影響か? 彼は星詠み、要するに簡易的な未来予知のような術が使えるし、その線は高い。
ちなみに彼も家名持ちではあるが、貴族ではない。彼が生まれた当時は、貴族以外にも豪商や村長等の権力のある人が店や村の名前を家名として名乗っていた文化があり、アルもその系統なのでただの一般市民だ。
「あの、素朴な疑問なんですけど……前作ラスボスがちゅんたゃにアーティファクトを渡してきたってことは、彼もちゅんたゃんの知り合い的な要素があるって事ですか? これってちゅんたゃ総受けってことです?」
「いや、それは無いです。単純に星詠みで見たから一方的に知ってるだけでしょうね。世界が私に都合が良すぎて錯覚するけど、総受けではないです。もしここがルイちゃん総受け二次創作世界だったら、ダニエル様もルイちゃんにキャラ崩壊レベルのデレを見せてるはずなんで」
「うわぁ説得力のある回答」
正直私も時々「この世界ルイちゃん総受け二次創作の世界か?」と思うことはあるが、ヘーゼルの言い方からしてARK TALE本編世界である可能性が高いので、ヨダカの言動はともかく、その他の対人関係に関しては単純にルイちゃんのコミュ力や人誑し力が高すぎるだけだろう。
……いやルイ推しに優しい事実だなそれ!? ありがとう公式設定……!
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