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109 這い寄るものは

今回から再び主人公視点に戻ります。

 リチャード氏と別れた後、私達はダニエル様の一声により、予定を変更してジュリアと合流することになった。

 とはいえ、その理由は語ってくれない。ただ一言「訓練は中止だ、ついてこい」と言われただけである。どうしてかと聞いて、ようやくジュリアと合流すると聞き出したのだ。


「ダニエル様。特訓は中断なのは良いんですけど、何故ジュリア様と合流する必要があるんですか?」


 ユリストさんの当然の質問に、ダニエル女公爵は大変不機嫌そうに返答した。


「聖女の動向について調べさせる。まったく、あの女狐のせいで折角の休暇が台無しだ!」

「あのー……つかぬ事をお伺いしますが、聖女様が居るからって、どうしてダニエル女公爵が直々に動かなくてはいけないんでしょうか?」


 別に聖女がバラットに居るからって、奴に因縁が出来てしまっている私ならともかく、ダニエル女公爵は何の関係も無いはずだ。

 単に嫌いな奴だから嫌がらせをするって言うのならまあ分からなくもないし、そういうことしそうな性格はしているが、だからといってダニエル女公爵は人に分かるようにするタイプじゃない。元凶が自分だと、相手が破滅する直前まで悟らせないタイプの人なのだ。


 ダニエル女公爵は苛ついた様子で、吐き捨てるように語る。


「あの女が動く時はろくな事が起きん。多少見た目が映える男が居る所にしか出て来ない奴が、大した色男の情報も無いこんな国の端の都市に用なんてあるはずが無い。何か良からぬ事が起きているに違いない」


 いや酷い言いようやんけ。

 というかあの子、やっぱり面食いだし男好きなのね……雰囲気がなんかそうだったもんね……うう、もにょってしまう。

 でもイケメン好きなら、レイシーの話は単にゲーム性能を基準にして仲間にしただけの可能性が浮上してきた。なんかああいうタイプって、女の子キャラを推してるイメージが無い。やるとしても夢主代わりの自己投影先にしてそう。

 いや聖女サイドにレイシーが居るって事実は変わらんのだが。


 しかし、あの子が動くとろくな事が起きないって、トラブルメーカー体質持ちなのだろうか。

 少し気になった私は、その事についてダニエル様に聞いてみることにした。


「ろくな事が起きないって、そのエビデンスはあるんですかね? 前例があるとしたら、何をやらかしたんですか?」

「そうか、貴様がこの国に来たのは秋からだったか。なら知るはずもあるまい。……奴が現れ、その名を知らしめたきっかけとなる事件があった。ネッカーマ嬢、引きこもりの貴様でも流石に分かるだろう?」

「え、ええ。確かあの時は、宙族の群れが王城を襲ったんですよね」

「なにそれ大事件じゃん!」

「だからこそ、それを収めた聖女の功績が栄えたという訳だ」


 宙族がたった一匹、田舎に現れて暴れたってだけで国を騒がせる大事件になるのは、ARK TALEでやっていたので知っている。それが夏イベのセレナの話だったのだが。

 それがこの国で一番警備が堅いだろう王城に現れるなんて、そりゃあとんでもない事態だ。SAN値チェック失敗からの阿鼻叫喚の地獄絵図になっていてもおかしくない状況だっただろう。


 まあ人前に出ても騒がれていない例外も居るっちゃあ居るのだが。

 ラガルイと同じく最推しカプの双璧を成すウォルイの攻めさんことウォルターは、主人公達一行の前にしか現れなかったので別枠である。

 あいつは人族を害するのが目的じゃなくて、主人公が奴の欲していた何かを奪ったらしく、嫌がらせとして邪魔やらちょっかい出してくるついでにそれを取り戻そうとしているだけなので……。ちなみに主人公は方舟のことだと解釈しているけど、主人公が奪ったとされている「何か」は明言していない。

 そもそも外見が分かりやすい宙族とは違い人族に似ているので、何かしらの術、クトゥルフ神話TRPG的に言えば「記憶を曇らせる」の魔術なんかを使って多少誤魔化したりして、人前に出てもバレにくくしているのではないかという考察をツブヤイターで見た記憶がある。


 それともう一人。蛇人間の、ARK TALEの表記で言えば、ヴァルーシアンの混血であるギィだ。蛙の子はなんとやら理論により、この世界では宙族と人族の混血もまとめて宙族だと判別される。

 彼は祖先に蛇人間がおり、旅商人のフリをして俗世の偵察に出ている熱心な宙族(イグ)の信奉者であり、現状唯一のプレイアブルキャラとなっている宙族である。

 まあ彼の場合は勝手に着いて来てるみたいなとこあるので……。人族と友好的に接している、希有な例と言える。


「現れたのは、シュグオランという宙族だ。確か十数匹程度の群れだったと記憶している」

「シュグオラン……ああ、シュゴーランのことか。奉仕種族の一種だったっけ……」

「無駄に蓄えた知識が生きたな。その通りだ」


 シュグオラン。クトゥルフ神話に登場する存在の名称であり、クトゥルフ神話でトップクラスに有名な外なる神、ニャルラトホテプの化身の一つ……要するに別の姿、あるいは一側面だけが強調された姿だ。

 角笛を持つ黒い男と表現されたり、ナマズのような肌と翼のようなヒレと水かき、それに長い口吻を持つ怪物の姿だともされている。または別の神性の姿と瓜二つとも。その口吻で獲物の血を啜り、自身と同じ姿で小型の使い魔を精製することが出来るらしい。群れというのは、多分本体一匹と残り使い魔だったのだろう。

 シュグオランだのシュゴーランだの微妙に呼び方が違うのは、単なる翻訳による表記揺れである。シュグオラン表記は80~90年代辺りの時に一般的だったもので、現在はシュゴーラン表記が一般的らしい。


「もしかして、そのシュゴー……シュグオランを一人でちぎっては投げちぎっては投げしたとかですかね」

「概ねその通りだ。瞬く間に奴等を一匹残らず殲滅した後に、現場に居た王の前で仰々しく妄言を垂れ流し、その結果、予言の聖女なんていう地位を手に入れた」


 いやそれって不法侵入……いや、底に関しては予言で云々とか言って誤魔化したのかもしれない。あらかじめ起きることを知っていたってことに出来る予言設定って便利だなおい。

 まあ王様の命の危機を救ったともすれば不法侵入も許されるし、予言の真偽がどうであれ、英雄として聖女の称号を授けられてもおかしかない……のか?


「その時奴は、『宙族が王を食い殺す事を知っていたから助けに来た』なんて宣ったそうだ。本来一般市民が立ち入ることの出来ない、王家に連なる者のみが足を踏み入れる事を許された庭園に、警備の者達誰一人にも気付かれずに現れてそんなことを口にしたから、あの腑抜けは信じたのだろうよ」

「王の事を腑抜けって……」

「そしてこの時と同様の手口はその後二回、行われた。シャンタク鳥、混沌の猟犬と種類こそ違えど、パーティー以外で奴が姿を現す時には必ず宙族が現れ、それを見計らったように奴が現れ、討伐した後に予言によって知っていたと発言した」


 シャンタク鳥はクトゥルフ神話に登場する、割と有名な奉仕種族の一種。混沌の猟犬というのは聞いた事……無いけど心当たりがある。


 クトゥルフ神話において「混沌」と言えばニャルラトホテプである。何故ならその存在の数ある呼び名の一つが「這い寄る混沌」だからだ。

 そしてニャルラトホテプが主に自身の手先として使役する奉仕種族に、「忌まわしき狩人」と呼ばれる怪物が居る。多分それが、「混沌の猟犬」と呼ばれるものの正体ではないだろうか。だってそれこそ、「ニャルラトホテプの猟犬」なんて表現されるような存在だ。確定ではないものの、私の推測は十中八九当たっているのではないだろうか。


 ……いやシャンタク鳥も忌まわしき狩人もかなり強いはずだが!? 少なくとも現代の人間だと銃器を持ち出したとしても手も足も出ないレベルの強さだぞ!? 多分この世界の人族基準でもそう簡単に討伐できるような存在じゃない。

 それを討伐したってバケモンかよ……。


「本来宙族なんて、混血でも無い限り年に一度現れるか否かだ。それが奴が現れてから既に三回。……ああ、ここからは一般人には秘匿されている情報になる。命が惜しくば、今後口を開く時は気をつけるのだな」


 ダニエル女公爵は酷く物騒な前置きをしてから、続ける。


「奴を盲信する愚か者共は、予言の力を以て宙族という脅威を退けているなんて抜かしている……が、それにしては何の前触れも無くて行動が突発的過ぎる上に、予言で知っていたと言っている割には前もって予言なんかしていないし、そんなもの誰一人聞いたことすら無い」

「……何というか」

「奴が自作自演をしでかしていても、おかしくないだろう?」


 それも思ったのだが。

 シュグオラン、シャンタク鳥、忌まわしき狩人(仮)。どれもニャルラトホテプに関係する存在だ。シュグオランはそれこそ化身の一つだし、シャンタク鳥は奉仕種族故に色んな神性に使われていて、ニャルラトホテプもその一柱。忌まわしき狩人に関しては、そもそも忌まわしき狩人であるという仮定の上に成り立つが、これもニャルラトホテプに使役される奉仕種族だ。


 ……これってもしかしなくても、ニャルラトホテプ案件なのでは?


 この世界にはクトゥルフ神話なんて概念は無い。

 しかし、私は知っているのだ。宙族の正体や、その元となった創作物を。メタ知識がある故に、これらの裏で暗躍している存在が分かってしまうのだ。


 襟ぐりから頭を出しているヘーゼルにこの推測について確認を取りたい。だが今は、ヘーゼルが喋れることを知らないダニエル女公爵が居る以上、それは出来ない。

 ああ、もどかしい……!


「此処は我が領土ではないが、私は麗しき薔薇の一族たるローズブレイド家。我が国の領土を穢す(そら)からの侵略者を排除するのは当然の責務だ。……それに奴自身も厄介だ。好き勝手動かれて被害を広げられる前に早急に手を打ち、出鼻を挫かねばならん」


 ダニエル女公爵の言い方は、何故か聖女本人の能力も危険だというニュアンスが含まれていた。

 それについて聞きたかったが、その前にユリストさんが声を上げる。


「うちの私兵騎士団も協力します!」


 ユリストさんがネッカーマ家も協力すると申し出たが、ダニエル女公爵はハッと鼻で笑って一蹴する。


「要らん。ネッカーマ家の私兵達は一通り見たが、どいつもこいつも足手まといにしかならんクラウト共ばかりだ。避難誘導程度にしか役に立たん」


 その発言アウトォ!! ドイツ人への蔑称で日本語訳すればキャベツ野郎ってなるやつですよ!?

 ちなみにこれは船乗りが壊血病予防に積んでた食品が由来になっているらしく、イギリス人はライムを積んでいたからライミーになるとか何とか。

 多分言語翻訳チート由来で私には「クラウト」と聞こえているだけで、海の男への蔑称ってことでこんな翻訳されているんだろうけども、そのせいで完全にどういう意図の差別用語使っているのが丸わかりなんだよなぁ……。


「エッじゃあどうするおつもりで!?」

「駄犬め。だからルージュに動いてもらわねばならんのだ。隣都市には第十二騎士団が配備されている。ルージュの権限でこちらに派遣させる」

「でも、それだと時間がかかりますよね。その間に何か起こったら……」

「それならば問題あるまい」


 ダニエル女公爵は一切こちらに振り向かないまま、当然のようにさらりと答えた。


「私が出る」


 ――この瞬間、私は思い出した。

 以前、ゲーム雑誌でARK TALEの特集が組まれた際にプレイヤーからの質問が募集されたのだが、その中の一つに「ダニエルをプレイアブルキャラで実装しないのか」という質問があった。

 そして公式は、こんな返答をしていたのだ。


 ――実装しないというか、出来ません。彼女はチート並みに強いので(笑)

ご清覧いただきありがとうございました!

また……また寝落ちて更新が一日遅れました……ッ! 誠に申し訳ございません。

最近は気圧のせいで眠気やら頭痛やら目眩やらしんどいですね……。


ちょっと面白そうじゃん? と思った方はブックマークをよろしくお願いします!

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