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日常壱齣  作者: 呉武鈴
3/5

井波樟葉観察記録

「ふと思ったんだが、いつも樟葉は捜査第零課(ここ)に来ないで何してんだ?」

日比野の発言に捜査第零課の全員が―増田はプラモデルの塗装を、ミクは雑誌をめくる手を、劉玄はPSPを操作する手を、それぞれが止めた。

「…確かに〜気になるね〜」

「気にはなりますが…知りたいとは思いませんね」

ミクと増田は返答するが、いつもうるさい何故か劉玄だけが発言をしない。

「…まぁ、どうでもいいこ―」

「お前ら、今すぐ支度をしろ」

あまり反応が良くなかったので話を切ろうとした日比野の言葉を劉玄が遮る。

何事かと思って劉玄を見れば彼はなんとも面白そうな顔をしていた。それだけで全員が気づいてしまった。樟葉の日常を本気で覗くつもりだと。

「…マジでやるつもりですか?」

「当たり前じゃ!上司たるもの部下のことを知らんでどうするか!?」

「いや、プライベートは知らなくてもい―」

「増田!早速カメラ盗聴器を部屋に仕掛けに行くぞ!」

「イヤですよ!見つかったら間違いなく僕が殴られますからね!」

「バレなきゃいいんじゃ」

「人権侵害はいけないとおも―」

「細かいことは気にするな!将来禿げるぞ」

「細かくないです!」

こうなったら誰も劉玄を止めることは出来ない。今までの経験からそれを悟った日比野はまだ文句を言ってる増田の肩を叩きながら「諦めろ」と言った。



「調査から一週間…樟葉から音沙汰無しということは結局バレなかったというわけじゃ」

「まぁアイツのことだから見つけても無視してる可能性が高いですけど」

重々しく喋る劉玄の横面倒そうに日比野が回収してきたカメラと盗聴器をテレビに接続していた。

「課長、セッティング終わりました」

「こっちも〜用意できました〜」

給仕室から大量の菓子とそれぞれの湯飲みを両手で支えながらミクが出てきた。「映画見るわけじゃないんですから必要ないんじゃないですか?」

「かの有名な探偵、竜〇も大量の菓子を食べながら監視カメラの映像を見てたんじゃ」

「…さいですか」

既に無駄と学習した増田がさっさと折れてポップコーンを手に取りながら再生ボタンを押した。


一日目

07:00―台所

『う〜、頭痛い…』

『知るか』

『水〜、もしくは酒、ちょうだい〜』

『自分でやれ』

二日酔いなのか頭痛を訴えながら寝室より出てきた樟葉に朝食の用意をしていた少年が律儀に反応した。ちなみに少年は相変わらず黒の帽子を被ったままである。


「…普通ですね」

「この時間なら〜間に合いますよね〜」

「てっきり昼過ぎまで寝ていると思っていたんだが…」

「意外と生活リズムは狂っとらんようじゃな」


07:30―台所

『水に浸けとけよ』

『分かってるわよ』

先に食べ終えた少年が一言言ってから食卓を離れ別室に向かった。ゆっくりと朝食を食べる樟葉は(どんぶり)が空になると脇に置いてある二つある炊飯器の中から可能な限り白米を丼に移している。その合間にも器用に三匹目の魚を箸で捌いている。


「朝からあんなに食べるんですか…」

「…太りそう」

「そんなことよりアイツは何しにいったんじゃ?」

「どうやら浴室に行ったようですね」


07:32―浴室

『……』

黙々と洗濯機から洗濯物を取り出し軽く皺を伸ばしながら籠に入れていく少年がいた。


「……」

「…少年くん、偉いね〜」「…まさか家事、任せきりなのか?」

「そんなことはどうでもいい。樟葉が何をしとるか見せんかい」


07:40―台所

『…味噌汁おいしー』

そんなことを言いながらまだ朝食を食べてる樟葉は丼に味噌汁を入れて飲んでいた。


「本当にどれだけ食べるんでしょうか?」

「これ〜ホントに朝食〜?」

「晩飯でもこんなには食わんだろ」

「これでは調査が進まん。早送りせい」


08:30―リビング

パジャマから着替えていない樟葉はそこらじゅうに積んである本から一冊抜き取るとベランダの窓にもたれて読み始めた。


「何を読んどるんじゃ?」

「一時停止、拡大してみます」

「これは…『菊と刀』だな」

「意外と〜まともな物を読んでるんですね〜」

「んなことはどうでもよい。次の行動まで早送りじゃ」


10:00―玄関

「じゃあ、留守番よろしく」

「へいへい」

私服に着替えた樟葉は少年に留守番を頼むと意気揚々と外出をしてしまった。


「…これは盲点でした」

「ずっと〜家でごろごろしてると〜予想してましたからね〜」

「どうするんですか、課長」

「どうせ今日だけじゃろ、帰ってくるまで早送りせい」


23:40―玄関

『ただいま〜』

結局樟葉はその日、深夜に帰って来て、何事もなくシャワーを浴び、就寝した。


「一日目は収穫無しですね」

「しょうがないよ〜」

「二日目以降に期待か?」

「うむ…早く先を見るぞ」


二日目

07:00―台所

『おはよう〜』

『さっさと飯食え』

『へいへい』


07:30―台所

『水に浸けとけよ』

『分かってるわよ』

先に食べ終えた少年が一言言ってから食卓を離れ別室に向かった。ゆっくりと朝食を食べる樟葉は(どんぶり)が空になると脇に置いてある二つある炊飯器の中から可能な限り白米を丼に移している。その間にもニ皿目のサラダを食べている。


07:40―台所

『…味噌汁おいしー』

そんなことを言いながらまだ朝食を食べてる樟葉は丼に味噌汁を入れて飲んでいた。


08:20―玄関

『何かあったら電話してなさいよ』

そんなことを言いながら私服に着替えた樟葉は外出してしまった。


「…二日目もですか」

「昨日より早く出てったね〜」

「何か嫌な予感がするんだが」

「さっさと早送りせい」


23:13―玄関

『ただいま〜』

その日も深夜に帰って来て、何事もなくシャワーを浴び、就寝した。


三日目

07:00―台所

『今日の朝、何?』

『いつも通りだ』

『え〜、たまには違うもの作ろうよ』

『自分でやれ』


08:20―玄関

『シャンプーもう無いからから買ってきといて』

そんなことを言いながら私服に着替えた樟葉は外出してしまった。


「…これ以上見てももう無駄な気がします」

「…同感です」

「どうします、課長?」

「…諦めよう」



こうして樟葉の日常に関して、捜査第零課の面々は誰も口に出さなくなった。


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