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日常壱齣  作者: 呉武鈴
1/5

依頼<鯛焼き

季節が春から夏に変わり始め、町では適度に保温性があり風を通しにくい服装から熱を逃がし易く通気性に秀でている服装に人々が替え始めていたが、とある探偵事務所にいた男―笠羽亨はそんなの俺には関係ないと主張するように黒のスーツ姿をしていた。

「…暑い」

机の上にだれているがこれでも事務所の所長である。コンコン

「ど〜ぞ〜」

だるそうに言われてから約2秒後、黒く長い髪を後ろで一つにまとめたいわゆるポニーテイルをした黒い瞳をした少女―柳葉忍がはいってきた。

「おはようございま〜す」「おう、31分23秒遅刻だ」しかし彼女は亨の言葉なんて少しも気にする様子もなく自身の定位置である部屋の真ん中にあるソファに座った。

そのまま数分たってから沈黙に耐えかねた亨は忍を見据えた。

「なんで遅刻したんだ?」

「仕事見つけてきたからよ」

「おっ、流石は忍だな。でどんな仕事だ?」

「いなくなった娘を探してほしいとのこと」

途端に顔をしかめ何か呟くとそのまま忍に背を向けてしまった。

「…悪いが依頼主に断わりの電話いれといてくれ」

「なんで受けないの?」

「人探しの依頼はいつもろくな事がないからだ」

亨が今まで関わった人捜しの仕事で一波乱起こらなかったことはなかった。例えば(忍経由で)家出少年を捜してほしいと頼まれた時は十数人のチンピラに囲まれたり(全員返り打ちにしたが)、ヤクザの若頭を捜してほしいと(これも忍経由で)頼まれた時は他の組との抗争に巻き込まれそうになったり、ろくな事がなかった。

「ちなみに報酬は弾むらしいよ〜」

椅子にもたれて足を机の上に投げ出して行く気を全くみせなかった亨は忍の言葉に反応し動きが止まり何か呟くと立ち上がり部屋と違い整理整頓が行き届いていない机の上にあるはずのボイスレコーダーを探し、机の下にあったのをポケットに押し込むと口を開いた。

「…ちょっくら出掛けてくる」

「何処に?」

「依頼主の家にだ」

「金に目がくらんだか…」


「只今戻りました…ってあれ?忍さん、享さんは?」

享が事務所を出て約20分後。両手に茶色の紙袋をぶら下げた給仕服―今風に言えばメイド服を着た住み込みで働いてる少女―桐野雪奈が帰ってきた。

「亨なら仕事に行ったよ」「せっかく両義屋の一日50個限定抹茶餡タイヤキ買ってきたのに…」

雪奈はがっくりしあからさまなため息をしたが忍は少し考えた後に逆に薄く笑った。

「…食べちゃおうか」

「いけませんよ。これは亨さんに頼まれて開店一時間前から場所取りして買ったものなんですから」

「全部食べちゃえば問題ないって」

「いえ、そうゆう問題ではなく…」

「何より亨が帰って来るのは早くても夕方だから鮮度が落ちてせっかくのタイヤキを美味しく食べることが出来ない。そんなのを亨に食べさせるなんてねぇ?」「うっ…!」

以前煎餅を買ってきたときちょうど亨が仕事に行っていたので帰ってくるのを待っていて一緒に食べようとしたが湿気てしまい、ふて寝してしまったことを雪奈は思い出した。

「そ、それはちょっと…」「ね?だから食べちゃお」「…でも」

「覚悟決めなよ」

忍はいつの間にかタイヤキを頬張りながら雪奈にタイヤキを眼前に突き出した。「あぅぅ…」

右手を伸ばしながらも、左手は右手を必死に押さえ付けていたが、理性が本能(食欲)に勝てる訳もなく最終的には両手にタイヤキをもっていた。

「やっぱり美味しいねぇ」「出来立ての上に抹茶は新芽を使ってますからねぇ」ガチャ

「わわわ忘れ物〜…ってあぁ〜!?」

「はむはむ…いきなり帰ってきてはむ…何叫んでんはむ…ゲホゲホ!?ゆ、雪奈ちゃん!ちょ、お茶!ちょうだいお茶!」

「え…あ、はい!はもはも…ゲホゲホ!?きょ、亨さん!ゲホお、お茶ください!」

「お、応―ってまてこらぁ!」

机の置いてある湯飲みに備え付けてあるポットのお茶を注ぎ二人に渡したところで最初に叫んだ理由を思い出した亨はまたも叫んだ。「ぷはぁ〜…ったく人が死にそうな時に何叫んでんのよ」

「自分の心に聞いてみろ!」

忍は胸に手を当てて数秒考えた後何か閃いたように目を見開いた。

「ごめん!前に机の上に置いてあった饅頭食べた!」「あん時の犯人テメェだったのか!」

「あれっ!?知らんかったの?」

「俺はてっきり雪奈が捨てたのかと思ってたわ!」

「うわ〜…言い損だ〜」

「それより今言うことあんだろうが!」

「もしかして両義屋の一日50個限定抹茶餡タイヤキを食べてたことですか?」

後ろから恐る恐る雪奈。

「さすが雪奈。わかってんな」

「ずるいずるい〜!なんで雪奈だけ誉めんのよ〜!」忍のときとは違い怒鳴らずいつもどうり雪奈に話す亨に子供のように手足をバタバタさせながら抗議をした。

「誉めてねぇよ。どうせお前が雪奈をうまく言いくるめて盗ったんだろうが」

「…違うもん!」

「じゃあ今の間はなんだ?」

「図星だったことに動揺して思考が一瞬飛んだ証拠」

「自覚してんじゃねぇか!」

とりあえず忘れ物持って依頼主のとこに早く行けってゆう話だが今の亨にとっては依頼<両義屋のタイヤキなのであった。


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