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第8話 イキリの手下が3x3を提案してきたので軽く遊んでみることにした。

「すごくない?」

「偶然でしょ」


 ざわつく体育館。

 緋色もびっくりして固まっている。

 オレ、やっぱり何かやらかしちゃったかな。


「おっけがわくぅーん」


 突如、三人の男子生徒に囲まれた。

 同じクラスだけど話をしたほぼ記憶はない。金髪やら鼻ピアスやら見た目チャラいし。


 一体なんの用事だ。


「見てたよ~バスケうまいんだね~」

「尊敬しちゃう~」

「俺ら一応バスケ部だったんだけど、良かったら試合とかしてみない? なんて思っちゃったりして~」


 どんな風の吹き回しだ?

 訝しく思っているとイキリ桶川がにやにやしながら見ていた。


(ああ、なるほど)


 なっとく。


(みんなが見ている中で情けない姿をさらしてやろう、って魂胆か)


 こいつらはイキリの手下。ヤツの周りにいるのはルックス目当ての女子だけじゃない。おこぼれをもらおうと群がる男子もたくさんいる。


「勝負はいま流行りの3x3(スリーバイスリー)で。いいよな、やったぁー」


 まだ何も言ってないにあれよあれよと話が進み、向こうは元バスケ部三人。仮に金髪、鼻ピ、腰パンと呼ぶ。こっちはオレと恩田、ついでにクラス内で浮いている地味な男子、只野が選ばれた。


「なんでぼくが見世物になって笑われなくちゃいけないんだよ~」


 髪を掻きむしり、この世の終わりのごとく項垂れる只野。なんだか申し訳ない。


「ふわぁ~めんどくせ~」


 片や恩田は大あくび。ラグビーやっているだけあって運動は得意のはずだが、やる気は皆無のようだ。


「こら恩田、おまえはもうちょっとやる気だせ」


「桶川ひとりで十分だろ。……それとも何か()()()必要があるか?」


 手伝う。

 あくまで主役はオレだと言わんばかり。こいつはなにもかも分かってるんだ。


「……いや、恩田は適当にディフェンスしてくれればいいよ。只野は転んでケガしそうだから突っ立ってていい」


「え、でも」


「悪いことは言わん。従っておいた方がいいぞ」


 肉厚な手でぽん、と肩を叩く。


「つまり──()()()()()ってことだ」



   ※



「時間は10分。21点のノックダウン方式。12秒ルールとかファウルとかバイオレーションとか細かいことはなしで。まぁ『余興』だし、俺らが圧勝しても文句無しで頼むぜ~」


 どっと広がる笑い声。

 緋色も心配そうに見つめている。


 大丈夫だ、ちょっと遊ぶだけだから。


「んじゃ、そっちから攻撃で」


 チェックボール。


 手渡されたボールを弾ませる。うん、いい。この感触だ。

 オレとしたことが、さっきはとんでもないミスをしてしまった。はずかしい。


 なんたって────。




 ────パシュッ!




 ダン、ダン、ダ……。


 ゴールネットから吐き出されたボールが金髪の足元に転がってくる。


「あ? なんでここにボールが?」


 まるで手品でも見たように目を白黒させている。


 そう。

 オレがボールを放ったことにだれも気付いてなかった。


「はい。2点」


 恩田のピースサイン。




「すっげぇ!!」


 体育館内が湧く。


「なにあれ、いつシュートしたの?」

「見た? 見えた?」

「なんかもう一瞬すぎて」

「やばっ!」


「ひと君……?」


 緋色はなにが起きたのか分からず、目を見開いている。

 笑顔もいいけどびっくり顔も好きだな。もっと見たい。


「ちっ、なんだよあれ……」

「まぐれだよまぐれ」

「仕切り直そうぜ」


 アークの外にボールが出たところでディフェンスに走る。


「早くよこせ」

「お、おう」


 鼻ピから金髪へのパス。

 だが。


(判断がおそい)


 パスカット。

 すかさず速攻をかけて追加の1点を奪った。




 ──そこからは、あまりにも一方的な展開だった。

 相手は0点のまま、どんどん点差が開いていく。


 恩田はなんだかんだ言いながらも一番でかい金髪を確実に抑えておいてくれる。

 只野は言いつけどおり隅っこで縮こまっている。うん、いい子だ。


「おらぁっ!」


 鼻ピがやけくそでシュートを打つがことごとくリングに嫌われている。


「なにやってんだよ下手くそ! さっさとシュート決めろっ!」


 イキリが突然大声を上げたもんだから、周りにいた女子生徒たちがびっくりして距離をおいた。

 ああいう態度よくないよなぁ。


「おい、桶川悠斗」


 オレが駆け寄るとイキリは顔を強ばらせた。


「そこまで言うならアイツらのだれかと交代しろ」


「はぁ!?……なんで俺が」


「3x3に監督はいない。全員が選手だ。外野で騒ぐなら誰にもできる。おまえも文句言うなら試合に出てカッコイイところ見せたらどうだ? それとも怖気づいてるのか?」


 すげぇ目でにらんでる。

 でも立ち上がる気配はない。


「ぅおっしゃー1点!」


 オレが離脱している間に相手チームに1点が入っていた。


 でも20-1。点差は圧倒的。残りわずか。


「おーい、ラスト決めるぞ桶川」


 恩田に呼ばれて「はいよ」と踵を返した。


「じゃ、せっかくだ。只野、手伝ってくれ」


「え? ぼく?」


「まずは、こう……そしたら……」


 ごにょごにょと作戦を伝える。




 ラスト一本。

 相手の面構えが変わった。元バスケ部っていうのは嘘じゃないみたいだな。そうこなくっちゃ。バスケは楽しんでなんぼだ。


 チェックボール。


 まずは恩田にパス。


 相手を引きつけたところで只野にパス。


「わっわわっ」


 只野はバタバタしながらも両手でボールを上げてくれた。

 ちょっ遠い。でも決めてみせる。


 金髪をかわして跳びあがり、空中で受け止めたボールをそのままリングに叩きつけた。


 ギシ、ギシ……

 派手に揺れるリング。



「すっ……げぇアリウープだぁあああ!!!」

「かっこいい!!!」

「ひとくーん!」



 体育館の窓が震えるほどの大歓声。耳が痛い。

 桶川悠斗が呆然と佇んでいる姿が視界に入った。


(みたか)


 21-1。

 ノックアウトだ。



   ※



「すごいよぉ、本当にすごいよぉ」


 興奮のあまり鼻水垂らしている只野。はやく拭け。


「よ! ナイスファイト。最後まであきらめずよく頑張ったな」


「ちっ、汗ひとつかいてねぇし」

「バケモンかよ」


 金髪たちは不服そう汗を拭っている。

 まだ二割も出してないって言ったらキレるかな。ま、わざわざ伝えなくていいか。


「桶川、おまえ、あんなすげーシュート打てるのになんでさっき外しそうになったんだ」


「ああ、あのボール女子用の6号球でさ、分かっていたけど感覚が鈍ってて。いや恥ずかしい。スウィッシュ決めたかったのに」


「ちなみに桶川ってどこ中?」


 どきっ。

 これはイヤな流れかも。


「あー……県外だよ。たぶん聞いたことないと思うぜ」


 中学の話はしたくない。

 なぜなら。


「そういえば同い年ですげぇ選手がいるって聞いたことある」と鼻ピ。

「知ってる知ってる、全国大会常連の朔丘(さくおか)学園の」と腰パン。

「俺も遠目に見たことあるぜ。二つ名は確か──」と金髪。


「「「黒い閃光!!!」」」


 ハモるな。


「へ、へぇ、そんなダサい仇名(あだな)の選手がいたのか。知らなかったなぁ~、あははは」



 ……だからイヤなんだよ。

 誰がつけたのか知らないけどクソ恥ずかしい仇名だから。

ご覧いただきありがとうございました。

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[気になる点] 1ゴールが1点なのか2点なのか分からない
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