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第5話 かわいい三姉妹

 帰宅して部屋のベッドに座り込んでしばらくすると唐突に……きた。


「っしゃあああ!! お付き合い成功だぁあああ!!!」


 ベッドの上でポンポン跳ね回る。たまらん。嬉しすぎ。


「ま、三ヶ月なんだけどな。いやでもオッケーされるとは。もしかして間宮もオレのこと……いやいやまさか」


 ニヤニヤが止まらない。

 表情筋こわれたかも。



(よろしくお願いします──か。手ぇあったかくて滑らかだったなぁ)



 感触が蘇ってくる。

 この手はもう一生洗わんぞ。


「おにぃちゃーん」

「おにいさま~」

「ワンワンワン!」


 階下から慌ただしい足音。


「おにぃちゃんバスケやろー!」

籠球バスケですの~!」

「バワンバワン!」


 我が家の三姉妹アイドル、10歳の双子の妹モモとハナ、ついでに4歳のサクラ(メス)だ。


 部屋に駆け込んでくるなり遠慮なく顔を撫でて(一匹は舐めて)くる妹たちをひとりずつ引きはがし、座りなさい、と床を示す。


「いいか。いつも言ってるように兄の部屋に入るときはノックをしてだな」


「バスケ~」

「籠球~」

「バワワワンッ!」


「人の話は最後まで聞け! あと顔をぺろんぺろん舐めるなサクラ!」


 思うままに抱きついてくるから暑苦しいしベタベタするし、もう大変。


 とは言え、幸せな時間でもある。

 中学は全寮制で夏と冬の短期間しか帰れなかったから気軽に触れ合う余裕もなかった。



 そのせいでちょっとした事件が起きたこともある。

 あれは確か短い正月休みを終えて帰ろうとした日だ。


『おにいちゃんまた行っちゃうの?』

『変ですわ。おにいさまのお家はここなのに』

『キューン……』


 ふて腐れる妹たちをなんとかなだめすかして親父の車で駅まで送ってもらった。

 電車を待っている間に母親から連絡が入り、ちょっと目を離したすきに妹たちが家を出て行ってしまったという。血の気が引いた。


 親父と手分けして探し回ることになり、オレは駅から自宅までの道のりを徒歩でたどった。

 河川敷に差し掛かったところでサクラの鳴き声がし、駆けつけると妹たちが泣きじゃくっていたのだ。


『おにいちゃんの忘れ物、困ると思って』

『でも道が分からなくなって』

『クゥーン……』


 「忘れ物」と手渡されたのは愛用していたリストバンドだ。同じようなものはいくつも持っているのに、妹たちはこれがないとオレがバスケできないと思い、励まし合いながら知らない道を追いかけてきたという。


 オレの方が泣いてしまった。



「おにーちゃん?」


 むにっと頬をつままれる。


「おにーさま、籠球やらないですの?」

「アンアン!」


 いまではこうしてスキンシップをとれる。

 あんなふうに胸が引き裂かれるような思いは懲り懲りだ。


「分かったよ、分かりました。制服着替えてすぐ行くから庭で待ってろ」


「わーい」

「やったーですのー」

「ワン!」


 賑やかな一団が嵐のように去っていく。

 はぁ、あんなに可愛い妹たちに囲まれたオレは幸せ者だ。



 大急ぎで着替えていると──ピロリン、とスマホが鳴った。


「ん? メール?……ってえええええ!!??」


 相手は間宮緋色。


『こんにちは。今日はありがとうございました』


 はわわわ、どうしよう、初めての連絡だ。


『もし良ければ明日いっしょに登校しませんか? 付き合っているんだからおかしくないよね』


 もちのろんです。大歓迎です。


『それと、名前。お互いの呼び方。苗字じゃおかしいよね。それぞれ相手をなんて呼ぶのか考えておいて明日会ったときに発表しあいましょう。楽しみにしてるね♪』




「…………ふぅ」


 知らないうちに息を止めていたらしい。というか呼吸っていつするんだっけレベル。


 間宮からのメールはちょっとぎこちない感じだけど、これまでの関係性を思えば大きな進展だ。


 明日は待ち合わせて登校する。

 これまでとは違う呼び方で。



(名前かぁ──どうしよ、なんて呼ぼう)



 『まみやひいろ』だからカップルらしく呼ぶなら『ひろ』か『ひいろ』。

 『ひぃ』なんて砕けた感じもいいな。

 はたまた名前とは関係ない愛称って手も。



(いきなり呼び捨ての『ひいろ』は難易度が高い。三ヶ月の期間限定ってことも考えると無難な『ひろ』あたりか)



「ひろ、ひろ……ひろ」


 予行練習。

 我ながら照れる。

 だってオレが『ひろ』って呼んだら間宮が「なぁに?」と応えてくれるんだろう? 最高すぎる。


「やば、返信まだだった」


 彼女からの初めてのメール、なんて返せばいいんだろう。


 『り』──じゃ軽すぎるか。

 『承知しました』──は堅苦しいよな。

 『それな、』──なにがだよ。


 一回のやりとりにこんなに手間取うなんて、これから三ヶ月もつのかな。


 でもどうしたって嫌われたくないんだ。

 間宮にはいつも笑っててほしい。

 楽しい思い出でいっぱいにしたい。


 そのためならオレは──。



「ワンワンワン!!」


 待ちきれなかったサクラが襲撃してきた。


「ちょ! ごめん! 行くからシャツ引っ張るな!!」


 とりあえず返事はあとだ。

 急いで庭に向かうとモモとハナがなにやら言い争っていた。


「モモのー」

「ハナのですわ」

「こらこらなにを揉めてるんだ」


 仲裁に入るとふたり同時に叫ぶ。


「モモがおにぃちゃんと遊ぶ!」

「ハナが先ですの!」


 なんだそんなことか。

 妹たちに奪い合いされて兄ちゃん幸せだよ。


「よし分かった。じゃあバスケでより多く点数をとった方と遊ぶよ」

「負けないからね」

「望むところですわ」


 ふたりはライバル心をむき出しにしてバスケをはじめた。


 なんて。

 最初こそオレを奪い合っていたが、いつしか純粋にバスケを楽しみはじめる。サクラという最強のディフェンスも加わり、なんだかとっても楽しげだ。


「おにーちゃーん」

「一対三の試合をしましょー」

「バウバウ!」


 奪い合いはどこへやら。

 ふたり&一匹との試合が始まった。


 ふたりが所属するミニバスケのクラブは全国でも上位に入る。レギュラーとして今年こそ優勝したいと意気込んでいるのだ。


「モモ集中しろ。オレの動きをよく見ろ」

「うん!」

「ハナ戻りが遅い」

「はい!」

「サクラは言うことなし。反応が早いしボールへの執念と予想不可能な動きが大変よろしい」

「バフ!」

「ただし”飛びかかる攻撃”はやめろ。あとしょっちゅうオレの足踏んづけてる」

「ワフ!」

「返事だけはいいよなぁー」


 三対一の攻防は激しく、あっという間に汗ばんでくる。

 そろそろ夕飯の時間だ。


「よしこれでラストな」


 弾んでいたボールを受け止めるとふたりが目を輝かせた。


「さいごにあれやってー」

「ぽーんとばーんですの」

「ワンッ!」


「あぁあれか。んじゃモモ、パスしてくれ」


 ゴールに向けて走り出す。


「えーい」


 モモが上げたボールを空中で掴んでそのままゴールに叩きつける。


「ありうーぷ!」

「カッコイイですのー!」

「ワゥー!!」


 ふたりと一匹は大盛り上がり。

 そうそう、大会で披露すると一瞬会場が静まり返って大歓声が湧いたっけ。気持ちよかったな。


「次ハナもボールあげたいですのー」

「もう夕飯だからまた明日」

「ワンワンワンワン」

「サクラも? おまえ自分のこと完全に人間だと思ってるだろ~」


 そういえば、と思い出す。


(たしか桶川悠斗もバスケ部所属だったな。運動しているところ見たことねぇけど、背高いし、これくらいできるよな、きっと。余裕だよな?)


 心地よい疲労感。沈む夕日が緋色に輝いている。



(あれ、なにかとても大事なことを忘れているような──)



「あ! 返信忘れてた!!」

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[良い点] 妹三匹( ͡°ᴥ ͡° ʋ)(≧(エ)≦ )(=`ェ´=)ワウワウ
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