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第32話 フライング…ならず

【あらすじ】地区大会も終わり、夏休みまであと少し。佑人は緋色を自宅のBBQに誘う。

 妙な汗をかいたので部屋で着替えることにした。

 緋色に見られてもいいように片づけたけど杞憂だった。オレもばかだな、まだそこまでの関係じゃないっていうのに。


 焼肉くさいシャツを脱いでベッドに放り投げる。はー涼しい。

 地区大会終わったから本格的な夏が来たみたいだ。約束の花火大会までもう少し。うまく告白できるといいけど。


 なんて考えていたら廊下で足音がした。


「でね、ここがおにぃちゃんのへやー」

「昨日の夜中まできれいにしてたんですのー」


 ノックもなしに扉を全開にされた。正面にいた緋色とまともに目が合う。

 ちょっと待てオレいま上半身、なにも――。


「きゃあっ」


 緋色が顔を覆った。


「うぁあああああああっっ!!!」


 ダッシュしてバンッって扉を閉める。しばらく廊下でワーワーと声がしたけど程なくして遠ざかっていく。


 やべぇ。やべぇよ。

 心臓がピンポン玉みたいに跳ね回って、体が熱くて、苦しい。


 どうしちまったんだオレ。なんでこんなに恥ずかしいんだ。

 他人にハダカ(上半身)を見られるのはなにも初めてじゃない。部活でびしょびしょになったシャツを着替えるとき、夏場にサクラを外のプールで洗うとき、ちょっと前なら妹たちを風呂に入れるときも当然ハダカになってた。


 なのに、なんで。

 ――いや答えなんて決まってる。緋色だからだ。


「…………ひいろ」


 そっと舌に乗せる。

 届くはずもない。けれど名前を呼ぶほどに思いは募る。


「すきだ」


 もし心臓にタトゥーを入れられるなら緋色の名前を刻みたいな。

 ……って、夜中のポエムかよ。恥ずかし(苦笑)。




   ※




 夕方、緋色を駅まで送っていくことになった。


「なんかごめんな、ほぼ一日引き留めちゃって」


「ううん、今日は誘ってくれてありがとう。楽しかった」


 BBQ後、緋色はバスケやらテレビゲームやらおままごとやら双子に付き合ってくれた。そのせいで「帰らないで~!」とギャン泣き。家を出るまで大変だった。


 緋色が「また来るから」と必死に取り繕っても「泊まってってよー」「一緒にお風呂入りたいですのー」と駄々をこねるこねる。


 最後は両親にそれぞれホールドしてもらって急いで飛び出してきたが、あとあと尾を引きそうだ。


「騒がしくてごめんな。いつもあんな感じで」


「そんなことないよ。ご両親やモモちゃんハナちゃん、それにサクラちゃんもすごくフレンドリーで嬉しかったもん。どうしてひと君が優しいのか分かった気がする。本当にすてきな家族だね」


「サンキュ」


 いろいろあったけど今日は楽しかったな。

 また来てくれないかな。できれば今度は彼女として……。


「もうすぐ夏休みだな」


「うん、日に日に暑くなってきたよね。ちょっと歩いただけでも汗が出ちゃう」

 

 手団扇でパタパタと顔を仰ぐ。うっすら汗ばんだ細い首がたまらなく色っぽい。

 花火大会では浴衣で来てくれないかな。


「夏休みになったらほぼ毎日部活があるんだよな」


「そう、小石崎くんたちの希望でね。もっと強くなりたいんだって。地区大会のことがいい刺激になっているみたいだよ」


「あー確かに目つきが変わってきたよな。練習に取り組む姿勢も」


「ひと君のお陰だね」


「オレは何もしてないって。やると決めたのは小石崎たちだろ」


「でもひと君の存在が大きな目標になってるのは事実だよ。地区大会後一人も脱落せず熱心に練習してるもん。次は県大会進出だって意気込んでるよ」


「もしかして『彼女』のお陰かな……?」


 つい最近、小石崎は告られたらしい。相手はたまたま地区大会を見に来ていた月波の一年女子で試合中の姿に惚れたとはなんとか。


 他クラスで全然関わりがなかった相手なのでひとまずお友だちからスタートすることになったらしいが、休憩中にすかさずメールチェックしている姿からデレデレなのが分かる。


「彼女と言えばひと君、最近いろんな子に告白されているでしょう?」


 どきっ。


「な、なんのことかな……?」


「隠してもダメだよ。お昼休みや放課後に呼び出されているの知ってるんだから」


 緋色はちょっぴりご立腹の顔。


 ──じつは地区大会後オレの過去が学校中に知れ渡ってしまったのだ。


 きっかけは『りぃな』の動画配信。イチオシ選手!として地区大会の試合や朔丘時代の動画が紹介されてしまい、あれよあれよと有名人に。


 結果。

 毎日のように知らない子から呼び出されて告白される。

 「彼女(予定)がいるので」とお断りしているが、諦めきれずマネージャー志望者が殺到して顧問が必死に止めているという話だ。


 当然緋色の耳にも入っているだろう。


「この前はモデル活動している人に呼び出されたんだよね? すごく美人でスタイルもいい人」


「あー……でもちゃんと断ったぞ。たぶん自分の動画登録者アップ目当てだから」


「その前は生徒会長。氷の令嬢って呼ばれるあの人がひと君の前ではデレデレになって……」


「断った。オレすら記憶にないミニバス時代の得点記録表とか作ってて怖かった。あれはヤバい」


「昨日は一年生の間で絶大な人気を誇るマスコット的存在の子からラブレターもらってたよね」


「いやあれ変な呪文が書かれてて、調べたら『必ず成就する恋の呪い』とかなんとか……ってよく知ってるなオイ!」


 緋色は「あたりまえだよ」と唇を尖らせる。


「だっていつも見てるから。変な意味じゃないよ。気がつくとつい目で追っちゃうの」


 なにがあるわけでもなく目で追ってしまう。

 一挙一動が気になって、視界にいない間も「何してるのかな」って考えてしまう。


 なぜなら。


「なぁ、そういうの『恋』って言わね?」


「えっ」


 オレに指摘されて改めて意識したらしい。

 耳まで赤くなり、恥ずかしそうに顔を覆う。


「そっか、私やっぱり、ひと君のこと……意識してたんだ……」


 やっぱりあの時聞こえた「すき」は間違いじゃなかったんだ。

 緋色はオレのこと──。


「……ひと君」


 緋色の方からそっと手を伸ばしてきた。


「手つなぎたい。ダメ?」


「お、おお」


 優しく引き寄せて指を絡ませる。


 熱いな、熱い。

 ドキドキしてきた。


 ほのかに汗ばむ夏の夕暮れ。

 二人きり。邪魔する者はなにもない。



(どうする、花火大会はまだ先だけど今ここで言っちゃう?)



 ここまで意思疎通できたら先延ばしにする必要はないだろう。


 幸いにして横断歩道は赤だ。

 今朝緋色と落ち合った場所。




 隣を見ると、ばちっと目が合った。


 潤んでいる。


 なにかを期待して。




「ひいろ」


「うん」


「いまさら取り繕っても仕方ないからシンプルにいくな。オレ、緋色のこと……」


 もうすぐ信号が青に変わる。

 オレだって立ち止まったままじゃいられない。動かないと。


「緋色のこと、好──」



『ワンワンワン!!』


「ぐぉっ」


 後ろから突撃されて危うくつんのめりそうになった(バスケで鍛えた体幹で耐えた)。


「サクラ!?……つかみんないる!?」


 サクラの手綱を持つのは母親だ。

 その後ろから泣きべそをかいたモモとハナが顔を出す。


「「ひいろちゃん~!!」」


 二人とも緋色に飛びついて大喜び。ちゃっかりサクラも輪に加わっている。


 母親が申し訳なさそうに手を合わせた。


「ごめんなさい佑人。二人がどうしても見送りに行きたいっていうからサクラの散歩ついでに来ちゃった♪」


「来ちゃった♪──じゃねぇよ」


 まぁ……そもそもBBQの目的は双子の勝利祝いだし。

 ずっと泣かれるのも困るし。

 先走ろうとしていたオレも悪い。


 でもさ、あと少し遅ければなぁ……。



「ひいろちゃんホント!?」

「一緒に夕ご飯食べてってくれるですのー!?」


 なぬ!? 夕飯!?


 それは願ってもない。


「佑人、もうすぐお父さんが車で来てくれるからみんなでご飯食べに行きましょうね。終わったら間宮さんのお家まで送るわ。そのかわり花火大会はあの子たちが邪魔しないようにするわね、二人で行きたいでしょう?」


 さすが母親。恐るべき洞察力と用意周到さ。

 オレ(息子)の考えなんてお見通しってわけだ。


「おにぃちゃん、ひいろちゃん夕飯たべてくって」

「楽しみですのー」


 手を叩いて喜ぶ二人の間で緋色は申し訳なさそうに頭を下げた。


「ごめんねひと君。もう少しだけ一緒に居てもいいかな?」


 なんの、オレだって本当は小躍りしたいくらい嬉しい。

 なんたって花火大会で二人きりになれる確約がとれたのだから。

本日からスラダンの映画が公開されましたね。バスケブーム来い!

モブの物語もいよいよ佳境。次回は約束の花火大会です。ブクマしてお待ちください。もちろん星評価も大歓迎です。

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[気になる点] 氷の令嬢とマスコットきになるわw
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