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第31話 BBQパーティー

『ピー!』


 ホイッスルが鳴った。


「がんばれモモ!」

「ハナちゃんも頑張ってー!」


 今日はミニバスのブロック大会、決勝戦だ。

 緋色を誘って応援に来たオレたち。コート上にはユニフォーム姿のモモとハナがいる。


 試合は白熱し、同点のまま延長戦を迎えた。

 泣いても笑っても最後の3分間。こっちも気合いを入れて応援しなくては。


「どうしよう、なんだかドキドキしてきちゃった」


 緋色が不安そうに手を重ねてきた。

 その手をぎゅっと握り返す。


「大丈夫だ。毎晩遅くまで練習してたんだ」


「……うん、ひと君の妹ちゃんたちだもんね」


 毅然と前を向く緋色。

 思わず見とれるような横顔。やっぱり可愛い。


 先日の地区大会後「オレのことをもっと知りたい」と言われたので妹たちの大会に誘ったけどOKしてくれるとは思わなかった。彼女を飛び越えて身内みたいじゃんか。



(大会後、緋色「すき」って言わなかったか、オレに。半分寝てたから聞き間違いかも知れないけど、言ったよな、好きって……)



 確かめたいような、怖いような。


 隣の緋色がすぅっと息を吸い込んだ。


「がんばれー!!」


 力いっぱいの声援。

 オレの試合中もこうやって応援してくれたよな。


 こっちも負けられないぞ。


「モモ、ハナ、がんばれー!!」




 ――残り30秒。


「いけモモ!」


 得意のドリブルを仕掛ける。先回りしていたハナにパス。ハナは果敢にシュートするがボールはリングに弾かれる。リバウンドをとったのはモモだ。それを見たハナが再び走り出す。


「ハナ!」


 パスを受けたハナがぐっと腰を落とした。ミドルシュートを決める気だ(ミニバスはスリーポイントシュートがない)。熱心に練習していたのはこのためか。


 入れ!

 ぐっと前のめりになった。

 隣の緋色も身を乗り出している。


 終了のブザーが鳴り響いた直後、ボールはシュパッとゴールに吸い込まれていった。


「はいっ……た」

「入ったね……」


 緋色と見つめあう。


「「やったー!!」」


 緋色と抱き合った。


「おにぃちゃーん」

「見てたですのー?」


 二人が手を振っている。


「あぁ見てたぞ。すげぇカッコよかった! ご褒美はBBQだ!!」


「「わーいっ」ですのー」


 妹たちの成長を見ていると胸が熱くなる。

 緋色も涙ぐみながら手を叩いていた。


「ふたりともすごかったね。上手だった」


「サンキュー! ウチは試合に勝ったら焼肉にするって決まりなんだ。今日は親父が仕事で遅いから明日の昼かな」


「へぇなんだか楽しそうだね♪」


 緋色が満更でもなさそうに頷くから、ちょっとだけ魔が差した。


「良かったら、緋色も来ないか。変な意味じゃないぞ。祝賀会の焼肉を一緒に食べたいなぁ、なんて」


「ひと君のお家に?」


 びっくりしている。

 そりゃそうだよな。家に招いたら家族公認の彼女ってことになる。さすがにまだ早いかもしれない。


「いいじゃない、ぜひいらっしゃい」


 横から割り込んできたのは最前列で応援していた母さんだ。


「佑人に間宮さんのような素敵な彼女ができてうれしいわ。モモやハナやサクラもきっと喜ぶはずよ。ね? ねぇ? ねー?」


 有無を言わせない勢いに緋色はたじたじ。


「あ……はい、では、お言葉に甘えて」


(さすが母さん!)


 内心拍手を送った。

 もつべきものは空気が読める母親の存在だ。



   ※



 日曜日。

 朝から暖かい日差しが降り注いでいた。最高の焼肉日和だ。


 オレは早起きして親父とBBQの準備をする。

 いつもバスケをしている庭のコンクリートの上にシートを敷き、簡易テントと夏のキャンプで使う四人掛けのベンチ(机とイスがセットになっているやつ)を置く。サクラがやんちゃしないよう重石を置いて紐を準備(BBQしていると自分も欲しいと飛びかかってくる)し、簡易イスをいくつか準備しておく。


 時刻は10時20分。約束は11時の電車だ。

 走れば駅まで10分とかからないのでまだ時間がある。


 さて……部屋の掃除でもするかな。


 いや、変な意味じゃないぞ。

 昨日ざっと片づけたけどもう一回ちゃんと掃除しておいた方がいいかなーって。


 でも緋色が部屋に入ると決まったわけじゃないからな。見られて困るものがあるわけでもないぞ。誤解しないように。


 ――ピロリンとスマホが鳴る。

 緋色だ。


『ごめんなさい、待ちきれなくて着いちゃった(´;ω;`)』


 くっ! 絵文字かわいいかよ!

 って浮かれている場合じゃない。


「駅まで迎えに行ってくる!」


 中に声をかけて家を飛び出した。


 見慣れた景色がいつもと違って見える。全部がきらきら光って見える。体が軽くて空も飛べそうだ。


 体感時間5秒くらいで駅前通りに着いた。

 信号待ちのついでに「もうすぐ着くよ」とメッセージを送る。即座に反応があった。



『もう目の前にいるよ』



「え?」


 パッと顔を上げた。


 横断歩道の向こう、信号を待つ人の中にとびっきり可愛い女の子がいる。青いデニムジャケットに白いロングスカート。輝く笑顔で「おーい」と手を振っている。


 緋色だ。


 ……なんだろう、すげー幸せな気持ちだ。

 このまま信号が変わらなければずっと見ていられるのに。



 信号が青に変わった。



「ひとくーん」


「緋色」


 横断歩道の真ん中あたりで緋色を捕まえてぎゅっと抱き寄せる。迷惑そうに避けていく周りの目なんてどうでもいい。


 緋色が好きだ。大好きだ。

 この気持ちは止まりそうにない。



   ※



「モモのー!」

「ハナのですー!」


 桶川家ではかつてない争奪戦が繰り広げられていた。

 「お客様」である緋色の左右を陣取った双子はそれぞれ焼き上げた肉を食べさせようとしているのだ。


「モモが焼いた牛カルビ先に食べて!」

「ハナが焼いた牛ロースが先ですの!」


「あの……順番にもらうから、ね?」


「いま食べてほしいの!」

「ハナも美味しく焼いたんですの!」


 ヒートアップした二人は歯を剥いていがみ合っている。焼き係をしていたオレは見かねて助けに入った。


「お客さんを困らせるな。あと肉ばっかりじゃなく野菜を食べろ。このピーマンやナスなんか最高だぞ」


「「えーっ」」


 まだ食べてもいないのに苦い表情かお


「これ食べてからじゃないとお客さんにあげちゃだめだぞ」


 しっかり焼き上げた野菜をそれぞれの紙皿に乗せてやった。

 野菜嫌いのふたりは互いに顔を見合わせる。そして。


「「サクラおいでー」」


 なんでも食べる最強の助っ人を召喚しやがった。

 

『わんわん!!』


 奥の紐につないでいたサクラは「ハイ喜んで!!」とばかりに大暴れ。重石をずるずると動かして間近までやってきた。なんつー怪力。


「こら、人間の食べ物はサクラに食べさせちゃダメなんだぞ!」


「「サクラすごーい」」


「ひとの話を聞けー!」


 双子は嬉々としてサクラのもとに駆けていく。

 その刹那、



『わぅうううう!!(肉をくだしゃーい)』



 野生の力とでもいうのだろうか。容赦なく飛びかかり、驚いたふたりは皿をひっくり返してしまった。

 幸いサクラが届かないところに落下したが、もう食べられない。


「モモのーっ!」

「ハナのおにくですのにーっ!」


 案の定ぎゃん泣きだ。

 ほら見たことか、ズルしようとするからだ。


「モモちゃんハナちゃん元気出して」


 見かねた緋色が立ち上がってふたりを椅子に座らせる。


「はい、私が焼いたバラ肉だよ」


 新しく出した皿にバラ肉をそっと乗せていく。

 オレも焼き上がったばかりのウィンナーを置いてやった。ふたりの大好物だ。


「おにく食べるー」

「いただきまーすですの」


 ふたりは大粒の涙をぬぐい美味しそうに肉を食べていく。


「ふたりとも偉いね」


 優しく頭を撫でる緋色の神々しさといったら。聖母かな。


「ほーんと間宮さんはいい子よねー」

「まったくだなぁ。佑人はいい子を見つけてきた」


 オレたちが甲斐甲斐しく面倒を見ているっていうのに両親は簡易イスで酒盛り。呑気なことだ。

 ま、桶川家ウチはいつもこんな感じだけど。




「ねーひぃろちゃんはどうしてそんなにお胸おっきいの?」

「ハナも知りたいですのー」


 元気を取り戻した双子はとんでもない爆弾質問を口にした。

 え、ちょっ、ま、いやオレだって気になってるけど、そんなこと訊くなよ。小学生って怖いな。


「そうだなぁ……あっ、そうだ。お野菜をたくさん食べて牛乳もいっぱい飲んだからかもしれないよ。ほらサクラも昔は子犬だったけど好き嫌いしないで食べたから大きくなったんでしょう」


 犬というのはそういうものだ、とは言わないでおく。

 ふたりは大真面目で頷くと皿に残っていた野菜に箸を伸ばした。


「じゃあモモもピーマン食べる……うっ」

「ハナだってタマネギ食べられます……うう、にがいー」


 すげぇな緋色。すっかり手玉にとっているじゃないか。

 ちらっと目が合ったときに「やるじゃん」と親指を立てておいた。緋色も嬉しそうだ。


「こんどはハナがききたいですの」


 大嫌いなタマネギをひと欠片食べたハナが次に手を挙げた。


「ひぃろちゃんは男の子と女の子の赤ちゃんどっちが好きですのー?」



(赤ちゃん!? なに聞いてんだ!?)



 数日前に双子が言いにきたな、自分たちにも妹か弟が欲しいって。

 なんでオレに言うんだって思ったけど。

 

 まさか──……。



「私は男の子も女の子も好きだよ。赤ちゃんって可愛いよね」


「モモ、聞いたですの?」

「うん、どっちも好きだって」


 モモとハナはうれしそう顔を見合わせた。


「もしかして双子かな」

「じゃあ弟と妹ですのね」

「「わーい」」


 手を叩いて喜ぶ二人をよそに緋色は困惑している。


「ふたりともどうしたの?――ひと君もすごい汗だね。どうして?」


「な、なんでもねぇ!」


 知らぬは本人ばかりなり。

 でもそうか緋色は赤ちゃん好きなのか……ってオレのばか……!

10万字を目安にしていたので早いもので最終章です。約束の花火大会まであと少し。更新は断続的になるのでブクマお願いします。

※1万pt達成ありがとうございました。

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