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第30話 大会後の…

【あらすじ】鷹野の卑劣なワナにはまった佑人。圧倒的な差を埋めるべく『黒い閃光』として全力で挑んだ結果、逆転勝利するが──。

 36点差からの逆転勝利。

 このまま優勝間違いなし!──って意気込んでいたのに……。



「準決勝惜しかったね。ひと君」


「言わないでくれ……」



 劇的な勝利を果たした月波高校は準決勝へと進出。

 ここを勝てば2位以上が確定して県大会に進める……はずだったが、奇跡は何度も起きなかった。


 vs朝日が丘高校。

 結果は惨敗。


 月波高校は準決勝敗退となった。



「仕方ないよな。一年はとっくに限界だったしオレもあそこまで厳しくマークされたら自由に動けない。じりじりと点差が広がって……相手校の作戦勝ちだ」


「でもベスト4だよ? すごいことだよ」


「うん──そうだけどさ──」


 すでに表彰式も終わり、会場周辺は閑散としている。


 グラグラ煮え立っていた体育館内の空気もいつの間にか消え去って、すっかり大人しくなってた。


 反省会のあと小石崎たちは筋肉痛でヒーヒー言いながら帰っていったが、オレはなんとなく心残りがあって敷地内のベンチに座っていた。そこに緋色がやってきたのだ。


 心地いい風が緋色の髪を揺らす。


「ひと君も悔しいんだね」


()? 緋色も?」


「うん。ワガママだと思うけど県大会に行ってほしかった。みんなが闘う試合をもっと見ていたかった」


「オレももっとやりたかったな……」


 試合のことを思い出すといまも胸が震える。


 まるで身体にエンジンが搭載されたみたいに、いつまでもどこまでも走って行けそうだった。

 あんなに興奮したのはいつぶりだろう。



(そういえば、いつの間にかいなくなってたな鷹野)



 試合後、大会側に鷹野のことを詳しく説明した。

 事態を重く見た大会側は星浦に事情聴取すると約束。処分が決まるまで星浦は無期限の出場停止になるという。


 星浦の無関係な生徒たちには申し訳ないが鷹野と下衆キャプテンはもう二度と現れないでほしい。



「そういえば昨日のお昼トイレで鷹野さんに会ったよ」


「え? 二回戦の前?」


 緋色が涙ぐんでいた時ではないか。

 まさか鷹野に泣かされたのか?


「中学のとき、大会で優勝したら付き合おうって言ってたんだって?」


「お……おお」


 どきっとした。

 鷹野のやつ緋色になにを吹き込みやがった。


「で、ひと君は優勝したんだよね?」


「でも付き合ってないからな! いろいろと事情があって……!」


 誤解された大変だ。ちゃんと説明しなければ。


「もちろん分かってるよ?」


 緋色はきょとんとしている。


「だってひと君言ってたじゃない。ただの同級生。それ以上でも以下でもないって」


「え?」


「二人の間にどんな約束事があったとしても私はひと君の言葉を信じるよ。そもそも鷹野さんとは一度会っただけで良く知らない人だから相手にする必要もないかなって」


 つよない?

 メンタルつよない?


「……鷹野どんな反応だった?」


「それがね」


 困ったように眉根を寄せる。


「ひと君が頑張ってチームが優勝したことと付き合おうって言ったことがどう関係するんですか? って訊いたら、あんぐり口開けてた。落ちてたリップクリーム拾ってあげたら『バカじゃないの』ってひったくって出て行っちゃった」


「ほぉー」


 それは見たかった、かもしれない。


 鷹野は自分の言動で相手が戸惑うのを面白がっている。

 信じてもらえない、真に受けない、ノーダメージ。それが一番きついだろう。


「すげぇな緋色」


「なにが?」


「いや、こっちの話。じゃあなんで涙ぐんでたんだ?」


「コンタクトが痛くて」


 なんだ、そんなことか。


「良かった。てっきりひどいこと言われたのかと思った」


「ううん、へいきだよ。いじめられていた頃の私だったらショック受けていたと思うけど、ひと君は私を信じて傍にいてくれてたから全然不安じゃなかった」


 そっか。

 ここまでの積み重ねが緋色を強くしたんだ。

 オレたちの絆も出会ったころからは想像できないくらい強くなっている。


「緋色、今日応援ありがとな」


「こちらこそ、月波をベスト4まで導いてくれてありがとう♪」


 見つめあうオレたち。

 なんだかいい雰囲気だ。



「──……ふぁあ」



 せっかくいい感じなのにあくびが出てしまった。


「まだ眠そうだね。ハーブティーの影響?」


「いや、さすがに疲れが出たんだと思う。昨日遅くまで妹たちの練習に付き合ってたし今朝も早かったから……ふぁあ」


 どうしよう止まらないぞ。


「あっ、もし良かったら──」


 おもむろにハンカチを取り出した緋色は自分の足元に丁寧に広げた。


「──ここで休む?」


「えっ!? 緋色のふとももで!?」


 一気に目が覚めた。


「すごく眠そうだから少し寝れば楽になるかなって……だめ?」


「いや全然! もうめちゃくちゃ眠いです!」


「良かった。どうぞ遠慮なく」


「じゃあ……失礼して」


 ゆっくり体を傾ける。


 

 ぽふん。



 緋色の太もも。

 適度な弾力とやわらかさがオレの頭をもふっと包み込んで最高ですね。


 さらに最高なのが。


「ふふ。どうですか、ごしゅじんさま?」


 特等席から見上げる緋色の可愛さだよ。


「さいっこーです。このまま死んでもいいくらい」


「それは困っちゃいます」


 下から見上げる困り顔もいいぞ。

 別アングル最高だな。


「……私、ひと君のことなにも知らなかったね」


「ん? なにが?」


「『黒い閃光』って呼ばれていた頃のこと。昨日鷹野さんに言われてそれだけが気になって家でいっぱい動画見たんだ。いまと変わらず素敵だった」


「ごめん、隠していたわけじゃないんだけどクソ恥ずかしい仇名だから」


「ううん。……思い返せばひと君とお試しで付き合って二ヶ月たつのに何も知らなかったなぁって。自分から全然知ろうとしてなかった。ごめんね。これからもっと知りたい。中学のことだけじゃない、どんな景色を見てなにを感じたのか、子どもの頃の夢とか、バスケやるようになったキッカケとかご家族のこととか、いっぱいいっぱい、ひと君に染まりたい」


 ……はは。

 もはや捉え方によっては逆告白じゃないか。


 嬉しくて、恥ずかしくて、あとちょっと眠い。


「緋色」


 そっと伸ばした手を包み込み、「なぁに」と小首を傾げる緋色。


 うるんだ瞳がとびきり可愛い。

 下睫毛すら可愛い。


 最高に幸せだ。




 ──なんだか急に目蓋が重くなってきた。







「ひと君、寝ちゃったの?──ひと君?」




 まどろみの中に緋色の声が優しく響いてくる。

 髪を撫でてくる手が気持ちいい。




「あのね、ひと君────……ひと君…………すき、です」

これにて2章終わりです。

最後までもう少しだけお付き合いください。

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