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第24話 地区大会・初戦開幕!

【あらすじ】中学時代に『黒い閃光』と呼ばれた天才、桶川佑人はいまやモブとなり、地味系美少女・間宮緋色ととに高校生活を満喫していた。しかしなりゆきでバスケ部に入部し、後輩たちとともに公式戦に出場することになり──。

 6月。地区大会の朝だ。雲一つない快晴。風が気持ちがいい。


「ひと君、おはよう!」

先輩パイセンちーっす」


 朝7時、会場近くの駅で緋色たちと待ち合わせた。オレと緋色、一年七人が全員集まったところで会場に向かってぼちぼち歩きはじめる。


「いよいよだね。どきどきしちゃう」


 興奮を隠しきれない様子の緋色。


「朝からそんなにテンション高いと午後つらいぞ」


「だって楽しみなんだもん。昨日は全然眠れなくてちょっと寝不足……」


 目の下にうっすらとクマができているのはそのためか。

 遠足前の子どもみたいだな。


「小石崎はどうだ? 緊張してるか?」


「俺っすか。見ててください、この日のためにスリーやダンクめっちゃ練習したんすよ。これで他校の女子からモテモテ間違いなし!」


「……そういう場じゃねぇよ」


 出場は全32校。2日間にわたってトーナメント戦を行い、上位二位までが上の大会に進める。周りを見ると色とりどりのユニフォームを着たいくつもの集団が同じ方向に歩いていく。大会に出場するライバルたちだ。

 ひさしぶりの緊張感。ピン、と背筋が伸びる。


「なぁあの人さ……」

「似てるよな」


 後ろからやってきて、ちらちらとこっちを見ている他校のやつら。

 似てるってまさか……。



(やべ、もしかしてバレた!?)



 とっさに顔を背けて素知らぬふりをした。


「やっぱ違うんじゃないか、『黒い閃光』が月波にいるはずないし」

「だよなぁ。朔丘は県外だし」


 幸い気づかれなかったらしい。

 笑いながらオレたちを追い抜いていく。


 ふう。危なかった。

 恩田の言うとおりオレの存在に気づかれたら一年たちに余計なプレッシャーを与えかねない。


 目立たずモブに徹する。

 うん、これだ。



   ※



 会場に着くと思ってもいない事態が起きていた。


 顧問の先生とともに受付を済ませて戻ってきた緋色は、なにやら深刻な表情を浮かべている。手には大会要項のパンフレット。


 どうした、と問いかけるとなぜか悲しそうにうつむく。


「……ひと君。ここで重大発表があります」


「じゅ、重大発表!?」


 どきっ。

 一体何が起きてるんだ。まさか出場する前から失格とか?


「じつは……ひと君も初戦に出場することになりました」


「……へ?」


 緋色が手にしていた開催要項にはトーナメント表とともに一回戦のメンバーが記されている。


 4番、桶川佑人。


 ……なんで?


「初戦のメンバーは3日前までに大会側にメールすることになってたんだけど、ゆー君がこのメンバーで提出していたの」


 なんで桶川イキリが? と思ったが一応部長だったわ(名前だけだが)。

 ならば、ふつうに考えれば「桶川悠斗」と書かれているはずだが。


「送る前に顧問の先生も名前が違うんじゃないかって確認したらしいけど『この字で間違いありません』ってシラを切ったらしいの。私も確認不足で……。ごめんなさい」


「緋色が謝ることじゃないだろ。それで、肝心の部長は? どこにいるんだ?」


「いま生配信やってるみたいっすよ」


 スマホを示したのは小石崎だ。

 カラオケみたいなところで早乙女たちと激辛料理の食べ比べをしている。アホか。


 なに勝手にオレの名前を書いてんだよ。

 高2にもなって自分の名前も書けないのか?……いやさすがにそこまでバカじゃないだろう。



(もしかして嫌がらせか?)



 以前に3x3で手下たちをコテンパンに負かせた腹いせに無断でメンバーにしたのだろうか。かつて自分が惨敗した地区大会で惨めな負け方をすればいいとでも思って。ほんと性格悪いな。


「ほんとうにごめんねひと君。でもお願い、一緒に戦って。はいこれ」


 月波のユニフォームを差し出してくる。

 青空のような深い青に、白く染め抜かれた『4』の数字が目を惹く。



(結局またこれを着るのか)



 朔丘のころは黒地に白く縁どられた4のユニフォームだった。

 『黒い閃光』というダサネームの由来でもある黒だ。


「分かったよ。試合に出ても出なくても、できる限りサポートするつもりだったしな」


「良かった。ありがとう!」


 跳びあがらんばかりに喜んでいる。


「なんかめちゃくちゃ嬉しそうだな」


「だって私もほんとはひと君が試合で闘っているとこ見たかったから」


「こっちは重大発表って言われてビビったんだけど」


「えっと…………えへっ♪」


 小首を傾げて可愛いふりしてもダメ──って言いたいけど可愛いから許す!!

 いつの間にそんな萌え仕草覚えたんだよ。可愛すぎるだろ(´;ω;`)。




 第1試合 月波高校vs光岡国際高校


「試合が始まる前にこれだけは言っておく。初戦、オレはサポートに回る。自分から積極的には点を獲りに行かない」


 ざわっ。一年たちの顔つきが変わった。

 こいつらオレが出るから余裕だと思ってただろ。


「おまえたちのポテンシャルや試合での動きを見たい。サポートするしパスも出すけど点を入れるのは自分たちだ。相手は発足間もないチームらしいけど経験者が何人もいる。ただボーっと立っていれば勝てるなんて思うなよ、足元すくわれるぞ」


 マジかよ、って戸惑いながらも、徐々に顔つきが変わっていく。

 やらなきゃ、闘わなきゃ、って目に光が宿る。


「面白い。そうこなくっちゃ」


 ただひとり小石崎だけはニヤニヤしている。こいつ意外と好戦的なのかもしれないな。


「ひと君かっこいい」


 目を輝かせる緋色には申し訳ないが。

 オレが目立ちたくないだけなんだけどな。



   ※



 ────いざ、試合開始ティップオフ



(さて、どうやって攻めたもんかな)



 相手は経験者を含む一年チーム。素人ばかりのこっちはやや分が悪い。


「どぅりゃあああああ!!!」


 すっげー勢いでゴール下まで走って行くのは小石崎だ。

 短距離走かな。


「先輩パス! パスください!」


 随分とやる気だな。そんなにモテたいのか。

 まぁやらせてみよう。


「ん」


 コースを見極め、シュッと鋭いパスを出す。


「いでっ!」

 

 ちっ、取りこぼしやがった。ダメだアイツ。


 こぼれ落ちたボールが相手チームに渡る。速攻をかける気だ。すかさず反転して自陣に戻り、ディフェンスに回る。


「ぅげ、はやっ」


 追いついて前に回り込む。

 まさか追いつかれるとは思ってなかったらしく相手は本気でビビってる。


「ええっと」


 きょろきょろ見回してパスコースを探してる。判断が遅い。


「よっと」


 一瞬の隙をついてパッとボールを奪った。

 ゆっくりドリブルしながらオレの後ろにいる月波の一年・島田に声をかける。


「島田、走れ。パスする。いけそうならそのままシュート。無理そうなら小石崎にパスかこっちに戻せ。24秒ルールを忘れるな」


「わ、分かりました」


 走り出した島田。タイミングを見計らってパスした。

 小石崎に次いで背が高い島田。じつはミニバスの経験もあるらしい。


 ゴール下でもみ合いになったが、島田はうまく合間を抜けてゴールを決めた。

 これで先制点。


「ちくしょう……」


 小石崎は不満そうだがオレからすると浮かれすぎて空回りしてるんだよな。


「次は……よし細野、おまえスリー練習してただろ。パスするからやってみろ」


「ええっ、でも」


「試合本番で入ると気持ちいいぞ。別に落としても死ぬわけじゃないから」


 シュパッ……スリーが入った瞬間、細野は驚きとともに恍惚の表情を浮かべていた。新しいなにかに目覚めた気がしてちょっと怖い。



「つぎは山崎。ゴール下での競り合いを怖がるな。確実にリバウンドをとれ。ボールはおまえの大好きな焼肉弁当だと思え」



「なぁ林、初めての試合で不安だよな。何をどうしたらいいのか分からなくて怖いよな。無理にシュートを狙わなくていいから仲間の位置を把握していつでもパスを出せるよう心掛けろ」



「おい森田、ばてるの早いな。もっと体力つけなくちゃ」



「こら小田もっとやる気出せ。なにもできないならせめて声出せ」



 七人いればそれぞれの特徴がある。試合でそこそこ結果を出せるやつ、出せないやつ、やる気のないやつ、あるやつ。


「どぅりゃあああああ」


 小石崎みたいに元気が空回りするやつ。

 まぁお陰でチームに活気が出ているからいいんだけど。




 そして──迎えた4nd。残り数分。

 恐れていた事態が起きた。


「走れ! 絶対に守りきれ!」


 ウチの一年が体力切れを起こす中、相手チームが猛チャージをかけてきた。

 10点以上あった点差はみるみるうちに狭まってくる。



 ──シュパッ!



 重要な場面で相手のスリーが決まった。

 これで41-42。1点差。このままじゃ負ける。


「ちっくしょおおおお!!!」


 多くの一年がガス欠で満身創痍の中、自分のポジションも忘れてオフェンスにディフェンスにと走り回る小石崎。やっぱり体力あるな。


「先輩!」


 リバウンドで競り勝った山崎がオレにボールをよこした。


 どきっと胸が鳴る。

 仲間が死に物狂いて奪ったボールはずしりと重い。


「時間ないんで! 見せつけてやってください!」


 小石崎が叫ぶ。

 ムカつくくらいの笑顔で、親指立てて。



(簡単に言うけどオレだってオレなりに葛藤があったんだぜ)



 現役から遠のいて一年経っている。いまさらどんな顔してコートに立つんだって内心思ってた。練習してなかった分だけ体力落ちたし、技の精度も確実に下がっている。



(──でも、)



 ちらっとベンチを見ると、

 立ち上がった緋色が心配そうに手を組んでいる。



 ──『この前の体育でひと君がみせてくれたようなスリー打てたら気持ちいいだろうと思って』


 ──『すっごくかっこいい私の自慢の彼氏なんだ♪』



 好きな女の子の前でカッコイイ姿を見せたい。

 これは本能だ。



(オレって案外単純なのかもな)



 頭の中は煩悩にまみれていても、身体は正直だ。

 何千、何万回と練習したスリーポイントシュート。体に刻まれた動きを忠実に再現する。



 リリース。


 オレの手を離れたボールはあらかじめ決められた軌道をまっすぐになぞる。



(目立たないようにしようって思ったんだけどな……)



 ──ザシュッ!



 ブザーが鳴るのと同時にボールがネットを揺らした。


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