第23話 緋色の嫉妬?
【前話までのあらすじ】
地味系美少女・間宮緋色と3ヶ月限定のお試し交際をしている桶川佑人。ウフフな放課後デートを満喫していると、かつて自身を失意のどん底に叩き落とした「女」と再会してしまい──。
「ひさしぶり。あたしのこと、覚えてる?──もしかして忘れちゃった? 哀しいな、泣いちゃうかも……」
わざとらしく目元を拭う。
生憎と泣きたいのはこっちの方だ。
こいつのせいで全中優勝の喜びを嚙みしめる間もなく失意のどん底に叩き落とされたのだ。見る目のなかったオレも悪いけど、試合でみじめに負けたとき慰めてくれたり毎日メールのやりとりをしたりと相手の立ち回りが格段に上手かったのだ。
「ねぇひと君、こちらの方は?」
後ろに隠れていた緋色がゆっくりと前に出てくる。
相手の眉がぴくっと吊り上がった。「なにこの女」とばかりに。
しかし中身は最悪でも外面だけはいい。
今回も臆することなく笑顔で身を乗り出してきた。
「はじめまして。佑人の元同級生、鷹野 彩矢です。あなたは?」
「あっ間宮緋色です。ひと君──桶川くんと同じクラスで」
「へぇ、同級生。……同級生ねぇ。金曜日の放課後に一緒に遊ぶくらい仲良しなんだね。しかも『ひと君』って愛称呼び? いいなぁ」
「そ、そんな……」
無邪気に頬を赤くする緋色をじっと見つめている。
「ふぅん」
値踏みするように上から下までじっくり眺めたあと「勝ったわ」とばかりに髪の毛をかきあげた。
(このなめ腐った態度、なんでかイキリを思い出すな)
恋愛感情から醒めたいまなら冷静になれる。
鷹野は相手の性格を見定めた上で自分の有利な方向にもっていくのがうまい。
たとえば。
「佑人、背伸びたんじゃない? びっくりしちゃった」
さりげなく腕に触れてくる。
ほらみろ。たったいま緋色に「仲良しなんだね」と言ったばかりなのに、まるで自分たちの方がより親密だと言わんばかりに。
(そうはいくか)
さっと体を離すと残念そうに眉を下げる。
「ひさしぶりに会ったのにその態度はないんじゃない? 冷たいなぁ。中学卒業してから全然連絡くれなくて、いま何してるのかなぁっていつも気にしてたのに」
「オレには関係ない」
「もう、相変わらずの塩対応。やんなっちゃう。……でも元気そうで良かった。身長が伸びて体つきもしっかりしたし、顔立ちも大人びてすっごく格好良くなった。ね、間宮さんもそう思わない?」
「え? 私? ええと……」
「あ、同中じゃない人に言っても分からないよねぇ。ごめんなさい、悪気はなかったの。佑人がそれだけ見違えたって言いたかっただけ」
「はぁ……」
鷹野の吐き出す毒は緋色には刺激が強すぎる。
「緋色、もう行こうぜ」
もうこれ以上話すことはない。
緋色の手をとって半ば強引に歩き出した。
鷹野は追いすがるかわりに良く通る声で告げた。
「その制服、月波高校でしょ? あたし星浦に進学したの。近いうちにまた会えるかもね」
楽しみにしていた制服デートがこんな形で仇になるなんて……。
最悪だ。
※
思えば鷹野はいつも相手の心を手玉に取ってきた。
美人で社交的、明るくてノリがいいクラスのムードメーカー。その上、周りに比べて胸の発達がよく、禁止されていたメイクなどもこっそりしていたこともあって随分大人びて見えた。
カノジョに好意をもつ同級生も多く、クラス内では度々「告白して返事待ち」という話題で盛り上がっていた。そんなとき、こいつは裏でなぜかオレに訊いてくる。
──『○○君に告白されたんだけど、どうしたらいいと思う?』
自分がされた告白だろ、自分で考えたらどうだ。
と応えると、にっこりと笑って『やっぱりお断りする。好きな人は別にいるから。ぜんぜん気づいてもらえないけどね』って意味深なことを言ってドギマギさせるのだ。
(なにが中学卒業してから全然連絡くれなくて、いま何してるのかなぁっていつも気にしてたのに……だ! 自分の胸に手を当てて考えてみろ!)
「……と君、ひと君、」
「星浦高校に進学? なんでだよ、なんでまたオレの前に現れるんだ」
「ひと君、おーい、ひ・と・くーん…………こらっ!」
「え?」
気がつくと目の前でポテトが揺れていた。
不満そうに頬を膨らませている緋色も。
「もう、早くしないと食べちゃうからねっ!────ぶっぶー時間切れ。あむ……。うーん美味しい♪」
……ひとり芝居を楽しんでいる。なにこの子可愛いんですけど。
「だってひと君ずっと上の空だったから。難しい顔で考え込んでてさ」
鷹野と別れたあと急いで複合施設を出た。
施設内で鉢合わせするのを避けたくて、あえて町中に出た。たまたま目についたファミレスに飛び込んでいまに至る。
さすがにここまでは追いかけてこないだろう。学校を知られたのは厄介だけと。
「さっきの人のこと考えてたの?」
うーん、なんと答えたものか。
変な誤解されても困るしなぁ。
「もしかして付き合ってた、とか?」
「ぶふっ」
飲みかけのジンジャーエールを吐きそうになった。
すでにとんでもない誤解してるじゃないか!
「ちがう! 全然ちがう! あいつとはただの同級生。それ以上でも以下でもない」
「……ほんとに?」
しかめっ面でストローをかき混ぜている。
なんか変だな。
「緋色なんで怒ってるんだ?」
「べつに怒ってないです」
と否定する割には延々とストローかき混ぜてんな。もう中の氷溶けきってるぞ。
「あいつには……ちょっとした苦い思い出があるんだよ。今にしてみればバカみたいな笑い話だけど正直思い出したくないっつーか……うん、うまく言えないけど」
「そう……だったの」
「そそ。そういうワケ。ごめんなせっかくの楽しいデート中なのに」
申し訳なさで頭を下げると緋色の表情が一転、明るくなった。
さっきまでの不満顔はどこへやら。
「ううん、私こそ詮索したみたいでごめんね! 全然気にしなくていいよ、すっごく楽しいから! ほらたこ焼きも美味しそう」
いつの間に注文したのか皿いっぱいのたこ焼きがテーブルに鎮座している。
濃厚なソースがたっぷりかけられ、青のりと鰹節が踊っているようだ。
「これロシアンルーレットたこ焼き。一つだけ激辛なんだって♪」
「へぇ激辛…………え?」
「はい。あーん♪」
テーブルごしに身を乗り出し、たこ焼きを勧めてくる。
とびっきりの笑顔だ。ホカホカと湯気が立ちのぼるたこ焼きとのギャップがめちゃ可愛い。
辛いものはあまり得意じゃない。
が、ここで「はいあーん」を断れるものか。
(いざ!)
身を乗り出して一口でたこ焼きを頬張った。
ソースの旨味とぷりぷりのタコの食感が口いっぱいに広がる。
「おいしい?」
緋色はまるでイタズラが成功したときのような笑顔。
「ん、さいこー」
ぐっと親指を立てる。
一転して緋色は真面目な表情に変わった。
「じゃあ今度は私ね」
同じ爪楊枝でたこ焼きを頬張っている。
ちょっとまて、それって間接キスじゃね!?
「んー、美味しい♪ ちょっぴりピリ辛なのがまたいいね」
いやそれ、当たりじゃね?
(そういえば間宮家の母は味覚がちょっとアレな人だったわ。緋色も多少なりとも遺伝子継いでるのかもしれない)
あっという間に一皿分食べきったがオレは激辛には当たらなかった。
緋色は「おかしいなぁ」と首を傾げていたが知らない方が幸せかもしれないと黙っていた。
「ねぇ、もうすぐバスケの地区大会だね。去年は一回戦敗退だったけど今度はどこまでいけるかなぁ」
「まぁ小石崎たちの頑張り次第だろうな」
「ひと君は試合には出ないの?」
「んー……少なくとも初戦は一年たちメインでやらせたい」
恩田にはオレが目立つと一年がやる気をなくすって言われたし。
モブに徹しよう。
「でも大会には行くぞ。緋色や小石崎達をできる限りサポートするつもりだ」
「ありがと。ひと君がいてくれると心強いよ。──いまから想像するだけで胸がドキドキしちゃう。たくさんの人が見ている中でみんなが闘うんだよね……」
「もちろん緋色もチームの一員として」
「うん! 頑張ろうね!」
ガッツポーズする緋色を見ていると胸が熱くなる。
随分長いこと忘れていた闘争心がオレの中で息を吹き返した気がした。
いつもご覧いただきありがとうございます。
更新頻度が遅くて前の話が思い出せない。と貴重なご意見をいただきました。ありがとうございます。現状での毎日更新は色んな意味で●ぬので難しいですが、たくさんある小説の中からふらっと本作に寄ってくださった方にも分かるよう、前書きに「前話までのあらすじ」を書いてみることにしました。
ご新規さんも馴染みさんも、引き続き「いいね」や「星評価」で応援お願いします。




