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第19話 たわいないお喋り。ふたりきりの時間。

 離れがたい気持ちはオレも同じだ。


「じゃあ待合室で駄弁るか」


「うん。やったぁ」


 意気揚々と駅構内に入ったが何やら様子がおかしい。困惑顔の客でごった返し、駅員さんが必死に「ご迷惑おかけしておりまーす」と叫んでいる。なんだろう。


「お。パイセン。なんか電車止まっているらしいっすよ」


 先に到着していた小石崎が近づいてきた。


 たしかに「ただいま運転中止しています」の張り紙が出ている。


「雨による倒木が原因ですって。復旧には相当かかるそうっすよ。俺たちはゲーセンでヒマ潰すかって話してたんすけどパイセンたちは……」


 小石崎の目線がオレたちの手元に注がれる。


 あ、恋人つなぎのままだ。


「こ、これは、その」


 慌てて手を放したが小石崎の眼差しは冷たいまま。


「余計なお世話でしたね。お邪魔虫は消えま~す」


 なにも言ってないのに空気を読んで去っていく。ナイスすぎるだろ。

 ほかの一年たちもニヤニヤしつつ駅舎を出ていった。


 はぁ、一気に体温あがったわ。


 いや今はこの先どうするかを考えないと。


「え……と電車しばらく動かないみたいだけどどうする? 待合室で待つか?」


「でも人がたくさんいるね。私たちが席とっちゃうのは申し訳ないな」


「ちなみに家まで徒歩でどれくらい?」


「ここからだと一時間くらいかなぁ。道順は知っているけど実際に歩いてみたことはないんだ」


「ふぅん」


 お。ひらめいた。


「まだ明るいけど一人で帰るのは心細いだろう? 途中まで送っていくよ」


「え、でも、ひと君の家って真逆だよね。遅くなっちゃうよ?」


「へーきへーき。もうすぐ雨もやみそうだし、送ったら走って帰るし」


 オレの家は徒歩一時間半くらい。走ると四、五十分はかかる。緋色の家から引き返すことを考えると二時間は覚悟した方がいいだろう。

 でも、それくらいなんてことはない。一分でも多く緋色といたい気持ちの方が強い。


「だめか?」


「う、ん……」


 悩んでいる。

 でもすぐに答えを出したようだ。顔を上げた瞬間の表情で分かる。


「私もね。もっともっと話したかったし、ひと君とお喋りしながら帰れたら楽しいだろうなってちょっと思ってた」


「ちょっと?」


「ううん、すっごく!」


「素直でよろしい。じゃあ行くぞ」


 並んで外に出た。一本しかない傘をさして歩く。


 雨の勢いは少しずつ弱まってきて、灰色のベールに覆われていた景色がしだいに鮮明になっていく。

 吹きつけてくる雨風は冷たいけど手をつないでいると寒さなんてまるで感じない。


 もうすぐ六月か。部活に文化祭。

 お試し期間が終わる七月まであっという間だろうな。


 もっともっと一緒にいたいな。お互いの誕生日を祝えるくらいまで。


「そういえば緋色の誕生日って三月だったよな?」


「よく知ってるね。三月三十日だよ」


 だてに片思いしていたわけじゃない。誕生日くらいはチェック済だ。

 もう少し早く知ってたら誕生日プレゼントあげられたのに。


「あ、ねぇ私も知りたい。ひと君って何月生まれ?」


「緋色とほぼ一年違い。四月十三日」


「え!?」


 ぴたっと足が止まった。

 なにをそんなに驚いているのか。


「ゆーくん、四月十一日生まれなの」


「……あ、そ」


 二日違い。名前だけじゃなく誕生日もほぼ同じなのかよ。うれしくねぇ。


「ちがう、ちがうの」


 ぶんぶんと首を振ってなにかを必死に訴えかけてくる。


「私、早産だったの。予定日より二週間も早くて、もし予定通りだったらひとつ下の学年になってた」


 そうか。

 あと数日遅ければ合格発表の場所で会うことはなかったのだ。


「お母さん産休に入ったばかりだったからびっくりしちゃって、今でも冗談半分で大変だったのよーって言うの。だから時々考えることがあったんだ。どうしてそんなに急いで出てきたんだろうって。小さいころはゆーくんの幼なじみになるためだと思っていたけど、もしかしたら――」


 緋色の目がひときわ輝いて見えた。


「もしかしたら、こうしてひと君に会うために飛び出してきたのかもしれないね」


「……!」


 オレも――。

 オレも緋色に会うために生まれてきたんだと思う。

 いや、そんなわけないんだけど、そうだったらどんなに嬉しいか。


「だったら嬉しいな」


「きっとそうだよ♪」


 不思議なもんだ。

 緋色と接するたび「これ以上好きになるはずがない」と思うのに、何度も上書きされる。初めて好きになった時よりどんどん「好き」が濃くなるんだ。リミットが分からない。いつ終わるのかも分からない。


「緋色」


 この気持ちはとても言葉にできそうにない。

 だから華奢な体を抱き寄せる。

 早生まれのあわてんぼの緋色がもうどこにもいかないように。



   ※



「着いた。ここが私の家だよ」


「……でかっ」


 到着したのは閑静な住宅街に佇む一軒家。鬱蒼としげる庭木のせいで全容は確認できないけど門構えや佇まいから立派な家だと分かる。



(緋色の家族って医者とか理事とか社長とかだったよな)



 イキリの家が頼るくらいだ。まじで資産家なのかもしれない。お嬢様とかだったらどうしよう。


「ひと君どうしたの?」


「いやなんでもない。じゃあオレ帰るわ。また明日な」


「待って──!」


 身をひるがえした瞬間ぎゅっと服を引っ張られた。


「……緋色?」


「良かったら、なんだけど」


 緊張しているのか表情が硬い。

 まさかこれは。


「ここまで送ってもらってすごく助かったから、もし良かったら家に寄っていかない……ですか?」

更新遅れてすみません。仕事でメンタルやられてました。

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