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第16話 中間テストが終わってイチャイチャできると思ったら…

 5月。オレは人生でもっとも憂うつな時間を迎えていた。



 ──キーンコーン……チャイムが鳴り響く。



(ぃよっしゃあああ!! テスト終わったぜー!!!)



 一学期の中間テストから無事に解き放たれて体いっぱいに自由を噛みしめた。


「おー随分と余裕じゃないか桶川。ははーん、さては山が当たったな」


 帰り支度をしていた恩田が絡んできた。


「ふっ、んなわけないだろ。ちゃーんと勉強したんだよ」


「ほぉー。一年の時の総合成績は222人中111位。ザ凡人を地でいくおまえがか?」

 

 恩田の言うとおりオレの成績は中の中。お世辞にも賢いとは言えない。

 だが一年前と今年はまったく状況が違う。


 なぜなら。


「ひと君、どうだった?」


 心配そうに近づいてくるのはオレの彼女(仮)、間宮緋色だ。

 顔良しスタイル良し性格良し胸良し……しかも学年トップ20に入る秀才だ。運動能力だけはちょっとアレだが何事にも一所懸命に取り組む姿が可愛いのでそれもまた良し。


「いけるかも!」


 自信満々に親指を立てるとぱっと笑顔が咲いた。


「すごい、今回ちょっと難しかったのに。いっぱい勉強した甲斐があったね」


「緋色のお陰だぞ。毎日早めに登校して図書室で一緒に勉強してくれたから」


「ううん。頑張ったのはひと君自身だよ。結果が楽しみだね♪ ぱちぱちぱちぱち」


 控えめな拍手がまた嬉しい。

 まだ結果は出てないけど緋色のこの笑顔が見たくて頑張ったんだよ。


 ああ思い返せば大変な道のりだった。

 なんたって我が家には最強の敵……遊びたいざかりの三姉妹がいるんだから。



 ──『おにぃちゃんあそぼ―』『ドリブル教えてほしいですのー』『バフッ!』


 ごめん兄ちゃん勉強しているからまた後でな。


 ──『えぇー、あ・そ・ぶ・のー』『ハナたちより勉強の方が大事ですのー?』『キューン……』


 じゃあちょっとだけ……いやダメだ。この問題集が終わるまではバスケ封印。


 ──『モモたちのこと嫌いになっちゃったの』『こんなにお願いしてますのに』『クーン……』


 駄々をこねながらべたべた触られるし膝の上に乗られるし。

 心を鬼にして放置していたらオレのベッドでパスの練習はじめるもんだからサクラの毛が大量に抜けて舞い上がり……。


 結局、妹たちがバスケをする庭に面した縁側でノートを広げることなった。

 二人と一匹を見守りつつのテスト勉強、想像以上に大変だった。


 だがそれも終わり。

 今日からは思う存分妹たちと遊んでやれるし、なにより、緋色とデートできる!



 ……と思っていたのが、



「間宮さん、ちょっといいかい」


 男バスの顧問が教室に顔を出した。

 縁側でのんびりお茶でもすすっていそうな理科の教師だ。


「はい先生」


 廊下に出た二人はなにやら深刻そうに話し込んでいる。



(そっか、緋色は男バスのマネージャーなんだよな。もうすぐ一年が加入して初めての大会がある)



 現状、オレは帰宅部だ。

 バスケをやりたい気持ちはゼロではないが、いまの生活が充実しているせいで、なんとなくフリーのままでいる。


「……はい、はい分かりました。私から話してみます。ありがとうございました」


 顧問と別れて戻ってきた緋色は浮かない表情。


「どうした? 話せることなら聞くぜ?」


「……ん、ありがと。ちょっと部活のことでね」


「男バスの?」


「うん。うち三年生いなくて、二年生と新一年生だけなんだ。でも二年生は名前だけの幽霊部員ばっかりで、大会に出られるか微妙なところなの。マネージャーとして部長に話してみてほしいって言われた」


「部長? 二年生だよな? だれ?」


「ゆーくん」


「アイツ!!??」


 毎日動画をあげるのに忙しい桶川悠斗イキリが部長!?


「そうなの。さっさと帰っちゃったみたいだけどね」


 早々に帰宅したイキリに苦笑いしつつ、緋色の笑顔はどこか淋しげだ。


「男バスは元々休部状態だったんだけど、去年ゆーくんが『みんなでバスケやろうぜー』ってたくさん人を入れたから部として活動費が下りるようになったの。でも最初の大会で惨敗したら誰も来なくなっちゃって……。マネージャーの私だけじゃ何もできないから顧問の先生に相談して女バスのマネージャー兼任していたんだ」


 なるほど。男バス二年はイキリの取り巻きか。バスケよりも遊びに熱心。そりゃあみんな幽霊部員になるわけさ。


「つまり現状活動しているのは一年だけか」


「うん。本格的にやってた子はいないみたいだけど、やる気があるから顧問の先生も大会に向けて頑張ってほしいんだって。……ひと君バスケやってたんだよね?」


「あ、うん。まぁ少しだけ」


 嘘です。本当はがっつりやってました。

 恥ずかしい仇名つけられるレベルでやってました。


「そっか。ひと君が仲間になってくれたら心強いけど、私もゆーくんに押し切られる形でマネージャーになったから強引に誘うのも申し訳ないんだよね」


「緋色……」


「あ、顧問の先生に練習メニュー相談するの忘れてた。ごめん、先に帰るね。また明日」


 カバンを抱えて忙しそうに去っていく。


 なんだか置いて行かれたみたいだ。めちゃくちゃ淋しい。


「なんだよ。俺と帰るんじゃ不満か」


 笑いながら肩を抱いてくる恩田。

 やろー臭い。緋色のさわやかな匂いが恋しい。


「いんや。ヤローと肩並べて帰るのも楽しいよなぁ、あー楽しい」


 肉厚な腕を引き剥がしてカバンを担ぐ。


 考えれば不思議なものだ。

 緋色と交際する以前は退屈な授業の終わりが待ち遠しく、チャイムが鳴るなりカバンを担ぎあげて帰っていたというのに、今は「もしかしたら緋色が忘れものをして戻ってこないか」なんてと考えて教室に留まってしまう。ほんとダメな男だ。


 すると恩田が声を上げた。


「おや。あわてんぼの間宮が忘れものをしたっぽいぞ」


「なんだとっ!!??」


「ほれ、机の中」


 机の中を覗き込むと白い筆箱がポツンと残されていた。

 おやおや大変。これは届けなくてはいけないだろう。


 慎重に取り出す。緋色が好きそうな愛らしい猫のイラストが描かれていた。


「行くのか?」


「ちっげぇよ、通り道だからちょっと寄っていくだけだ。先に帰っててくれ」


「ほーぉ」


「うるせぇな」


「……」


「黙ってニヤニヤするな。顔がうるさい!」


 というわけでバスケ部が練習している第二体育館に寄って行くことにした。


「寄るくらいならいいけど、あんまり出張るなよ」


「なにがだよ」


「朔丘の桶川佑人っつったらバスケやってる奴なら名前くらい知ってるだろ。もし試合に出たら相手はめちゃくちゃ警戒するはずだ」


「そうか? 強いヤツがいるとワクワクするじゃん」


「あのなぁ、アマチュア素人集団にセミプロがいるようなもんだぜ。相手は目の色変えて対応してくる。おまえは易々と突破するだろうけど、今年入った一年は『アイツばっかり』ってテンションダダ下がりだろうな。俺なら引き立て役になりたくねぇもん」


 そういうものだろうか。


「んじゃ俺は忠告したからなー」


 ひらひらと手を振って去っていく。

 アイツの言わんとしていることはなんとなく理解してる。自分ではなく一年わかいめの成長を促せってことだな。


 だったら心配無用。

 オレの願いはただひとつ。緋色の力になりたい。それだけだ。


 要は目立たなければいいんだろ。目立たなければ。

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