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第13話 桶川佑人のファンです(本人を前に)

「すっごぉい、記録更新だって! おめでとーっ!」


 突然現れた金髪ツインテールの美少女はぴょんぴょん飛び跳ねて喜んでいる。

 反動で胸元が大きく上下して心臓に悪い。


「……どうも。」


 ずいぶんと馴れ馴れしいけど……誰だこいつ。

 ピンクのパーカーにミニスカートといったラフな格好。マスクをしているけど地肌の白さと緑色の大きな瞳からするとハーフっぽい。


「ねぇねぇ! いまの動画アップしてもいい?」


 至近距離をなにしているのかと思えば動画を撮っていたようだ。


「いやです。ぷらいばしーなんで」


 断固として拒否する。

 すると金髪美少女も負けじと追いすがってきた。


「ねぇお願い。顔は映らないように編集するから」


 さりげなく肩に触れつつ、懇願するように身を乗り出してくる。

 初対面の相手とは思えないくらい距離感バグってる。いわゆる「ぎゃる」属性というものか。


 だがオレには緋色という最高の彼女がいるので微塵も心が揺らがないのだ。


「それでもダメです」


「けちー」


 笑ったり怒ったり忙しいやつだな。


 でも嫌いなタイプじゃない。

 嬉しいときは飛び跳ね、不満なときは唇を尖らせる。まるで妹たちを見ているようだ。


「……じゃあ分かった。撮影しないからもう一回見せてよ。いまのはレベル1でしょ? レベル2は最初からゴールが動くから難易度上がるんだよ」


「オレ忙しいんですけど」


「一回だけ。お願いします!」


「……仕方ないな」


 早く緋色を探しに行きたいのに。

 しつこくまとわりついてきそうだったのでお望み通りレベル2に挑戦することにした。


 スタート。

 ウィンウィンと機械的な音がしてゴールが右へ左へと動きはじめた。

 でも規則性さえ分かればさして難しいことじゃない。試合中ディフェンスをかいくぐって死に物狂いで投げていたことを思えば。落ち着いて一投一投確実に決めていくだけだ。


 くだんの金髪美少女はオレの隣で熱心に見つめている。


「すっご、全然姿勢ブレないんだね。今のところ一投も外してないじゃん」


「まぁ元バスケ部なんで」


「やっぱりね。高校生でしょう? あたし高2。そっちは?」


「同じです」


「じゃあ知ってる? 同い年にすっごく上手い選手がいるんだよ。朔丘の桶川佑人っていうの」


(────いっ!?)


 ガンッ! とリングに弾かれた。

 オレとしたことが凄まじく動揺してしまった。


「どんまいどんまい。一投ぐらい外しても平気だよ。記録更新ペースだし」


「……どうも」


 気を取り直して引きつづきフリースローを決めていく。

 しかし内心穏やかではない。


(なぜオレのことを知っている!!?? まさか知り合い?)


 ちらっと横顔を盗み見る。

 スッと通った鼻筋に大きな瞳に長い睫毛。きらきら光る金髪が印象的な美少女だ。どことなく覚えがあるような、ないような。モヤモヤする。


「あのぉ……さっきの朔丘のなんとかって人と知り合いなんですか?」


「ううん、あたしが一方的に好きなだけ。大ファンなの」


 ──ガンッ!

 またしても外してしまった。


「あれ、急にフォームが乱れてきたね。だいじょうぶ?」


「平気っす。ちょっと腹痛くて」


 どきどきどきどき。


(ファン!? しかも大ファン!? オレにファンなんていたの!!??)


 動揺をおさえきれない。


「どこが好きなんですか? バスケ以外なにも取り柄がない野郎ですよ。長らく彼女もいなかったし」


「えー? でも人間って案外そんなもんじゃん。頭が良くて運動もできてお金持ちで性格も良い人って尊敬はするけど信用はしないっていうか。地面を這いつくばる人間の気持ちなんて分からないだろうなって思う」


 意外としっかりしている。ぎゃるなのに。


「桶川佑人はね、すっごく上手いのにいつも一生懸命でだれよりも輝いてるの。たとえば勝敗なんて分かりきっているような格下相手でも絶対に手を抜かない。バスケが楽しくて仕方ないから一緒に遊んでくれる対戦相手にも敬意を払っているんだと思う、あたしの想像だけど。とにかく見ていると元気もらえるんだ」


「へぇー」


「朔丘じゃない別の高校行っちゃったみたいで最近は音沙汰ないのが残念だけど、また試合出てるとこ見たいなぁって思ってるんだ」


 ビー……!

 タイムアップ。


 表示されたスコアを見て金髪美少女が飛び上がった。


「見て見て! 二本外したけど記録更新だって! 良かったね、粗品もらえるよ」


「あー……オレそろそろ行かないと」


「そっか、引き留めちゃってごめんね。初対面の人にこんなに話したの初めてかもしれない。あたし梨衣奈りいな。良かったら連絡先交換しない? これでもそこそこ有名人なんだよ、『りぃな』って聞いたことない?」


 マスクを外した素顔に「あっ」と息を呑んだ。

 桶川悠斗と同じ動画配信者で、五十万近い登録者がいる有名人だ。最近ではテレビや広告でも度々取り上げられている。


「──あれ? キミの顔、なんだか既視感があるね」


 やばい、と思って咄嗟に顔を背けた。


 りぃなが知っているのは中学までのオレだ。

 高校生になってから身長が伸びたし髪型や顔つきも変わった。面影は残っているだろうが、すぐには同一人物とは気づかないだろう。でもじっくり見られればバレてしまう。


(ピンチ……!)


 焦るオレだったがすぐに周囲のざわつきに気づいた。


「ねぇあれ、りぃなじゃない?」

「ホントだ! すっごくカワイイ!」

「一緒に写真撮りたい!」


 有名配信者りぃなに気づいた客たちがどっと押し寄せてくる。

 いまがチャンス。だっ、と床を蹴った。


「すみません腹痛いんでー!」


「あ、ちょっと──!」


 混乱に乗じてそのまま逃げおおせた。



(すまん!)

(ファンでいてくれたことは嬉しい。だからこそ合わせる顔がない)

(っていうか褒め殺しかよ。恥ずかしすぎるー!!!)



 ふと我に返って振り向くと遠くに人だかりが見えた。りぃなを囲むファンたちだ。さすがに追ってこれまい。


「あ、緋色は?」


 お手洗いに行ってからずいぶん経つ。

 オレを探して心細い思いをしていなければいいが。


「ひとくーん♪ ここだよー♪」


 スマホを手に周囲を探していると緋色の声がした。

 満面の笑顔で手を振っている。


「……なにしてんの」


 どこにいるかというと。

 エアトランポリンでぴょんぴょん飛び跳ねている。


「え? ひと君見つからなかったから待ってようと思って。なんとなく跳びはじめたら楽しくなっちゃったの」


 跳びあがる度にスカートの裾が上下する。

 見えそうで見えない。ぐっ、心臓に悪い。


「面白いよ。ひと君もおいでー」


 くいくいと手招きされたら…………行くよな、ふつう。うん。

いつもご覧いただき本当にありがとうございます。

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