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第12話 キスしたい

 時間いっぱいまで滑ったあと昼飯を食べることにした。

 施設内にある軽食ブースで二人分のホットドッグを買って戻ると、緋色は机に突っ伏していた。


「結局転んでばっかりだったね……ひと君にも迷惑かけちゃった……」


 はげしく落ち込んでいる。


 思わず苦笑いするしかなかった。

 確かに立っているより座り込んでいる時間の方が多かった。倒れ込むたびに意図せずスキンシップをとれたので悪い気はしなかったが。


「オレのことは気にするな。最後はひとりで立てたじゃないか。しかも歩けた。二メートルも! すごいことだぞ!」


「……でも一緒にいた子どもたちは何周もしていたよね」


「ああ~~」


 フォロー失敗。さらに落ち込んでしまった。

 うーん。どうしたら励ませるだろう。



(こういうときモモやハナが相手だったら……)



 バスケの試合で負けたとき二人はいつもオレの胸に飛び込んでくる。

 『くやしい、かなしい、つぎはがんばる』と大泣きする。


 そういうときは。

 ──そう、やさしく手を伸ばして……。


「げんきだせよ」


 ぽん、と頭に手を置いた。『なでなで』だ。

 緋色は小さく息を呑む。


「緋色はすごく頑張ってた」


 みんなの目があるリンクで派手に転ぶと結構恥ずかしいもんだ。

 常日頃から人目を気にしている緋色はすぐ諦めると思ったのに、何度転んでも立ち上がって前へ進もうとしていた。


 なにが緋色を突き動かしていたのかは分からないが、オレも気がつくと真剣な眼差しに釘付けになっていた。


 緋色は嫌がる素振りもなく『なでなで』されている。


「私もひと君みたいにうまく滑りたかったの。肩を並べたかった」


「無茶しなくていいんだぜ。ローラースケートは逃げないんだから、焦らずゆっくり進んでいけばいいんだよ」


 そう、オレたちの恋も。


「うん……そうだね。慰めてくれてありがとう。お腹すいちゃったね、食べよ」


「だな」


 その後。


 ホットドッグやポテトをつまみながら、とりとめのない会話をした。

 緋色が男子バスケ部のマネージャーであること、有望できそうな一年が入部しそうなこと、大会のこと、中間テストのこと、自分のこと、家のこと、体育祭のこと……。話題は尽きない。



「──あ、ひと君。口にケチャップついてるよ」


「え? どこ?」


 口の回りを拭ってみるが「ちがう」と首を振る。


「反対側。あ広がっちゃった。じっとしてて」


 ゆっくりと腰を浮かせ、ナフキンを伸ばしてくる。



(え、えええ)



 緋色の手でやさしく拭き取られる。

 ナフキンごしの感触があまりにリアル。どきどきした。


「これでキレイになったよ」


「さ、さんきゅー」


「ううん。……ねぇ、さっきローラースケートで転んじゃったときも顔が近かったよね。キスしそうになった」


 どきっ。

 子どもたちに冷やかされて寸止めになったときだ。


「あ、あ~、あのときはヤバかったよな。口……じゃなくて鼻? 歯? ぶつかるかと思った。危機一髪、みたいな」


 必死にごまかした。

 まさかキスしようとしていたなんて言えない。言えないぜ。


「──でも私、ひと君とならいいと思った」


「うぇっ?」


 あやうく椅子から転げ落ちそうになった。


「なんてね。私たち正式に付き合っているわけじゃないのに──。ごめんね、いま言ったことは忘れて」


 忘れてと言いながら耳まで赤くなっている。

 まさか本気?


「緋色、いまの発言って──」


 前のめりになるオレ。

 対する緋色は逃げるように腰を浮かせる。


「私、食べ終わった分置いてくるね。お手洗いも……きゃっ」


 ぐきっ。

 慌てて立ち上がったせいで足首をひねって体勢が崩れた。


「あぶない!」


 とっさに腕を引いて抱きとめた。



 ────カラン、とトレイが転がり落ちる中、オレたちはきつく抱きあっている。



(ししししまった!! ついローラースケートのときのノリで!!!)



 勢いで抱きしめてしまった。

 どうしよう。いまさら離れろって突き飛ばすのもおかしいよな。


 緋色はオレの腕の中におとなしく収まっている。


「――……ひと君」


「は、はい」



 目が合う。

 瞳が潤んでいた。



 キスしてほしいのかな、と思った。

 なにも喋ってないのに、そう言われた気がした。



「ひいろ」


 ふしぎだ。なんの音も聞こえない。

 ふたりぼっち世界に取り残されたみたいだ。


 緋色の体温を感じていると心拍数の上昇とともに独占欲がでてくる。


 オレのものにしたい。

 「三ヶ月」とかまどろっこしいこと言わずに力づくで手に入れたい。


 だってこんなに可愛いんだから。




 じー。

 刺さるような視線を感じた。




「ハッ!」


 我に返って周囲を見回すと軽食ブースに来ていたお客さんたちがチラチラ見ている。


 しまったここは公共スペース!!!


「きゃっ!……みんな見てる」


 緋色も注目されていることに気づいて慌てて飛びずさった。


 どうする。どう弁明する。

 そうだ。


「ゴミ! 髪とか肩とかにゴミついていたからとっといたぞ緋色!」


「うんゴミ、ゴミとってくれたんだよね、ありがとう。私、片づけながらお手洗い行ってくるね! この辺りにいて」


「お、おお」


 逃げるように走り去っていく。

 またしてもキスはお預けだ。


 う、まだ視線が痛い。




   ※




(はぁー、上手くいかないもんだな)


 緋色を待つ間、バスケのコーナーでヒマを潰すことにした。

 奥に設置されたゴールにフリースローで球を入れていくだけの簡単なアトラクションだ。一定時間経つとゴールが動くらしい。


 パシュ、パシュッ……一本二本三本、なにも考えずに入れていく。

 中学時代の鬼のような反復練習によってゴールまでの軌道は完璧に身についている。だからこそ無心になれる。たぶん目を閉じてても入るだろう。


(三ヶ月か。長いなぁ。すぐにでもカップルになりたいのに)


 時間が経ってゴールが不規則に動きはじめた。

 でも一球も落とすことなくゴールに吸い込まれていく。


 ま、うじうじ悩んでも仕方ない。

 オレたちの関係も一歩ずつ進めていくしかないか。



「……にしても遅いな緋色」



 そろそろ戻ってきてもおかしくない。

 まさか広くて迷子になったのだろうか。これが終わったら探しに行こう。



 ──ぎゅむっ。



「ん?」


 背中にやわらかな感触。

 もしかして緋色? オレに抱きついている? ぎゅむって?


(まじか、大胆過ぎるだろ)


 心拍数爆上がり。

 いかん、冷静になれ。


(落ち着け、落ち着くんだオレ)


 最後の一投を放った。ゴール。

 最高得点を更新したらしく、表示板がピカピカと派手に光っている。


 だがそれどころではない。


「いきなりどうしたんだよ緋色」


 どきどきしながらゆっくりと振り向く。

 オレの背中にぴとっと寄り添っていた人物と目が合った。



「へ?」



 金髪の美少女がオレを熱心に見つめている。

 …………だれ?

新たなヒロイン!?の登場です。

引きつづきブクマと★評価での応援お願いいたします……なにとぞ……


※実際のスポ●チャには作中のフリースローコーナーはありません。似たものがあります。

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