第1話 オレの青春はこれからだ!…と思っていた時期がありました。
「――まみや、ひいろさん」
「はい」
両手を前で重ねて礼儀正しく佇む緋色。
目の前がぐるんぐるんする。今にも倒れそうだ。あぁオレの体。もうちょっとだけ踏ん張ってくれ。
ええい、もういっちまえ!
「間宮緋色さん、好きです。――大好きです! オレと付き合ってください!!」
思いっきり頭を下げた。
とうとう言ったぞ。いいよな……大丈夫だよな? ここまできてNGなんてないよな。
そう信じたいのにやけに沈黙が長引く。
なんで迷ってるんだ? オレじゃダメなのか?
不安と緊張でぼたっと汗がしたたり落ちる。
永遠のような時間の中で緋色がすぅと息を吸い込んだ。
「私、────決めたよ」
緋色の顔を見た刹那、オレの脳裏に今日までの怒涛の日々が蘇った。
※
あれは二年前の四月四日。
月波高校の入学式だ。
真新しい制服、なじみのない教室、初めて会う同級生たち、ぴかぴかに磨かれた窓ガラスの向こうで時期遅れの桜が咲いている。
目に入るものすべてが色あざやかだ。
ちらちらクラスメイトを確認すると可愛い女の子もたくさんいる。情けないところは見せられない、とピンと背筋が伸びた。
汗と熱と足の引っ張り合いに悩まされた暗黒の中学時代は遠いむかし。
勉強はそこそこ頑張るし、クラスのなんとか委員もやるし、文化祭やイベントごとは最初から最後までちゃんと参加したいし、夏休みとかの長期休暇中は友だちの家で宿題を教えあったり海に遊びに行ったり(朝から晩まで部活しているなんて絶対に御免だ)して、あと、これだけは声を大にして言いたいのだが、とにもかくにも「彼女」がほしい。
かわいい彼女を見つけて青春を謳歌するんだ。
キーンコーンカーンコーン……。
はじまりを祝福するようにホームルーム開始のチャイムが鳴り響く。
今日からオレ──桶川佑人の第二の人生がはじまるぜ。
神様、Don't miss it!
──なんてイキっていた時期がありました(笑)
新連載はじめました!
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