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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

赤いラヂカセ

作者: 英-U1

はじめまして英U-1(はなぶさゆういち)と申します。

皆様に楽しんで頂けますと幸いです

どうぞよろしくお願いいたします。

これは私が小学生の頃に実際に体験した話です。


当時はまだCDプレイヤーが全盛の時代で


MDという物が発売され少し経ったくらいの時期でした。


今となってはクラウドサービスやストリーミングサービスが主流になりつつあるそうで


廃れつつある文化のようなものなのでしょうが


音楽をCDやMDなんかのディスクに焼いて持ち歩くという行為は


とてもポピュラーで当たり前のことでした。


クラスの子たちもみんなCDやMDをプレイヤーに入れて持ち歩いていました。


それくらい一般的にありふれた当たりまえの事だったのです。


御多分に漏れず私もそのブームに乗りたかった…のですが


私の両親はそういった流行りに対して厳しく


CDプレイヤーやMDプレイヤーを持たせてはもらえませんでした。


ですが、そんな私にも転機が訪れました。


いつも仲良くしてくれていた叔父が急性心不全で亡くなり


叔父の遺品を数点受け継ぐことになったのです。



数年ぶりに見る叔父の顔は死に化粧をうまくしていただけたようで


まるで眠っているような佇まいでしたが


叔父の体重は良く会っていた頃の半分ほどに減っており


頬はこけ、目の周りは窪みまるでミイラのようで別人のように見えました。


叔父には家族がおらず、実家から離れて一人暮らしをしていたので


親族の話し合いの結果、家長であった叔父の兄である私の父が喪主を務めたのです。


葬儀が終わり、納骨も済んだ後、父は母とともに叔父の遺品整理を行いました。


叔父は趣味を第一にする生活をしていたようで


エレキギターやレコードなどの音楽用の雑貨が部屋の中に山のようにあったそうです。


両親は遺品整理にはだいぶ苦労したようでしたが


数ある品物の中から少しの物を遺品や思い出の品として親族に分配するという事になりました。


その数ある品々の中に真っ赤なラジカセとお煎餅の缶に入った沢山のカセットテープがあり


私はその二つを貰える事になりました。


少し歳の離れた従弟達はアコースティックギターなどを貰って


嬉しそうにしていた事を思い出します。


一方私はラジカセと沢山のカセットテープの山です。


当時としても時代遅れになりかけていたメディアでしたが


CDプレイヤーやMDプレイヤーを買ってもらえなかった当時の私にとっては、


宝の山にほかなりませんでした。


年季の入ったラジカセも動作不良は特になく


カセットテープには叔父が好きだったのでしょう


ビートルズマイベスト!とサインペンで書かれたラベルやKISSなどの名前が並んでおり


どのカセットもラジオ番組などをテープに録音して編集した物ばかりでした。


他の親族にとっては時代遅れのメディアだったのでしょうが、私にしてみれば宝の山だったのです。


それからの私は真っ赤なラジカセにどっぷりとハマっていきました。


いままでは家族と音楽番組を見るだけだった日常が


自分だけが好きな時に好きなだけ音楽が聴ける生活に切り替わったのです。


CDやMDに比べれば圧倒的に音質の悪いメディアではありましたが


まるで新しい世界が開けたような感覚でした。


私は古ぼけた真っ赤なラジカセに夢中になったのです。



そんなラジオ生活でしたが


不満だった点が一つだけありました。


自分の家はどうしても電波の入りが悪かったのです。



私の実家はとある地方の田舎町にあるのですが


町が盆地の真ん中にあるせいか全国ネット系の電波はまず入り辛いうえに


戸建て住宅が並んでいる区画であったためか電波がさらに入りづらく


某朝までやっている番組を聞きたかったのですが視聴することが困難でした。


叔父のコレクションの中には朝までやっている深夜ラジオ番組が録音されているテープが


何点もありまして、叔父が厳選したというのもあるのでしょうが


私はその某深夜ラジオ番組の大ファンになっていたのです。


ほんの少し部屋の隅に一か所だけぎりぎり電波が入る場所を見つけた私は


毎晩雑音ばかりのラジオにかじりつくように聞いていました。


平日の明け方近くまでやっているラジオを連日聞いていますと


私は日々寝不足気味になっていきました。


幸い叔父からラジオを受け継いだのは1学期の終わりころでしたので


季節は夏休みに突入したこともありさらにラジオ生活に拍車がかかります。


雑音の多いラジオの番組や楽曲を録音しては昼間も流しながら宿題をして過ごしていました。


クラスの友人には同じような趣味を持つ人もいなかったので


もともと少ない友人関係もさらに薄くなっていたように思います。


いま改めて思い返しましても小学生ながらかなり不健康な生活をしていましたね。


カセットテープも聞きすぎてテープが延びてしまうほど聞いていました。


叔父には悪いですが正直、若干の飽きを感じるほどでした。


そんな不健康優良児であったお盆の時期に事件が起こったのです。



叔父の初盆でしたので昼間は親族でお寺に集まり


私の実家で食事をとることになり軽い夕食の予定でしたが親世代のお酒がだいぶ進み


親類たちが私の実家にとまることになりました。


普段のお盆となればお墓参りもそうそうに家族旅行へ行くのが通例でしたが


今年は喪中のためそういったお話も全て中止となった我が家にとっても


予想外のイベントとなりました。


夜も更けた頃、風呂にも入り終わり、あとは寝るだけという頃合いだったかと思います。


親たちはまだ客間で酒を飲んでいましたが私たち子供組は寝ることになりました。


ですがそこは旅行感覚の従弟と深夜ラジオにハマった私達悪ガキ共です。


夜更かしをするのは必然でございました。


始めはリビングのテレビを見たり私の漫画を廻し読みしていたのですが次第に飽きてきました。


ふと時計を見ると私がいつも聞いているラジオ番組が始まる時間でしたので


おもむろにラジオを付けることにしました。


「チュィーガガガ」とラジオのスピーカーから電子的なノイズが流れてきます。


従弟はものとしては知っていてもラジカセでラジオを聴くのが始めてだったらしく


興味深々でラジオを見つめていました。


私は得意気になりラジオの摘みをひねり、わざとらしくチューニングノブを回すと


すると比較的はいりやすい公共放送のチャンネルにチューニングがあい


ラジオからは深夜のニュースが流れます。


従弟はラジオのチューニングが楽しくなったようでチューニングのノブで遊び始めました。


6畳間の僕の部屋の中をラジオをもって移動しながらチューニングを変えていくと


聞き覚えのある番組パーソナリティの声や英語放送のチャンネルに次々と切り替わります。


「kdじゃあせkてwx@」


「昨日の天気は…」


「…」


従弟もはじめは面白がってラジオをおもちゃ替わりにしていましたが


電波の悪さも相まってラジオの音声はとぎれとぎれでした。


従弟は音の聞こえにくいラジオに次第に飽きたのかラジオを僕に返しました。


どうやらおねむになったようでそろそろ眠りにつくことにしたようです。


「そういえばこれ、ギターケース中に入ってたんだ」


と従弟が一本のカセットテープを持ち込んだギターケースから取り出しました。


それは透明なケースに入ったカセットテープで


見覚えのあるメーカーのロゴでした。


「もしかして叔父さんのテープ?」


私が叔父から受け継いだカセットテープたちと同じテープだったのです。


もしかしたら今までに聞いたことがない楽曲が入っているかもしれません。


早速テープをカセットデッキに入れ再生ボタンを押すと


ラジオの内臓ステレオスピーカーからはラジオとは違ったノイズだけでなにも聞こえてきません。


スーっというのか


ちりちりというのか


カセットの早送りボタンを押してテープを進めてみますが


結局何も録音されてはおりませんでした。


「なんだつまらないなぁ、そろそろ寝ようか」


とラジカセの停止ボタンを押そうとした瞬間


『…こっちにおいで…こっちにおいで』


と得体の知れない声がラジカセのスピーカーから聞こえてきました。


「えっ?えっ?」


僕たちはその得体の知れない声に全身の鳥肌が立つ感覚を覚えました。


気味が悪くなり再生停止ボタンを押しますがラジカセは止まりません。


『アハハ…アハハ…』


まるで壊れたレコードのように不気味な笑い部屋の中に響きます。


これだ!と思ってラジカセの電源をコンセントから抜きますが


『ヒャーハハハハ』


とさらにエスカレートしていきました。


僕と従弟が驚きのあまり固まっていると


バツン!!


というすさまじい音が部屋の中に響き


ガリッ!ガジャグジャというような今までに聞いたことのない音を立ててテープの再生が止まりました。


恐る恐るカセットを取ろうと開閉ボタンを押してみると


テープがぐしゃぐしゃに絡まってしまっていました。


どうやらテープ再生機能が故障してしまったようです。


テープそのものも、取り出そうとしたところところどころちぎれてしまいました。


僕達は恐怖とパニックも冷めやらず従弟と騒いでいると


下の階で我々の騒ぎを聞きつけた母親が


僕の部屋の扉を勢いよく


バン!!


と開ける音に驚き


「「ギャー!!」」と悲鳴を上げてしまい


腰が抜けるとはこのことか


恥ずかしい話ですが立ち上がれなくなってしまいました。


「うるさい!!さっさと寝なさい!!」と従弟と共々


烈火のごとく叱られたのは言うまでもありません。


自分たちの体験した恐怖を母親に説明しようともしましたが


取り付く島もありませんでした。


普段は優しいお母さんがブチ切れると幽霊より怖いね


と舌の根の乾かぬ内に茶化されたのを覚えています。


そのあと僕と従弟はすんなりと眠りにつきました


あのテープはいったい何だったのでしょうか?


もしや叔父さんが亡くなった原因だったのでしょうか?


夢に亡くなった叔父さんが出てきたような気がするのですが


今となってはよく覚えていません。


朝目が覚めると蓋の空きっぱなしだったアコースティックギターが


寝る前には何とも無かったのに、弦がすべて切れボディもバリバリに割れてしまっていました。


当時は理解が追い付きませんでしたが


おそらく叔父さんがテープの幽霊から僕たちの事を守ってくれたのでしょう。


当時は両親ともに信じてもらえませんでしたが


先日あった叔父の十三回忌の折に


ふと思いかえして叔父の兄である父にその話をしたところ


「そうか」


と涙ぐんでいた様子でした。


これが私が子供の頃に体験した不思議な話です。




如何でしたでしょうか?

宜しければ感想や評価など頂けると嬉しいです。

描きためておらず空いた時間に少しづつ書いています。

また更新できましたらなにとぞよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 文章の語り口調が読みやすく、 本当に怪談を聞いてる気分で読むことができました。 叔父さんが守ってくれたとすると、 あの世に行っても現世の主人公たちを案じていてくれたいい叔父さんですね。
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