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23 松本の弱点?

若干遅れましたが、大目に見て下さい。


TEAM 1 R H E

海王大 1 1 2 0 

青嵐  0 0 0 0

 初回こそ不安定な立ち上がりを突かれた慎吾だが、早々に立ち直った。

 2回・3回で出したランナーは、ヒット1本とフォアボール1つ。

 三者凡退こそなかったものの、危なげない投球で海王大付属の強力打線を封じていた。


 一方の海王大付属エース・松本はと言うと——。


「……ちょっと待て。さっきからなんか、同じ光景ばかり見てないか?」


 軽い打撲のため今日は控えの猿田が、三振する8番・祐川を見て呟いた。

 これからネクストバッターズサークルに向かう石塚が横で確かに、と頷いてから、不意に目を見張る。


「まさか俺たち、タイムリープしてる!?」

「んな訳ねえだろ! 松本の連続三振だよ、連続三振! さっきからだいぶ続いてないか、これ?」 


 猿田の指摘にようやく気付いたのか、石塚がああ、と納得する。


「……でも、タイムリープに比べると事件性薄いよな」

「そりゃ、タイムリープと比べたら大抵のことは薄まるだろ。……ええ、けっこうヤバいことだと思うんだけどなあ。気にしてんの俺だけ?」


 反応に乏しい石塚に、猿田はやや不満だった。

 今度は芽衣に声をかける。


「なあ、雪白。今って何者連続三振?」

「何者連続って言うか、そもそも今のところKしか書いてない。Kだらけだよ、このスコア」

「……はあ?」


 芽衣の返答にまさか、とスコアを横から覗くと、確かに青嵐側の記録は全て三振だった。つまり、9番の中井が打席に立っている現時点で、8者連続三振ということになる。


「……え、やばくね? 大丈夫なのか、これ」

「大丈夫、とは言い難いな。でも、三振だろうと外野フライだろうと、同じアウトだ。気にし過ぎてもしょうがない」


 心配そうに打席の中井を見る猿田へ、福尾は言った。

 

「そうは言うけどさあ、バットに擦りもしないってよっぽどだぜ。当たればなんか起きるかもしれないのに」

「擦りはしてるだろ。ファールとか出てるじゃねえか。

 ……それに、もし猿田だったら、ちょこまか当てにくるバッターと、強く振ってくるバッターどっちが怖い?」

「そりゃ、振ってくるバッターだろ」

「だろ? そういうことだよ」

「……まあ、理屈はそうだな」


 猿田は渋々福尾の意見を認めた。

 打席では中井が、早くも2ストライクと追い込まれている。

 中井に声援を送りつつ、福尾は続けた。


「それと、実はもう、松本の弱点に一つ気付いたっぽいんだよな」

「弱点? この間の村雨みたいな、何かの癖とかか?」

「いや、そんなはっきりしたものじゃない。

 というか、弱点は言い過ぎかもしれないな。癖みたいに、見抜ければ誰でも利用できるってもんでもないから」

「何だよ、それ。勿体ぶってないで、さっさと教えろよ」

「まあ、中井の打席をよく見てろよ」

「……ああ?」


 福尾の意見に従い、猿田は左打席に立つ中井を見た。

 追い込まれて以降の中井は、3球続けてきたカーブを1球目はファール、2・3球目は見送ってボールと思いの外粘っている。


 だが、福尾に言われた猿田が打席を注視した5球目。

 中井は外角高めのストレートを空振りし、これで記録は9者連続三振となった。


「な? 分かっただろ?」


 プロテクターを付けてホームへ向かう間際、福尾が猿田に意味ありげに言った。

 意味の分からない猿田は、鼻に皺を寄せる。


「何がだよ。連続三振が伸びただけじゃねえか」

「……じゃあ、ヒントだけやるか。チェンジアップだよ、チェンジアップ」


 それだけ言い残すと、福尾はグラウンドへ出て行ってしまった。

 残された猿田が、ダグアウトで一人虚しく呟く。


「どういうことだよ。中井の打席で、チェンジアップなんて投げてなかったろ」


* * *


 4回表も0に抑え、裏の攻撃に入った。

 1番バッターの石塚が、左打席に入る。


「で? 答え分かったか?」


 ベンチに戻ってきた福尾がニヤニヤしながら尋ねると、猿田は首を振った。


「全っ然分かんねえ」

「しょうがねえなあ。じゃあ、今度は石塚の打席をよく見ろよ」

「またそれかよ……確か、ヒントはチェンジアップだったよな」


 不平を言いながらも、猿田は左打席に立つ石塚を注視した。

 石塚はいつもらしからぬ粘りを見せた末にフォアボールを選び、見事に連続三振記録を終わらせてみせた。


 すると福尾が「な?」と猿田の方を向く。


「『な?』って言われてもなあ。

 そりゃフォアボールはデカいけど、やっぱりチェンジアップなんて1球も……」


 その時、猿田の脳内に電流が走った。

 すぐにがばりと福尾の方を向く。


「ちょっと待て。今すぐ答えを言いたいところだけど、まだもうちょい見ないと確信はできないな。というかお前も、今はまだそうかもって段階だろ?」

「俺はほぼ確信してるけどな。よくあることではあるし」


 猿田は再びグラウンドに目をやった。

 0アウト1塁から2番の二岡が送りバントを決め、3番の村雨が右打席に入る。

 村雨に対して松本は2ボール2ストライクとした後、チェンジアップでまたも三振を奪ってみせた。


「いや、でもマジか……?」


 いよいよ猿田が自説に確信を深める中、右打席に入った翔平が三振。

 あえなくチャンスは潰えた。

 決め球はやはりチェンジアップだった。


 しかし、ダグアウトにいる猿田の表情は妙に晴れやかだった。


「うん、はっきりした。……これは俺も出番あるな」

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