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15 リベンジ

大変更新が遅れました。申し訳ない

「ゲーム!」


 試合終了の合図を球審が出すと、サイレンが鳴り響く中互いに礼をする。

 県大会4回戦は、6対0で青嵐の勝利に終わった。


 慎吾が打たれたヒットは、結局8回の1本のみ。

 完勝だった。


「ナイスピッチング」


 今日戦った港南高校の選手と握手を交わすと、相手がそう声をかけてくる。

 港南高校野球部主将・小林。今日慎吾から唯一となるヒットを放った選手だ。

 慎吾はそれを、鮮明に覚えていた。


「……さっき、僕からヒット打ったよね?」

「あ、ああ。でも、無我夢中でバット振ったらたまたま当たったって感じだから……もう1回やれって言われても、多分絶対無理」

「あれ、けっこう悔しかったから、記憶に残ってる」

「本当か!? ……それは、凄く光栄だな」


 小林は噛み締めるように呟くと、「ありがとな」という言葉を残し、泣いているチームメイトの肩を抱きながらベンチに戻っていった。


 校歌を歌うべくバックスクリーンに正対するようにホームベース後方へ並ぶと、隣に来た猿田が囁く。


「良いやつそうだったな、向こうの主将」

「うん」

「まだまだ、負けられないな」

「……うん」


* * *


 4回戦終了後。

 翌日が5回戦のため、青嵐ナインは学校に戻ってミーティングを行っていた。


 明日の相手は黒沢高校。

 秋季県大会で惨敗した相手だ。


 とは言え、慎吾が先発すればまず間違いなく勝てるだろうと皆が思っていた。

 ただ、残念なことに明日の先発は慎吾ではない。

 と言うのも――。


「村雨は昨日完投したばかりだし、明日勝っても明々後日はおそらく海王大付属とやり合うことになるからな。なるべく休ませないと、決勝まで持たないだろう」


 より強い相手と試合する時のために、慎吾を取っておきたいのだ。

 しかし、取って置きのままで夏が終わってしまうのもまた問題。

 そこが采配する側としては難しいところだが。


「という訳で、明日の先発は晴山に任せた。初回から出し惜しみなく飛ばしてけ」


 理由を説明した後、監督の依田が翔平を先発投手に指名した。


「了解です!」


 翔平は依田に向かって敬礼した。

 その手前では猿田が「……あのう、監督。俺の出番は?」とさりげなく手を挙げていた。


「猿田はリリーフだ。恐らくロングになるだろうから、しっかり準備しておけよ」

「はい!」

「んで、村雨は……」


 依田が最後に慎吾を見る。


 今日の慎吾は力半分でノーヒットノーラン紛いの快投。

 それほど疲労は溜まっていないが、それでも1試合を完投している。

 怪我明けというのもあって、依田は彼を大事に扱いたかった。


「明日は登板なし。打撃の方で貢献してくれ」

「……肩の調子は悪くないんで。出番があれば、いつでもいけます」

「気持ちは分かるがなあ……」


 少し不満げな顔をする慎吾を見て、依田は顎髭を撫でた。


 * * *


 翌日の平塚球場。

 ぎらぎらとした日差しが降り注ぐ中、マウンドには翔平が立っていた。

 初回から2アウト満塁というピンチで、黒沢高校6番・西川が右打席に入る。


 試合前に慎吾とオーダー表を交換した時のことだ。

 黒沢高校主将の西川は青嵐の先発投手名を真っ先に見て、


(舐めやがって)


 そう思った。


 もちろん、慎吾を温存されること自体は想定していなかったわけではない。

 ただ、こちらは仮にも青嵐に秋季大会でコールド勝ちしているチーム。

 依田の判断は、間接的に西川たち黒沢高校部員のプライドを傷付けた。


 とはいえ、対策を怠っていたわけではない。

 今日先発の晴山翔平の情報も彼らの耳には入っているし、ベンチ外の部員に偵察してもらってある程度のデータは集めている。


 ストレートの球速は130km代中盤から後半。

 速球とカーブ・スライダーを交えた投球が武器の本格派で、1年生としてはかなりのものだ。 


 ただ、西川にしてみれば、それでは黒沢の打線を抑えるには足りない。

 なぜなら——。


(村雨に比べりゃ、全然大したことねえだろ)


 西川のバットが少し早いタイミングで翔平のボールを捉え、打球は三塁線の左側をヒュンッ、と抜けてゆく。マウンド上の1年生がほっと息をつくのを見て、西川はニヤリと笑った。


 ベンチを振り返り、監督のサインを見る。

 監督はこの春交代し、今は野球経験のない素人だ。


 公立高校では顧問の教師の異動による部活動の弱体化はよくある話だが、黒沢高校の場合少し事情が違う。元監督の向は、自身の母校である山吹実業を救うべく、自ら黒沢高校を出て行ったのだ。


 それは、西川たちにしてみれば裏切りに等しかった。

 自分たちは向の手腕を信じ、この人の元なら甲子園に行けると黒沢に来たのに。

 現に年々力を付け、今年は公立でもトップクラスの強豪と呼ばれるまでになっていたのに。


 西川は抽選会の際、真っ先に山吹実業の場所を探した。

 彼らは真反対の山だった。

 つまり、決勝まで勝ち進まなければ、対戦の機会はない。


 でも、そうするしか復讐の場が得られないなら。


(何が何でも決勝まで勝ち進んで、あの野郎を負かしてやらねえとだろ!)


 西川のバットが、今度こそ完璧に翔平の球を捉えた。

 打球は彼の足元を抜け、センター前へ。


 3塁ランナーがまずホームインした。

 続いて2塁ランナーも、3塁ベースを蹴ってホームに生還。


「っしゃあ! 見たかコラァ!」


 一塁ベース上で西川が吠えると、ベンチの選手が声援やガッツポーズで応じる。

 

 彼らにとって、甲子園などどうでも良い。


——かつての恩師に、復讐を。


 そんな意志の下、黒沢高校野球部員たちはかつてないほど一致団結していた。

今話冒頭に出てきた港南高校の主将・小林くんについてですが、実は彼を主人公にした短編が既にあります。

自分の別作品とのクロスオーバーというのを1度やってみたかったので出しました。

小林くんが主人公の短編は以下のものです。


タイトル『2年越しの初対面』

https://ncode.syosetu.com/n4042hj/


こっちはがっつり恋愛ものですので、興味があれば覗いていってください。

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