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58/90

12 決着

Team 123456789 R H E

青嵐  000001    130

桂泉  100000    100

「クソッ、どうなってやがる」


 7回表の青嵐の攻撃を凌いだ後、マウンドを降りる際に生天目はそう呟いた。

 この回は0に抑えたものの、ヒットを一本浴びた。

 さらに、下位打線相手にかなり粘られてしまった。


 球数を確認しようとスコアラーの元へ行く。

 スコアブックには111球と記されていた。

 決して少なくはないが、もの凄く多いわけでもない。

 やはり投げた数がどうこうというよりは、酷暑の影響が大きいのだろう。


 願わくば向こうのピッチャーにも、自分と同じくらいは疲れていて欲しい——生天目のそんな期待も虚しく、2番を打ち取った村雨は3番・4番と連続三振に切って取る。


「クソッ、どうなってやがる……」


 先ほどよりか細い声で呟いた後、生天目はマウンドへ向かう。


* * *


 8回表の青嵐の攻撃は、7回と同じく無得点に終わった。

 1アウトから2番の翔平が2ベースヒットで出塁し、慎吾が四球でチャンスを広げたのだが、4番・5番の福尾・猿田が共に凡退。


 意気消沈してベンチに戻ってくる二人を、依田は呆れた様子で眺めた。


「寸止め大好きだな、君らは。わざとやってんのか?」

「いや、わざとはやってないっス。シンプルに打てないだけで……」

「まあ、こういう日もあるってことで」


 どんよりとしている福尾に比べ、猿田は飄々としている。


「君ら二人は、足して2で割るくらいがちょうど良いな」

「はあ? どういう意味ですか、それ」

「……何でもねえ。ほら、さっさと守備に付きな」


 手を振って二人をグラウンドに追い立てた後、依田はため息をついた。


「こうなると、打順をもうちょい考えないとだな……」

「そもそも、なんで2番が翔平なんですか?」


 スコアを書いている芽衣が横から尋ねると、依田はどこからともなく無造作に一冊の本を取り出した。『猿でも分かる2番最強説』と表紙には書かれている。


「この本に、最近の流行りは2番に最強のバッターを置くって書いてあったから」

「……あー、そうですか」

「ただ、今の打順だと福尾と猿田が不調な時に、村雨が勝負され辛いんだよな。やっぱりここは、晴山を村雨の後ろに置くべきか……」

「そうすると、今度は翔平が勝負を避けられそうですけどね」

「……本当だ! 雪白、お前もしかして天才か?」

「……監督はもうちょい野球の勉強した方がいいですよ」


 今度は芽衣がため息をつく。

 強豪校相手に接戦を演じているチームの監督とはとても思えない。

 

(まあ、監督のこの緊張感の無さが、ウチには合ってるのかもしれないけど)


* * *


 8回裏の桂泉の攻撃はあっという間に終わり、9回表。

 生天目は青嵐の6番・7番を打ち取り、何とか2アウトまで漕ぎ着けていた。


(あと一人で延長か……。こうなると、根比べだな)


 自分のスタミナが最早限界に差し掛かっているのは分かっている。


 だが、村雨もターミネーターではない。

 怪我明けなのが本当であれば、流石に延長に持ち込めばいつか疲れが出るはず。

 そんな淡い期待を抱きながら、青嵐の8番打者・佐宗を迎える。


 4球目、決め球のつもりで投じたフォークにバットを当てられた。

 打球はポンポン弾みながら生天目の横を転がり、ショートの元へ。

 しかし、バウンドが難しかったのかショートがこれを弾き、その間に佐宗が一塁へ到達する。


「わりい、生天目」

「いいよ、いいよ」


 生天目は軽く手を振った。

 ショートのエラーそのものより、自分のフォークを下位打線に当てられたことの方が気になっていた。


 何となく嫌な予感がしたが、ふっと息を吐いて弱気を押し出す。

 続く9番打者との勝負、今度もフォークだった。

 打球は三遊間をきれいに抜け、レフト前ヒット。


(……こんなところで、絶対負けるわけにはいかないんだよ)


 抜けていった打球を眺めてから、ホームに視線を戻す。

 ちょうど1番の石塚が、左打席に入るところだった。


 次打者の翔平にだけは回したくない。

 そんな思いから、生天目はストライク先行の強気な攻めを見せた。

 おかげで早々に2ストライクと追い込んだものの、そこから石塚に粘られる。


 結局2ストライク3ボールとなって、捕手の丹波から出たサインはフォーク。


(フォークはもう、通用しないんじゃないか)


 生天目は首を振り、カーブのサインに頷いた。

 この選択が正しかったのかどうかは、誰にも分からない。

 ただ、結果だけ言うであれば。


 キン、と打球がライト方向へグングン伸びていき、追いかけるライトの頭上を超えて、そのままスタンドイン。3ランホームラン。


「……終わったな」


 生天目は外野席の芝生に吸い込まれていったボールを呆然と眺めていた。

 ある意味清々しさすら感じるような、そんな打球だった。


* * *


 9回裏、2アウトランナー無し。

 試合が終わるのを阻止すべく、リードオフマンの榊原が左打席に入った。

 結局ここまで、桂泉にはヒット1本たりとも出ていない。


(この大会のために高校生活を捧げてきたんだ……こんなところで終われるかよ)


 既に涙や嗚咽の混じっているベンチからの声援、スタンドからの悲痛な声援を受けて、榊原はスッとバットを構えた。


 初球、村雨のストレートが内角高めに食い込んでくる。

 榊原はこれを空振りし、1ストライク。


 2球目も同じコースへのストレート。

 今度も空振りし、2ストライクと追い込まれる。


 マウンド上の村雨は、憎たらしいほど冷静な姿をしていた。

 バックの守備陣と声を掛け合いながら、笑みを浮かべてキャッチャーのサインに頷いている。


 決着は、呆気なくついた。

 3球目。

 村雨が投じたインコースへ食い込むスライダーを、榊原が空振りした。


 ワンバウンドしたボールをキャッチャーが胸に当てて止める。

 振り逃げの可能性に一縷を賭け、榊原は走り出す。

 榊原の走る先で、ファーストを守る猿田がミットに福尾からの送球を収める。


 3アウト、試合終了。

 4対1で、青嵐高校の勝利に終わった。

Team 123456789 R H E

青嵐  000001003 470

桂泉  100000000 101

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