第38話 妖怪とは理不尽な死
妖怪に詳しくないものの、妖怪だって普通に暮らしたいものなんだろう。そう思っていた鈴音は、誰かの死を願う妖怪がいるというだけで混乱してしまう。
「ええっ、それってマジなの。ってか、そんな妖怪がいたら、そりゃあトラブルになるでしょうよ」
鈴音はよく今まで放置していたわねと、今度はそっちが気になった。だから思わず健星を睨んでしまう。
「俺に怒るな。言っただろう。多くの時代において、妖怪による禍は許容されていたんだ。七人ミサキに出会って殺されようと、船幽霊にあって船を沈められようと、それは仕方がない災害として考えられていたんだ」
「し、仕方がないって」
確かに何度かそういう話がでってきたけれども、そして自分が狙った鬼に関してもそうだったけれども、昔は許容できたというのが不思議で仕方がない。そう、妖怪を当たり前のように見てしまったから不思議に思っていなったが、冷静になって考えるとあまりにも理不尽じゃないか。今更だったけれども、鈴音はびっくりしてしまう。
「なっ、お前のように理解出来ない。そんなはずない。それが現代の感覚だ。しかし、その感覚は死というものが遠くなったからこそ起こった感情であり、人間はいついかなる時に理不尽に死ぬか解らなかった時代には、妖怪に殺されたとしても、仕方がないだったんだよ」
対して健星はビシッと鈴音の鼻先に人差し指を向けて言い切る。健星からすれば、ようやく根本的な問題の部分に辿り着いたなと、溜め息を吐きたいところだ。
「り、理不尽に死ぬしかないって」
しかし、鼻先に指を突きつけられても、鈴音には解らないことだった。理不尽な死というと、どうしても交通事故や殺人事件を思い浮かべてしまう。だって、そういうものじゃないと死なないじゃないか。
「たった数十年前は病気に罹って死ぬことも多かった。結核がいい例だろう。あれは今でこそ薬で治療が可能だが、昔は治療できない不治の病だったんだぞ。ぼんやりしているお前でも、新選組の沖田総司くらいは知っているだろう」
「あっ、あの人ね。血をごほって吐いているイメージが。ってそうか、沖田総司の病気って結核だったんだ」
新選組は漫画やゲームで知っているのですぐ解る。しかし、それでも身近なイメージではない。ううん、そもそも幕末なんて物騒な時代だし。
「あっ」
しかし、物騒というところから、徐々に理不尽に死ぬということがイメージ出来てきた。今よりも死が身近な時代。そんな時に不審な死があったとしても、それがいちいち殺人事件なのか事故なのか考えていられない。
「まあ、まだ大雑把だが、少しは理解出来たようだな。その死体が辻にあれば七人ミサキとされ、難破船だったら船幽霊というわけだ」
「な、なるほど。って七人ミサキって辻にいるものなの?」
「多くはな。あとは川辺も多い」
「へえ。って、そういう場所って昔は事故に遭いやすかったってことか」
「そうだ。現代でも交差点が危ないのと一緒だな。それと、不慣れな人間が川で泳ぐと溺れるのと一緒。そういう場所で人が死ぬと妖怪の仕業と考えていたんだ。理不尽だけれども、妖怪に殺されたのならば仕方がない。そう考えることが、生き残る術だったんだ。しかし、妖怪として発生してしまった七人ミサキにすれば、現代では考え方が変わったので七人ミサキのせいとは言いませんって言われも困るんだよ。やつらは長い年月を妖怪として生きてきたんだ。今更なかったことには出来ないんだ」
「ううむ」
妖怪って難しいのねえと、鈴音は唸ってしまう。




