第25話 後には引けない
「で、問題は玉座に関してなの。あなたを担ぎ出そうとしたのはユキだけじゃないわ。そしてこれは化け狐だけでもないの」
「う、うん」
そうだ。そもそもの発端はこの冥界の王様が急に辞めると言い出したことにあるんだった。鈴音はユキの顔をちらっと見る。
「わ、私は、いずれ鈴音様が冥界に戻られた際にお世話するよう、幼き頃から言い渡されておりまして」
ユキはもごもごと言い訳するように呟く。
「ユキはあなたに付かず離れず見守っていたのよ。だから、冥界に呼び戻してほしいとなった時、あなたの説得役になったの」
紅葉がくすっと笑ってユキの肩を叩く。自分のせいでとすぐに責めてしまうのが、この御前狐の駄目なところだ。
「へえ。ってことは、ユキってずっと近くにいたの?」
「ま、まさか。あの、その、お側近くにいたい気持ちをぐっと堪え、隣家の屋根の上などから」
「へ、へえ」
隣の家の屋根の上にいたんだと鈴音は呆れる。しかし、自分は全く知らなかったというのに、いつもおひいさまと思いながら彼が見ていたのかと思うと、ちょっと顔が赤くなる。だって、やっぱり人間姿のユキって可愛い系のイケメンだし。
「まあまあ。それよりも玉座の問題よ。これは差し迫っているわ。特に、あなたの力が解放されたことを、冥界の者たちはみんな知ってしまった。記憶をなくしているようだけど、あなた、さっきまで九尾狐に変化していたのよ」
「え?」
「完璧な変化だったわ。半妖とは思えない力を持っていたわけだけど、あそこまでとは私も思わなかったくらいに」
「ええっ!?」
ようやくここに寝かされていた意味が解ってきた鈴音だ。つまり、封印が解けて大暴れしていたということか。顔が真っ赤になってくる。ただ気絶しただけじゃなかったんだ。
「九尾狐として確かな能力を持っているとなれば、あなたが半妖だということで下に見ていた連中も認識を変えるわ。むしろ人間の頭脳を持っている妖怪として、尊敬されるでしょう。王となる土台が出来上がってしまったの」
「ええっと」
しかし、急展開に頭がついていかない。王となる土台が出来上がったって。選挙は。
「け、健星は?」
そう、健星はどうなるのか。彼だって選挙に立候補している。むしろ色々とよく解っている。人間界では刑事でキャリア組だ。あいつはどう考えているのか。
「小野殿とは話したわ。選挙は行いましょうということで決着が付いている」
「え、は?」
「ここで小野殿が引き下がってしまうと危険と判断したのよ。反対勢力は先ほどのことで減ったとはいえ、ゼロになったわけじゃないわ。むしろ小野殿を嫌がっている勢力が鈴音のことも嫌がる可能性もある。だから、選挙は二人で行うことになるの」
「はあ」
ううん、つまり今までどおりということか。いや、ちょっと待って。まだ立候補した実感さえないままなのだ。だって、ユキと出会ってまだ二日しか経ってないのに。
「さあ、忙しくなるわよ。ともかく今日はゆっくりお休みなさい」
しかし、もはや王になることは確定事項であるらしく、紅葉はにっこりと笑うだけで助けてくれそうにないのだった。




