第17話 鬼の待ち伏せ
「じゃ、じゃあ。お父さんは仕事の途中で九尾狐に会ったってこと。そして恋に落ちちゃったってこと?」
鈴音は意外な事実にぽかんとしてしまう。そして、あの泰章が恋と、想像できずに首を捻る。
「救助かしら」
おかげで考えられる可能性を口にしてしまった。九尾狐が困っていて手助けした。そして恩を感じた狐が父に・・・・・・昔話のようだ。
「詳しいことは知らん。俺も狐どもがお前を担ぎ上げるまで、半妖の娘がいるなんて知らなかったんだからな。が、その推測はあながち間違いではないだろう」
「そ、そうなんだ」
「ああ。異類婚姻譚でよくあるパターンだ。そして、そういうものは必ず人間界で行われるから、冥界を拠点にする俺には把握出来ないことがある」
「へえ」
なるほど、ちょっと納得出来る形になってきたかも。鈴音はふむふむと頷きつつ、パスタを引き上げた。横では手早く健星が具材を炒めている。
「ここに入れてくれ」
「はい」
こうしてテキパキとパスタが完成したのだが、いつの間にか戻って来たユキが面白くなさそうな顔をしていた。
「ユキ、どうしたの?」
「いいえ。別に」
別にと言いつつ、思い切り拗ねている感じがするんだけど。よく解らないなあ。だが、健星にはユキの態度の意味が解るのか苦笑していた。
「お前が仕える姫君は鈍感だぞ」
そしてそんなことを言う。すると、いつもは正面切って反論するユキが、そうですねと項垂れた。えっと、どういうことだろう。
「さ、飯を食うぞ。陰の気が満ちる丑三つ時に来られると面倒だ。飯を食ったらおびき出そう」
きょとんとする鈴音を放置し、健星は皿をさっさとダイニングテーブルに運び、今後の作戦会議へと入るのだった。
「あんなので本当に来るんですか?」
「来るさ。そもそも、この狐に追い払われた時、やつらは匂いを頼りにしたんだ。完璧だな」
「はあ」
食後、鈴音はなぜか着替えるように命じられた。下着となぜか巫女装束を渡され、風呂に入って来いと言われたのだ。そしてお風呂から上がると、鈴音がさっきまで着ていた制服を纏う、珍妙な人形が出来上がっていた。それを窓辺に置き、鬼がやって来るのを待つという。
ちなみに健星はスーツのままだ。狩衣姿のユキと巫女装束の鈴音に挟まれているせいか、健星の方が場違いな感じになっている。
「来ました」
しかし、奇妙な人形を監視するという時間は意外と早く終わった。窓辺に置いて三十分。ざっと人形が穿くスカートが揺れる。
「おおっ、ここにおったぞ」
「呑気にしておるわ。喰ろうてやろう」
鬼たちが楽しそうに、まるで歌うように囁く。そして人形に齧り付いた。
「ひっ」
その瞬間、今まで声だけだった鬼の姿が視えて、鈴音は短く悲鳴を出す。その鬼はあまりに醜く、想像していた節分の時のような鬼とはまるで違った。目はぎょろっとして頬はこけ、腹が出ている。そしてざんばら髪に、二本の角。怖い。しかし、その悲鳴を合図とするように、健星とユキが飛びかかった。
「観念しろ」
「貴様は冥府の」
「ぐるうううっ」
銃を構える健星と、半分だけ狐姿になって飛びかかるユキ。双方からの攻撃に、鬼たちは戸惑う。だが、ユキに向けて人形を投げつけた。
「ちっ」
ユキは素早く空中で一回転。その間に健星が銃を撃った。ドンドンッと二発。それぞれが鬼の眉間に当たっていた。
「凄い」
しかし、鬼はそれくらいでは倒れなかった。ぐわっと目を剥き、健星に向けて牙を剥く。
「ちっ。さすがは現世まで追ってきただけのことはあるな」
それに対して健星は銃を投げ捨てると、素早く印を組んだ。




