昔、王太子に婚約破棄をされて、無実の罪で辺境送りになった悪役令嬢、今は25才独身彼氏なし魔法協会のお偉いさん、なのになぜか訪ねてきた元婚約者が無理難題を言ってきて、それを突っぱねてざまあするお話。
「……どうしてこう天気がいい日に嫌なことがあるのでしょう」
「そんなものですよ」
私はパンケーキをつつきながら、同僚とともに優雅にお昼休みを過ごしていたはずでした。
でも上から、どうしても賓客がやってくるので会ってあげてくれと言われてしまったのです。
とてもいやでしたが、断れない客でしたのよ。
「どうしてこういい天気……」
「もう現実逃避はやめましょう、エフィ」
「わかったわよ、ジル」
私はしぶしぶ立ち上がり、身支度を始めます。ああパンケーキが半分しか入らなかった。
ジルはしかし昔の知り合いといえども制約がかかっているのだから無体はしませんよと私の肩をぽんぽんたたいて慰めます。相変わらずしかし綺麗ですわ、キラキラの長い銀髪に青い目。
ここは魔法協会の支部、私はここの一応支部長、でもそれより上の命令でこれから昔の会いたくないやつに会うのです。
「しかし、婚約破棄されて、もう7年ですけどねえエフィ」
「いまだに独身らしいですわあいつ」
私はふうとため息をついて、正装の帽子をかぶります。
でもねえ、魔法の依頼なら私を指名しなくても、他にも湖の良き魔女とかネームバリューのあるのがいるじゃないと思います。
「……久しぶり、リリーローズ」
「……お久しぶりです。レオン様」
今はエフィロットですけどね、と私はくぎを刺すように言います。
エフィロットとは魔女名、みなこのように魔法使いになったとき、違う名前を名乗るのです。
名前には力が宿るので本名を知らせないためでもありました。
私のリリーローズの下にあるミドルネームは親しか知りません。魔力を持つものは将来魔法使いになることを想定して名前をつけるのですわ。
金髪碧眼の相変わらずいい男ですが、何か元気がないというか。
まあ……婚約者を振ってまで愛に生きるといった女が実は自分をだましていたというのを知ったからでしょうね。
「……それでご依頼はなんでしょう?」
後ろにジルがいるのでなんとか平静を保ってますけど、もう二度とこいつには会いたくなかったですわ。
「ああ、依頼は……」
よりを戻したいとかやめてくださいましと思っていると、彼は頭をかいて、自分はまだ独身でとか言い出します。
「あのお」
「君は、魔法協会の支部長だよね? えらいんだよね?」
「はあまあ」
「なら、よければ、強い魔力を持つ独身女性を紹介してくれないかな? 独り身だともう父上がうるさくて……」
私は口をあんぐり開けて、元婚約者を見ました。
ああ、こういう人でしたわ。図々しいというか。
昔はこういうところがかわいいとか思っていた私は馬鹿な17歳でしたけど。
「はあ」
「お願いだ! 後ろにいる美女でもいい!」
……私は後ろにいるジルがはあと盛大にため息をついたのを聞きました。
ああ、うん、こういうやつでした。
「……相変わらず目が腐ってますわね」
私は婚約破棄をされたことを思い出してため息をつきましたわ。熱を上げていたマリーさんとやらは金目のものをもってトンずらして、結局、断罪されて、辺境送りになった私は無実だったと言ってきて。
私はもうこの人とかかわるのは嫌で、こうして魔法協会に入ったんでしたわ。
あれから男性不信でありいまだに独身。
「私、男ですけど」
「へ?」
「ほら、私は男ですよ!」
「いちいち前をはだけて見せるのはやめてジル!」
いつもやってますがこれはねえ、前をはだけて見せるとペッタンコ。
どこからどうみても銀髪碧眼の美女、たおやかできれいとしか形容できない容姿のジルです。
「お、男、男、男なんて嘘だ!」
「ほらほら、よければ下……」
「おやめなさいジル!」
「はいはいわかりました」
はだけた服をもとに戻しぶうっと膨れるジル、男がそのかわいい表情やめてほしいですわ。
うーんと気絶する私の元婚約者、そこまでの破壊力ですか? ジルも罪作りですわ。
「これどうします? エフィ」
「制約条項、156条に違反、みだりに魔女に私的な頼みごとをするな! なので本部送りですわ」
「はい」
私は倒れこんだレオン様に向かって呪文を唱えます。白い転移陣が現れ、レオン様を包み込み、いつものように消えていきます。
これ一か月に二度もしないとだめって私は変な依頼人しか相手にしていないようですわ。
「……はあ、憂鬱ですわ」
「独身女性、紹介してあげます?」
「ごめんこうむりますわ、制裁を魔法協会から受けるので、まあしばらくは行動できないでしょう」
ジルはそうですかあとにっこりと笑います。私はこの美女にしか見えない同僚といつも一緒にいるおかげで、いまだに独身、彼氏なしですわ。
「そういえばあのレオン様とやらをだましたマリアとかいう女は捕まりませんね」
「国家機密をハニートラップとやらで聞き出す組織の一員だったらしいですが、あほの子のレオン様がろくな情報を持ってなかったので大した被害もなくすんだみたいですわ」
「そうですかあ」
ほえほえというジル、ああしかしどうしてこう変な依頼しか来ませんの?
「一生私は恋愛も、結婚もできないような気がしますわ……」
「そうですか? 私、よかったら恋人に」
「結構ですわ」
「そうですか」
いつものやり取りを繰り返し、私はこんなのとくっついたら絶対に見た目女同士のカップルですわよと身震いします。長い銀の髪、深い青い瞳、白い肌、でもねえ……。
「男に見せるよう努力してくださいまし!」
「髪は魔法使いは長いほうが魔力が宿りますし、髭は伸びない体質ですし、魔法使いの正装って体格がわかりにくいですし……あ、上半分を見せる衣装……」
「却下ですわ!」
ジルは残念そうにそうですかあとまた笑います。ああどうしていつもこうなるのでしょうか、もうすこし男性らしく……してくれたら私もジルのことが嫌いじゃないですのに。
こうして私たちのいつもの魔法生活が過ぎていくのでした。
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