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玄関の鍵を開けると、思わずよだれが出そうないい匂いが鼻孔をくすぐる。ここ最近、新山陽茉莉が一緒に住むようになってから毎日だ。
(今日は何だろう?)
陽茉莉は日々、色々な料理を作ってくれる。
始めは作らなくてもいいと伝えたのだが、本人が「居候するのだからそれくらいはします。それに悠翔君にコンビニ弁当ばっかり食べさせていてはだめですよ」と力説するので、その後は任せている。
そして、相澤にとっていつの間にかそれは密かな楽しみになっていた。
「ただいま」
リビングダイニングを開けると、軽く声をかける。ちょうど食事の最中だった悠翔と陽茉莉がタイミングを合わせたかのように「お帰りなさい」と言った。
「係長。すぐ用意するから、ちょっと待っていてくださいね」
陽茉莉は立ち上がるとキッチンへと向かう。
「お兄ちゃん! 僕ね、今日、上手に縄跳びできたよ」
「へえ、すごいじゃないか」
相澤が悠翔の頭をぽんぽんと撫でると、悠翔は嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。
(本当は俺が、もう少し家に居られればいいんだけど)
自分が出かけることによって結果的に陽茉莉に悠翔の世話を押しつけることになり、負担をかけていることは自覚していた。それに、陽茉莉は掃除や洗濯などの家事も気付いたらやってくれている。
邪鬼退治に関し、自分の代わりを務められる人間がいないことが、口惜しい。
唯一の救いは、陽茉莉が悠翔の相手を楽しんでくれている様子なことだ。
元々子供が好きということもあるだろうし、四人兄弟の長女で小さな頃から弟と妹の世話をしていたと言っていたので、子供の相手に慣れているのだろう。
悠翔がスプーンをお皿から口に運ぶ。
目の前に置かれた食べかけのお皿には、卵に包まれたチキンライスが少し残っていた。
「これは、オムライス?」
「そうです。はい、どうぞ」
トレーに乗せて相澤の食事を持ってきた陽茉莉が、相澤の前に食事を並べてゆく。そして、最後に置かれたお皿を見て相澤は目を瞬かせる。
『おつかれさま!』
黄色い卵の上に、ケチャップで書かれた文字を読み、相澤は思わず笑みを漏らす。
スプーンで掬い上げて一口食べると、素朴で優しい味が口の中に広がった。




