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【書籍化】今宵、狼神様と契約夫婦になりまして【コミカライズ】  作者: 三沢ケイ


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5-2 ②

 ◇ ◇ ◇



 一週間ぶりに訪れる八幡神社は、日々赤や黄色に染まってゆく木々も相まって、

 先週よりさらに秋めいていた。


 神殿の裏側に回ると裏参道が延びており、その入口近くあるカフェで陽茉莉は目的の人物を見つけた。薄茶色のスラックスに濃い茶色と白のツイードジャケットを着た高塔はコーヒー片手にスマホを眺めており、裏参道を通る女性達がガラス越しにチラチラと視線を送っていた。


(見た目はかっこいいんだよねー)


 相澤と一緒に住んでいるせいでイケメン免疫がついてしまったのか、すっかり高塔が社内の女子憧れの存在になる程の美男であることを忘れていた。


「こんにちは」

「ああ、こんにちは」


 どこかにメッセージを送っていたようで、メッセージアプリの画面がちらりと見えた。高塔はそれを素早く閉じると、陽茉莉に前の席に座るように勧める。注文してすぐに、店員さんがほうじ茶ラテを運んできてくれた。


「訓練って、何をするんでしょう?」

「そんなに畏まって緊張しないでよ。難しいことはないから」


 もしかして、滝に打たれる修行だったらどうしよう。そんな想像をして表情を固くしていた陽茉莉を見つめ、高塔は苦笑する。


「これ、ちょっと見てくれる?」


 高塔は鞄からクリアファイルを取り出し、そこに挟んでいたメモ帳のようなものを陽茉莉の前に並べる。


「これ……」


 それは、長形の封筒くらいの大きさに切られた白い紙だった。

 黒い墨汁で何かが書かれているが、あいにく陽茉莉には読むことができなかった。古文や歴史の資料集で見たような、崩した変形文字だ。


 陽茉莉は、その白い紙に見覚えがあった。以前、相澤の毛布を取りに行ったときに机の上に無造作に置かれているのを見た。


「これが、礼也が作った祓除札ね。こっちが癒札」


 高塔は説明しながら、その白い紙を陽茉莉の前につつっと差し出す。


「基本的には、神力を込めて祓いの文言を書けば祓除札になるんだけど、その込め具合の上手い下手で札の効力が変わる。墨は特別なものだから、詩乃さんに言えばもらえる。後は、上級者になると札を使わなくても神力をコントロールして祓うこともできる」

「なるほど。ところで、その〝神力のコントロール〟っていうのは、どうやるんですか?」

「え?」

「え?」


 高塔と陽茉莉は同時に顔を見合わせる。


「そんなに神力強いのに、少しもコントロールできないの?」

「できませんけど?」


 陽茉莉は当然のように答える。コントロールも何も、それがあるということすら自分ではよくわからない。


「…………」


 ふたりの間に微妙な沈黙が流れた。


 簡単だと聞いていた祓除師の修行だけれど、実は前提条件が違う気がする。


「もしかして、私には無理ですか?」


  高塔の反応を見て、陽茉莉は本当に自分にもできるのだろうかと不安を覚えた。


「いや、大丈夫。札を作れるようにはなるはず」


  祓除の強さは弱いかもしれないけど、と高塔がボソリと呟く。


「ここだとなんだし、場所を変えようか」


 陽茉莉のほうじ茶ラテがほとんどなくなっているのを確認した高塔が、伝票を持ってすっくと立ち上がる。

 陽茉莉は慌てて残っているほうじ茶ラテを飲み干すと、高塔の後に付いていった。



 ◇ ◇ ◇



 秋も深まったこの季節、辺りが夕闇に染まるのも早い。まだ時刻は五時を過ぎたばかりだけれど、辺りはすっかりと薄暗くなっていた。


「そんなに難しくなかったでしょ?」

「はい。でも、私が作ったものって本当に効くんですか?」

「効き目は弱いかもしれないけど、効かないってことはないよ。訓練しているうちに、段々上手に作れるようになると思う。家で復習してみて」

「はい。わかりました」


 陽茉莉は頷く。


 祓除札の作り方は、高塔の言ったとおり至ってシンプルだった。専用の墨を使って祓いの詞を書けばいいだけだ。ただ、この祓いの詞を書くときに神力を乗せる必要があり、そのコントロールが問題になる。


 手に意識を集中させてと言われたけれど、いまいちわからなかった。

 ただ、たまたま上手くできたときは祓いの詞が鈍く光るので上手く乗ったのだとわかる。何度も練習しているうちに、段々とコツを掴めるようになるらしい。


「そういえば、今日は礼也は来なかったんだね。絶対に付いてくると思ってたのに」

「はい。伝えていませんから」

「え? そうなの?」


 高塔は驚いたように目を丸くした。


「はい。係長は心配性なので、反対されると思って」

「あ、そう……。どうりで」


  高塔は自分のスマホをちらりと見る。陽茉莉はその反応を見て、不思議に思った。


「何かありました?」

「いや、そういうわけじゃないんだけど、言っておいたほうがいいんじゃない?」

「うーん、必要ないと思います」

「でもさ。礼也は鼻が利くから隠しても隠し通せないと思う」


 そう言うと、高塔は薄暗くなり始めた空を見上げ、人差し指で空を指した。


「それに、ほら。今日は満月のはずだし」

「満月が何の関係があるんですか?」


 陽茉莉は怪訝に思って、逆に聞き返した。

 相澤に祓除師の訓練を始めたことを告げることと、月の満ち引きが何の関係があるのかさっぱりわからない。

 高塔は大真面目な顔をして、ずいっと人差し指を差し出す。


「嫉妬に狂った男は怖いんだよ。特に、礼也は満月の夜はオオカミになるから」

「はあ……」


 陽茉莉は気の抜けた返事をする。

 満月の夜じゃなくても、日常的にオオカミ姿になっていますけど?



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