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世も末子さんの観察  作者: めいめい
9/10

初めての購買

 学校へ向かっている最中、昨日の家での出来事を思い出していた。



 ーーーーー昨夜


「あっ!そう言えば涼子に聞きたいことがあったの母さん忘れてた」




 夕食を食べている時、何かを思い出したのか母は食べるのを止め話しかけてきた。別に食べ終わってからでもいいと思うんだが。



「なに? 急にどうしたの?」


「ほら、ちょっと前に涼子が具合悪いって言ってた日あるじゃない?」



 きっと母が言っているのは綾瀬がシャトルランじみた事をしていたあの日の事だろう。

 それ以外にも何度か身体面なのか精神面なのかは分からないが不安定な時は何度かあった。

 けれどその事は母に伝えていなかったためこうしてすぐに答えは出た。





「うん、母さんが近所の人と立ち話してた時の事でしょ?」


 母が話していた相手が綾瀬の母親なのは知っていたがわざわざ言う事も無いだろうと伏せておいた。



「そーそー! 丁度そこから話が繋がるんだけど涼子って綾瀬さんとこの娘さんと友達だったのねーと思って」


「いや…母さんそれは」


「ん? それはって何よ、家からちょっと離れてた所で2人して話してたじゃない。まぁとにかく最近涼子から友達の話とか全く聞かなかったから学校でうまくやってるのか心配してたけどホットしたのよ〜ほんとに。これからも仲良くしなさいね」



「……」



 返す言葉が思いつかなかった。母がゴリ押しに話を勝手に進めてしまったからだ。


 2人で話をしているだけで友達だと決めるのはさすがにおかしいんじゃないか?母さん。


 それともそんなに仲良く話している様にでも見えたのか、お似合いとでも言うのかそれは知らないがとにかく勝手に決めるのはやめていただきたいものだ。




 まず私と綾瀬は友達ではない。

 どういう関係か聞かれたらきっと勝負相手とでもてきとーに流して答えるだろう。



 流すとは言え勝負相手というのは本当の事だ。もし聞かれたら自信満々に答えてやる。それを聞いた上でどういう反応を見せてくれるのかも中々に気になる事だし。




 そんな事をチラホラ考えながら遅刻ギリギリの時間に学校へ到着し今日1日の学校生活が始まる。



 授業よりまず例のゲームのターゲット探しだ。

 お互いが観察しやすいように学校の生徒にする事は最初から決めていたが…さて、誰にしよう。



 4時間目の授業が終わるまでの間、今までに観察してきた人や、この人は面白そうだと候補にしていた人を頭の中でずっと整理していた。

 その候補にしていた人はクラスメイトだけで3人いる。


 もちろんそのうちの一人は綾瀬だ。

 彼女の事もまだ観察の途中だと言うことを忘れてはいけない。



「あ…そうだ。今日は弁当が無いのか」


 お昼の時間になってそれを思い出す。

 母は仕事の都合で夜中には家を出て仕事に行っていた。朝、私の部屋のテーブルの上に今日は弁当作れないからこれでてきとーに買って食べてください!と書いた紙切れ1枚とお弁当代の1000円が置かれていた。



 登校中にあるコンビニで何か買おうと思っていたはずなのにすっかり忘れていた。

 最近抜けている部分が多い気がする。

 別に少し抜けてる事なんてどうでもいい事だが観察には支障を出さない様にしないと。



 購買に行かなきゃ…めんどくさいが仕方ないと教室を出たはいいものの、1度も購買には行ったことがないため何処にあるのか分からない。


 何となく1階にありそうと思い階段をゆっくり降りていると、後ろから小走りで降りてくる足音が聞こえた。




 まぁそんな事だけで後ろを振り返る。なんてもちろんせず降りているとその足音は私のすぐ後ろら辺で急に止まった。



 ん?何で小走りで急いでいたのに追い越していかないんだろう。それにどうして私の後ろで止まったんだ。


 と、ほとんどのみんなは思うだろうけど私の考えは違った。



「ねぇ。購買ってこっちであってるの?」


「げっ! 後ろいるの気づかれてたんかいっ」


「バカね、あんだけうるさく音立てて走ってきてバレないと思ったの? ってそんなのどうでもいいけど」


「出た! 黒沼のどうでもいい。ってかこっち振り向かないで話しかけて来たけどうちだってよく分かったよね。これで違う人だったらマジ笑うんだけど」



 そう、後ろに居たのが綾瀬だと言うことはすぐに分かった。


 理由としては小走りで階段を走りながら降りてきていた癖にわざわざ私の後ろで突然走るのをやめ止まった事。

 明らかに遊びでやっているというかふざけてやっている感じがした。



 そしてもう1つ決定的なものは匂い。



「その香水の匂いですぐ貴方だって分かった」


「あ〜なるほどなるほど。確かにこの匂いは被ること無さそうだし…というか香水つけてる人自体あんまいねーもんな。黒沼お見事!」



「そんなのはもういいの。それより購買の場所教えて欲しいんだけど」


「はいはい。今うちも購買行くとこだったからどーせなら一緒にいこっ」



 まさか綾瀬も購買に行くとはな。別に驚くような事ではないけれど綾瀬との遭遇率はかなり異常な気がする。

 前に1度言ったかも知れないがこれはゲームなら確実に綾瀬ルート、と言うやつになるだろう。観察ゲームといい綾瀬ルートといい…



 ふざけたゲームだ。



 喫茶店に向かっていた時よりは綾瀬の歩くペースが遅いため前回よりはついて行くのが楽だった。


 購買の場所は一旦玄関をでて裏の方へ回る。

 そこに体育館があるのはもちろん知っていたがその隣にある小さな建物が購買だったとは。てっきり何にも使われていない廃墟的なものだと思っていた。



 中に入ると既に長い列が出来ていてその最後尾に2人で並んだ。

 この購買は食券がなく、頼む時は全て口を動かなさければならないらしい。はぁ…とため息をつきそうになったが何となくそれを止めた。



「あ、今ため息つこうとしてたっしょ」


「……別に」


「別にってなんだよもぉ〜顔みてすぐ分かったよっ」


 何で分かったんだ。

 今からため息をつきますって顔でも私はしていたのだろうか。だとしたら少々恥ずかしい。一体どんな顔をしていたのか…と無意識に思っていた。



 この時の私はまだ気がついていなかった。恥ずかしい何て思ったのはいつぶりだったのだろう。

 他人からの目線など全く気にしていなかったこの私が綾瀬から言われた一言で勝手に妄想を膨らませ勝手に恥ずかしがっている。


 もちろんその感情は表に出ていないがそれでもこれはかなり大きな変化だ。



 密かに新しい感情が芽生え出す。

 恥ずかしいなんて昔はあった感情なのだから新しいという言い方は少しおかしいのかも知れないけど1度は0になって無くなったものだ。



 だからいいじゃないか。

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