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世も末子さんの観察  作者: めいめい
6/10

めんどくさい星人

 朝起きると昨日の具合の悪さはまったく無くなっていて異常なくらい爽快に感じた。

 おじいちゃん、おばあちゃん達は朝早くから起きているのに元気そうだけどいつもこんな感じなんだろうか。




 なんて事を考えながら顔を洗い朝食を軽く食べ、歯を磨き着替えを済ませ家を出る。


 この毎日同じような朝はあと何回続くのだろう。




 まだ少し肌寒かった朝が段々と暖かくなっていきそろそろ夏の迎えがくる。

 私はどちらかと言うと夏は嫌いだ。夏はイベントが多い。



 定番の夏祭りやバーベキュー、海でわちゃわちゃ、花火、などなど。私にとってそれは全て無縁の事。ただ暑い暑いと冷たいお茶を飲み風鈴の音を聞きながら特に何もする事なく家にいる日々だ。




 唯一夏らしい事をしてると言えるのは花火大会の日に上がる花火をぼーっとしながら部屋の窓から1人で眺めている。それぐらいだ。


 大規模な花火大会ではないから長時間続くことも無ければ花火の綺麗さで感動することもない。

 ただ上がっている花火を無心で見ているだけ。




 一緒に花火をしよう。一緒に祭りに行こう。皆でバーベキューしよう。


 これらは自分が1人じゃなく周りに友達がいて寂しくない充実した日々を送っていますよと遠回しに言っているようなオーラを出している。

 そんな風に私には見える。



 だから余計に夏は嫌いだ。




 今日は誰が私の暇つぶしになるのだろうと思いながらスタスタ歩いていると男女のペアーが歩道橋から降りてきた。

 降りてきて向かう先が自分と同じだったためすぐに一緒の学校だと言うことが分かった。しかもあの2人はどこかで見た覚えがある。




「あっ…階段裏の」



 そう。いま目の前を歩いている2人は昨日の放課後に階段裏でイチャコラトークをしていた人達だ。しかも白昼堂々手を繋いで歩いている。




 これはつまりあの後付き合う事になったって事か。あの時は誰かさんに邪魔されたから結果まで分からなかったけど今ここで答えを教えてもらったからちょっと満足。




 それにしても良くもまぁ手を繋いで歩けるもんだ。恥ずかしくないのだろうか。

 私みたいに周りからの目線なんて一切気にしない、どうでよくて興味がない腐った精神って訳ではないだろう。私と同じ考えならまず彼氏彼女なんてものは作らない。




 きっと恥ずかしいんだろうけど私達付き合ってますアピールをしたいんだろうな。どうせすぐに別れるだろうに無駄な事を。



 中学の時にも私が知っているだけでカップルは何組も存在していた。

 けど付き合っては別れ、また別の人と付き合い、別れての繰り返し。

 そういう奴らはどうやら時間を無駄にするのが好きらしい。変なの。




 ちなみに私は中学の時に2度告白というものをされている。それも中学1年生の最初の方で。

 ブスではないと思ってたけど案外可愛かったのかもしれない。ってのは置いておくとして。もちろんどちらの告白も丁重にお断りさせてもらった。




 元からその男達には微塵も興味無かったしその時にはもういじめのターゲットとなっていたから断る選択肢しかなかった。


 私と付き合えばその男も周りから痛い目で見られ嫌われていく可能性大だったし、もしかしたら罰ゲームで告白してきた可能性だってある。



 それを考えると断ってあげた私って凄く優しいな。




 そして学校の校門が見えた所で2人の暑苦しそうに繋いでいた手がぱっと離れる。学校の中まで繋ぐ度胸はどうやらなかったらしい。



「中途半端な人たちっ」




 鐘が鳴り朝のホームルームが始まっている。同クラとドヤ顔で言っていたが綾瀬はどこに座ってるんだろうと1番後ろの窓側という神席を陣取っていた私は当たりを見回す。

 すると思っていたよりすぐに見つけてしまった。




 綾瀬は廊下側の1番前の席でペン回しをしながら黒板の方をぼーっと見ていた。

 入学して最初の席は名簿番号順だったが最近席替えをした。席替え方法は超簡単でただのくじ引きだ。



 それで私は運がよく神席を手に入れたが綾瀬もある意味運がいいな。名簿番号順の時と同じ場所なんて。なんか少し笑える。




 朝はギリギリに登校してきていたため教室に入ってくるなりすぐに自分の席に座って汗ふきシートで首元を吹いていた。絶対寝坊して走ってきたな。間違いない。




 というか人間観察をちゃんとしているとは言え、朝の登校中のカップルの後は無意識にずっと綾瀬ばかり観察してしまっている。


 昨日の事があったからなのか分からないけど変な気分だ。胸の奥がもやもやする。また胸をバシバシ叩きたい所だが今は辞めておこう。実際むせちゃうだけだし。




 授業が始まり綾瀬以外の人に目を向けようと色んな人達を軽く観察した。




 先生に気づかれないように携帯をいじっている人や教科書を立ててそこに隠れるように頭を下げ寝ている人、袖の中にイヤホンを通して先っちょを手で持ち、頬杖をつき耳に手を当て曲を聞くというプロ技をかましている人などこのクラスは不真面目な奴ばっかりだな。



 人の監察ばっかしてる人が言えたことじゃないけど。




 先生もたいして注意はせず黙々と授業を進めている。

 テストの結果が悪くて補修になっても自業自得って事なんだろう。私が先生でも多分そうする。だってめんどくさいし。




 人間はめんどくさいというかなり強大な魔物には勝てないようになっているのか、まずそんな奴と戦う事すらめんどくさいなってなるしつまりそういう事だ。




 全部が全部めんどくさいと思えれば気が楽になるっていうのにみんな中途半端にめんどくさい事とそうでは無いことを分けたりするから怒ったり悩んだり悲しんだりといつも忙しくなってしまうんだ。

 でも…それでもいいと思えるような事に巡り合えたなら話は変わってくるけど期待はしない。





 時間が経つのは早い。


 気がつけばもう帰りのホームルームが終わっていた。時間の流れに抗えず身を任せる事しか出来ない人類はいつの間にか果て朽ちていくのだろう。


 生まれた時点でいつか死んでしまう事は確定している。よくよく考えればこれだけで十分闇が深い。





 さっさと帰ろうと帰る準備を早急に済ませ立ち話をしている人達の横をスルっと抜けながら教室の入口に向かうと待ち伏せしていたかのように私の目の前に奴は現れた。あ…綾瀬ね。





「おっつ〜!顔色戻ってるし元気そうでなによりだな!」



「たいして元気ではないけれど。それで、また何か用?」



「黒沼さんよぉ〜用がないと話しかけちゃだめなのかよぉ〜」


 何で急にラップ口調なんだ…。毎回毎回私を困らせる。対応の仕方が分からないんだけど綾瀬奈々花の攻略本とかはないのだろうか。



「…」



「ってまぁ用はちゃんとあるんだけどね!」


 なら先にそれを言ってくれ。頼むから。


「あるんだ、何?」



「今日特になんも用事ないなら喫茶店でも一緒にどーかなーってね。」



 予想外の展開で思考回路が停止した。

 読み込み中〜読み込み中〜とずっと脳みそが慌てふためいている感覚に襲われる。昨日の今日でまさか喫茶店に行こうって誘われるなんて思うはずもなく。



「え?」



 と、不意に1文字の言葉がポロリと口からこぼれてしまった。すぐさま拾いたかったが口から出た時点で綾瀬の耳に声は届いているためもう手遅れ。



「いや、だから喫茶店でも一緒にどうかなーって誘ってるんですけど!用事があるなら断っても大丈夫だよ。家でごろごろする用事とか以外の用事ならね。後めんどくさいもなし!」



 本当に自分勝手なやつだな。



 でも用事があるなら断っても大丈夫って先に言ってきてるだけでもまだましか。

 用事は特に何も無い。めんどくさいとはもちろん思ったけど今回出てきたこのめんどくさい星人はいつもより弱々しい感じだった。魔物より星人の方がしっくりきたから突如チェンジで。




 何で弱々しいのか、それは対象が綾瀬奈々花だからで間違いないだろう。なにか特別な力でも持っているのか…なんて現実逃避した考えばっか今していても答えは出てくるはずがない。



 口を動かそう。




「別に用事はないけど。でもなんで急」


「んじゃ決まりー!」


「ちょっと。まだ話してる途中なんだけど」


「あーこれは失敬。続きをどぞ!」


「はぁ。。何で急に誘ってきたの? と言うか何で私にばっか構うの? 理解できないんだけど」



 そうだ。そもそも綾瀬は何で私にばっか構うんだろう。

 他にもクラスメイトは沢山いるし別のクラスだってある。選ぶ選択肢はたくさんあるのになんでその中からわざわざ私を選ぶのか。色々な色の玉がたくさん転がっている中わざわざ真っ黒い輝きひとつないものを選んでいるようなものだ。




 絶対良い奴じゃん。と綾瀬が昨日言ってきた時の記憶が急に頭の中を駆け巡る。私は…私は良い奴なんかじゃない…。

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