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攻撃する鷲、飛翔

 銀河帝国軍は、三元帥マーシャル・ロードが中心となって貴族連合の根拠地である惑星エディンバラへの侵攻計画の立案が進められている。

 先のバルバロッサ作戦の成功で戦局は帝国軍の優勢に傾いている。この流れを風化させずに、一気に勝敗を決するべきだと統合艦隊司令長官のジュリアスは軍事省庁舎の会議室にて主張した。


 ジュリアス、トーマス、クリスティーナは、今も昔と変わらずヴァレンティア邸で一緒に暮らしてはいるが、一旦軍服を脱いでしまえば、仕事の話は一切しないというのが暗黙の了解となっていた。

 しかし、互いに相手の事を熟知している3人は少ないやり取りだけでも相手の思いや意図を察し、まるで事前に擦り合わせたかのように会議はスムーズに進んでいく。

 彼等の副官や幕僚たちも会議に同席しているが、発言する必要性はほぼ無いと言って差し支えなかった。


「基本的な方針としては、この前のバルバロッサ作戦と同じく電撃戦で行きたいと思ってる。ただ、情報によると連合軍は戦線を縮小して防御に徹した布陣を整えつつあるって話だ。それにスピードと火力のゴリ押しで攻めるのはリスクが大きい」


「では、どうすべきだとシザーランド司令長官は考えているのですか?」


 クリスティーナの問いにジュリアスは自信満々の笑みを浮かべながら答える。

「敵の主力を引きずり出して、俺の突撃機甲艦隊ストライク・イーグルで叩き潰してやるのさ!」


 ジュリアスの単純な回答に、トーマスは溜息を吐いた。

「まったく簡単に言ってくれるな。それができれば誰も苦労はしないんだよ」


「勿論、簡単にはいかないだろうさ。でも、連合軍の主力はウェルキン艦隊とモンモランシー艦隊の2個艦隊だ。そのどっちかを潰すだけでも連合軍の戦線は大きく圧迫できる」


 “モンモランシー艦隊”の名を口にした時、ジュリアスは一瞬だけ眉をひそめて嫌悪感を示した。周囲には悟られないようにと本人は努力したつもりでいたものの、トーマスとクリスティーナの2人はジュリアスのその僅かな表情の変化を見逃さなかった。


 ジュリアスはウェルキン艦隊とモンモランシー艦隊。この2つのいずれかの艦隊、あわよくば双方を壊滅させる事が、戦争終結の鍵になると考えていた。

 現在の連合軍は、実働部隊のほぼ全てを国境防衛に当てており、自由に動かせる機動戦力はこの2個艦隊と言って良い。厳密に言えば、他にも戦力となる艦隊はいるにはいるのだが、ジュリアスが脅威になり得ると考えているのはこの2個艦隊だけだったのだ。


 本来、こうした方針は軍令部が打ち出し、統合艦隊司令本部がその実行に当たるというのが本来の流れなのだが、今の三元帥マーシャル・ロードでは統合艦隊司令本部が方針を打ち出し、その実行を軍令部が全面的にサポートするというような形態となっていた。

 この状態を、これではまるでシザーランド司令長官が軍令部総長のようではないか、と間接的にトーマスを揶揄する者も存在した。しかしこれを聞いたジュリアスは、「俺は軍令部の椅子に座ってるなんて性に合わないし、自分で艦隊を率いたい! それにトムは俺の要求を全て叶えるように努力してくれている! でも立場が逆になったとして、俺にはそんな芸当は絶対できない。だから軍令部総長はトムじゃないとダメなんだ!」と怒りを露わにしてトーマスを擁護した、という出来事も起きている。


「では司令長官閣下、そろそろ長官の具体案を皆様に披露されてはどうです?」

 そう言うのは突撃機甲艦隊ストライク・イーグル第3艦隊司令官アレックス・バレット少将。事前にジュリアスの作戦案を聞いていたバレットは、それを聞いて皆がどんな反応をするのか興味があったのだ。


 バレットの提案を受けてジュリアスは「そうだな」と答えた後、作戦の説明を始めた。

「まず銀河の各地に展開させた総力艦隊を貴族連合領に侵攻させる。これで敵の目を銀河中に分散させて、その隙に大艦隊を惑星エディンバラに向けて出撃させる。そうなれば各戦線の維持で手一杯の連合軍は、ウェルキン艦隊かモンモランシー艦隊を差し向けてくるだろう。そこを俺の突撃機甲艦隊ストライク・イーグルで背後から叩く」


「と、統合艦隊司令長官が本隊ではなく、別動隊の指揮を執られるのですか?」

 軍令部所属の将官が驚いた表情で声を上げる。


 そんな彼の反応に味を占めたジュリアスは意気揚々とした様子で返す。

「別動隊という表現は少し違うな。この作戦では全てが本隊なのさ。各地の総力艦隊の侵攻だってそうだ。ウェルキン艦隊かモンモランシー艦隊を叩けば、貴族連合が受ける衝撃はかなりのものだろう。そうなれば、各地の総力艦隊による攻撃で連合軍の防衛線は一気に瓦解するからな」


「で、ですが、もしウェルキン艦隊もモンモランシー艦隊も現れなかった時はどうなさるのですか?」


「その時は、連合軍の脆弱な守りを突破して惑星エディンバラに艦隊を進めるだけの事だ。敵の根拠地を占領してしまえば、如何に敵の戦力が健在でも意味が無いからな」


「しかしそれでは連合軍の戦力が無傷の状態で残る事になります。エディンバラの陥落を無視して、自立勢力として活動する可能性もあるのでは?」


「それならそれで良い。銀河のあちこちで地方軍閥化してくれれば、我が軍はそれを1つ1つ各個撃破していけば良いだけだからな。仮にそうした連中が1つに結集して軍備を再編成したとしても、しょせんは烏合の衆さ。恐れる必要は無い」


 軍令部の老練な軍人官僚を相手に、ジュリアスは堂々した振る舞いで彼等の質問に答えていく。その姿は正に帝国元帥の風格と言えた。



─────────────



 会議が終わり、全員が解散した後。

 ジュリアス、トーマス、クリスティーナの3人は会議室に残った。


「ジュリーは大したものだよ。僕でも手を焼いてる軍令部のお役人さんをああも簡単にあしらっちゃうなんて」

 若過ぎる軍令部総長に、露骨な敵意を示す者は少ないが、それでも年配の高官の中には密かに反感を抱く者は存在する。

 しかもそういう者の多くは、名門貴族ながらヘルの台頭時にヘルに身を委ねたという経緯を持つ者ばかりで、トーマスが平民出身である事も反感の一因となっていた。


「ああ言う連中は、上官に逆らったりする度胸なんてどうせないんだから、軽く相手をしておけば良いんだよ」


 ジュリアスの発言にクリスティーナはクスリと笑う。

「トムは少し真面目過ぎますからね。もうちょっとジュリーのように頭を空っぽにしてはどうですか?」


「な! そ、それじゃあ俺が何も考えてないみたいじゃないか!」


「いえいえ。そうは言っていません。何せジュリーの頭の中は食べる事でいっぱいでしょうからね。今日の晩御飯はあれが良いなとか色々と忙しい事でしょう」


「お、おい! 結局食べる事しか考えてないて事になるじゃないか。クリスはいつも俺の事を食欲しか頭にないみたいに言うけど、俺だって年頃の男の子なんだからな!」


「つまりジュリーの頭の中は女の子の裸の事でいっぱいだと?」

 クリスティーナはまるで変態を見るような冷たい視線をジュリアスに向けた。


「って、何で今度はそっちになるんだよ?」


「だって年頃の男の子の考える事はやはり性欲でしょう」


「……じゃあクリスは、俺とトムがクリスに嫌らしい視線を向けているとでも言いたいのか?」


「ちょ! ジュリー! 何で僕まで巻き込むの!?」

 突然、話の渦中へと放り込まれたトーマスは抗議の声を上げる。


「2人が私にどんな卑猥な感情を抱いたとしても、私はどうとも思いません。私達は一心同体なのです。そのくらいの事で今更を何を騒ぐ必要があるのです?」

 真っ直ぐジュリアスとトーマスの目を見ながら言い切るクリスティーナ。そもそも常に共に行動し、状況が許すなら同じベッドで共に就寝する間柄で今更何を恥ずかしがると言うのか。そう考えるクリスティーナは、絶対の信頼と友情を抱いている事を示した。

 それを理解した瞬間、ジュリアスとトーマスは急に恥ずかしくなって顔を赤くする。

 そんな2人を見て最初は勝ち誇ったような笑みを浮かべたクリスティーナだったが、2人が恥ずかしさから言葉を失ってしまい沈黙したままでいると、妙な静けさが会議室を覆い、今度は逆にクリスティーナの方が恥ずかしくなってしまう。


「な、なぜ、黙っているのです!? 何か言って下さい!」

 顔を赤くしたままクリスティーナが不機嫌そうに声を上げた。


「え? あ、ああ。すまんすまん。何だか何を言って良いのか分からなくなっちまって」


「ふふ。僕も同じだよ」


 3人はそれぞれに三元帥マーシャル・ロードという大任に不安や悩みを少なからず抱いているものの、こうした他愛も無い交流はそれ等を忘れさせ、己の職務を全うするための活力をもたらしていた。



 後日、ジュリアスの提案した作戦計画は軍令部にて詳細が煮詰められて、帝国軍最高司令官代理であるローエングリン公爵に受理された。

 そしてジュリアスは自らが編成した突撃機甲艦隊ストライク・イーグル、そして帝国軍艦隊を率いて帝都キャメロットを出撃した。進軍目標は、貴族連合の根拠地エディンバラである。

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