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絶対国防圏

 帝国軍のバルバロッサ作戦により貴族連合は、版図の2割を喪失してその国力を大きく削がれる事となった。

 これを受けて、惑星エディンバラのエディンバラ宮殿では連日、来たる帝国軍の侵攻にどう対抗するかの会議が開かれていた。


 ここで貴族連合の内政を司る内務官ジュール・ベルナドット伯爵は、本土防衛・継戦能力維持などのために必要不可欠な領域として《絶対国防圏ぜったいこくぼうけん》を提示した。

 もはや従来のやり方では貴族連合は支配地域の維持すら困難になった事から、防衛線の抜本的な見直しを図るべきとベルナドットは主張したのだ。


 彼が提示した絶対国防圏では、貴族連合は事実上、今の領土の2割を放棄する形となり、これには反対意見を持つ者も少なくなかった。しかし、会議の席でそれを堂々と主張する者はそうはいない。


 ベルナドットは今年87歳で、貴族連合創設メンバーの1人でもあり、貴族連合の幹部クラスの中では最高齢の人物だった。

 貴族連合を立ち上げる以前は、先帝テオドシウス帝の側近として活躍した経歴も持ち、それだけに執政官アーサル公爵も一目置く存在で、連合の影の支配者などと評する者もいるほどである。

「もはや時代は変わった。連合は衰え、帝国は栄えている。このような情勢下で、今のように広大な支配領域を抱えても、帝国軍の攻勢を支えきるのは不可能でしょう。であれば不要な星系は全て帝国に引き取らせて、こちらは重要なポイントだけ押さえておけばいい」


「しかしベルナドット伯、支配領域の多くを自ら手放すような真似をしては連合内部に動揺が走るのではありませんか?」

 そう主張したのは財務官コルベールであった。

 斬新な経済政策を打ち出す事で、連合の財政を安定化させ、連合の戦争継続を影ながら手助けしてきた彼に意見には聞くべき点があるとベルナドットも認める所だった。

「だが、そんな事を言っている余裕は今の連合には無い。ここは多少のリスクは承知で、対抗策を打たねば連合の存続すら危ぶまれるぞ」


 このベルナドットの意見に、ウェルキン侯爵も賛同した。

「戦線を縮小して守りに徹するのであればまだ戦い様もありましょう。帝国軍は補給線が長く伸びた状態での戦いになりますから、無理な戦線の縮小は我が軍にとって有利に働くでしょう」


 先のシェルブール星系の戦いで帝国軍艦隊を撃退し、その後も連合軍の防衛線を立て直す武勲を立てたウェルキンは元帥に昇進していた。帝国軍には大将と元帥の間には上級大将の階級が存在する。

 それは貴族連合軍も同様なのだが、組織体系の違いもあってか上級大将に昇進する者は貴族連合の歴史上そう多くはない。むしろ元帥号を授与された者の人数の方が多いくらいだった。

 また、ウェルキンの場合は劣勢に陥った戦況から、世論の目を英雄の勇姿へと移そうという狙いもあった。

 一方、平民出身という身分の低さもあってこの会議には出席していないが、モンモランシー提督も中将から大将へと昇進していた。


「だがウェルキン侯。戦線を縮小すれば、手が空いた各地の帝国軍がこのエディンバラを目指して殺到になる。そうなれば、帝国軍の大軍が集結して、軍部としても戦い辛いのではないかね?」


「コルベール伯の意見も一理あります。しかし、戦力が集結させられるのはこちらも同じです。しかも帝国軍は各地からの寄せ集めで遠い地からの遠征ともなれば、付け入る隙もあるというものです」


「……」


「執政官閣下、ご決断を」

 ベルナドットは執政官マルカム・アーサル公爵に決断を仰いだ。


 会議室に集まる貴族連合の重鎮達の視線は一斉に、白髪の老人の下へと集中される。

 皆の視線を一身に集めるアーサル公は軽く目を閉じて思案を巡らせた。


「……ベルナドット伯の絶対国防圏ぜったいこくぼうけん案を採用しよう」


 アーサル公は戦線の縮小を決断した。

 ベルナドットの提案を基本に、後はどこを死守して、どこを放棄するか具体的な方針が協議された。経済的に重要な要所や軍事防衛的に守りやすい戦線構成などが論じられ、話し合いが纏まるまでには3日もの時間を必要とするのだった。



─────────────



 絶対国防圏ぜったいこくぼうけんの具体案が完成し、その総指揮はウェルキン元帥が執る事となった。ウェルキンは艦隊を率いて惑星エディンバラを発つ。

 エディンバラ・シティの軍事宇宙港で、アーサルとベルナドットの2人はウェルキンの旗艦ヴァンガードの出立を見送る。

 連合創設時から、連合の発展と維持のために働き続けた両雄の表情には一抹の不安が窺えた。

「このエディンバラで貴族連合を発足してから、もう50年になるのか。時の流れとは不思議なものだな。あの日の事が機能の事のように脳裏を過るわ」

 ベルナドットが不意に呟いた。


「……連合も変わった。そもそもジェームズ皇子を帝位に就けるために発足されたはずなのに、その皇子が亡くなられて、連合はその存在意義を失った。後は残された者達が悪足掻きを続けていただけに過ぎん」

 アーサルは自嘲気味に語る。貴族連合はジェームズ皇子の病死と共にその存在意義を1度失っていた。しかし、だからと言ってジェームズ皇子が死去したからと言ってそれで終わりにはできない。現皇帝でもあるリヴァエル皇子に与した貴族達の報復を恐れて、連合貴族達は帝国に帰順する事もできず、貴族連合はそんな彼等を匿うための組織となっていたのだ。


「我等の敗北は、ジェームズ皇子が亡くなられた時点で決まっていたようなものか」


「いいや。まだ敗北が決まったわけではない。この連合は曲がりなりにも1度は銀河の半分を掌握した勢力なのだ。それに帝国も今は国内整備に力を注ぎたい時期のはず。国力の全てを外征に傾けられるわけがないのだからな。巻き返しのチャンスはまだ充分にある。それにここで我等が倒れては、亡きジェームズ皇子にも顔向けできん。亡き皇子のご意志を継いだ我等は何としても勝たねばならんのだ!」


「ジェームズ皇子のご意志、か」

 ベルナドットは意味深げな笑みを密かに浮かべる。

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