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軍事大臣の信頼

 軍事大臣は、三元帥マーシャル・ロードのナンバー1に位置する要職で、帝国軍の軍政を司り、帝国政府の閣僚でもある。

 その性格上、軍人というより政治家の気質が強く、皇帝騎士団ナイツ・オブ・エンペラーの中では唯一軍人以外の者でも大臣の任免権限を持つ銀河帝国皇帝の承諾さえあれば就任できる規定になっている地位だった。

 そして現在、その軍事大臣の地位についているのはクリスティーナ・ヴァレンティア元帥。史上最年少の閣僚である。


 クリスティーナは軍事大事に就任すると、様々な施策を精力的に実行した。

 まず1つ目は、造兵廠統合本部と協力して、帝国軍が管理する工廠を整備し、兵器の生産・修理体制の充実化を図った。

 工廠は、旧体制下で貴族達が天下り先の確保などの利権的な理由から帝国領各地に過剰に建設しており、それぞれの施設に充分な資金が投じられているとは言い難く、その中途半端な状態が兵器の生産効率を低下させて、さらに軍予算に無駄な出費を強いていた。

 これを改善すべく不要な工廠を破棄し、そこに投じられていた予算を他の工廠に回すなどの施策が実施された。


 2つ目は、教育本部と協力して、身分によって昇進できる階級や出世のスピードが変化する従来の制度の見直しが計られた。

 具体的には、士官学校の卒業生は少尉から任官するのに対して、貴族が通う帝立学院インペリアル・アカデミーの卒業生は爵位に応じて佐官の階級が与えられる。

 ここが見直され、帝立学院インペリアル・アカデミーも士官学校と同様に少尉から入隊するよう改められた。

 さらに帝立学院インペリアル・アカデミーから帝国軍に入隊する場合には2年間、士官学校に入学して士官としての教養を学ぶ事が義務付けられた。帝立学院インペリアル・アカデミーは在学期間が3年、士官学校は5年という差もあったのだが、これで両校における在学期間の差は解消されたと言える。


 3つ目は、帝国軍内部で横行している汚職事件の一斉摘発である。

 国家保安本部に協力を仰いで軍事省との間に共同捜査本部を設置。軍内で汚職を働く者の捜査が行われた。

 帝国軍は多くの物資と資金を扱う組織なため旧体制下では貴族達による汚職が半ば公然と行われていた。

 ヘルの台頭と旧貴族勢力の衰退により、かつてほどの規模ではなくなっているものの、クリスティーナはこれを機に一気に撲滅したいと考えたのだ。


「まったく嫌になりますね。調べれば調べるほど不正が発覚するというのは」

 軍事省庁舎の執務室にて、軍事大臣官房長ニール・チェンバレン准将からの汚職事件の調査報告書を読んだクリスティーナはそう言いながら溜息を吐いた。

 帝国と臣民を守るために命を懸けて戦うはずの帝国軍人の中に、不当に私腹を肥やしている輩がこんなにもいたのかとクリスティーナは失望の念を禁じ得なかったのだ。


「帝国軍はその性質上、組織の規模は巨大ですし、宇宙中に根を張っています。不正を行う隙は多くあった事でしょう。解体された近衛軍団や帝国保安局も旧貴族どもとの癒着が酷かった組織でしたからな」

 そう語るチェンバレン准将は、今年30歳の長身の男性だった。やや癖のある黒髪に、爽やかな雰囲気をした好青年という風貌をした彼は、平民出身ながらも有力貴族に巧妙に取り入る事で出世を重ね、ヘルの台頭時にはいち早くこれに乗じる事で30歳になる直前に将官クラスの階級を得るに至った。巧みな処世術と狡猾な策略で昇進を勝ち取った彼だが、地位に見合うだけの力量は兼ね備えており、そこを評価してクリスティーナは彼を補佐役に抜擢したのだ。


「全員、身柄は確保しておりますが、如何致しましょうか?」


「国家保安本部のヒムラー上級大将の方が専門です。処置は彼に委ねましょう」


「閣下、余計な事かもしれませんが、あまりお気になさいますな。帝国軍に限らず、何の不正も起きない組織など人類の歴史上、そうあるものではありません。こうして実態が公にできた事を喜ぶべきと小官は思いますが」


「……なるほど。そういう考え方もありますか」

 そう考えた時、クリスティーナの脳裏にはジュリアスの顔が浮かんだ。彼ならば、きっとそう考えるようにするだろう、と。

 しかし、あまり楽観してばかりもいられない。帝国軍は今や貴族連合軍との戦いに終止符を打つべく最終決戦の準備に入らなければならない局面に来ていた。

 そのためにも帝国軍の意思統一が重要となる中で、汚職事件の数々が発覚してはその意思統一が阻害される恐れがある。軍の高官の不正が発覚した場合には職務が滞ったりしてさらに厄介な話になりかねない。

「とはいえ、1度手を付けておいて、中途半端な状態で投げ出すわけにもいきません。調査は予定通り進めて下さい」


「承知致しました」


 汚職事件の調査に関する話に一段落が着くと、チェンバレンは新たな資料を手にしてクリスティーナに見せる。

「軍令部から届いた予算申請書です。出所は例の如く統合艦隊司令本部からで、今週に入ってからもう4件目ですよ」


「ふふ。思い付いた事はすぐに実行しないと気が済まないのがシザーランド司令長官という人ですよ」

 やれやれ、という風にしつつも、クリスティーナはどこか微笑ましそうにしている。


「は、はぁ。では、これも受理という事で宜しいでしょうか?」


「ええ。精査なら軍令部の方でコリンウッド総長がちゃんとやってくれているでしょうから」

 “シザーランド司令長官”や“コリンウッド総長”とやや堅苦しい呼び方に違和感を覚えつつ、クリスティーナはチェンバレンから書類を受け取る。そして書類の内容も軽く流し見した程度で、認可の判子を押した。


「……」


「ん? どうしましたか?」


「あ、いえ。これほど三元帥マーシャル・ロードの方々が信頼し合っているというのも珍しいのではないかなと思っただけです」


 三元帥マーシャル・ロードの関係性というのは不仲という例は少ないが、かと言って親密というわけでもない。程よい距離感を保っている程度のものだった。

 そのため、特に軍の運営効率に悪影響が出るという事もなかったのだが、今ではジュリアス、トーマス、クリスティーナの3人による固い絆が織り成す連携によって運営効率は飛躍的な向上を見せていた。


「シザーランド元帥が打ち出した新艦隊構想もあっさりと軍令部に受理されたようですし」

 正直なところ、チェンバレンは10歳以上も年下のクリスティーナ、そしてトーマスとジュリアスの事を僅かながらに軽んじている部分があった。そのため、自分が大臣官房長に就任が決まった際には、クリスティーナを傀儡にして自分が軍事省を牛耳る日も近いと半ば考えていたのだ。

 しかし今、3人は帝国軍の歴史上類を見ない高度な連携を披露し、軍内部でも若い者を中心に支持層を増やしていっていた。

 その光景を間近で見たチェンバレンは、己の認識の甘さを痛感し、今ではクリスティーナに忠実に従うようになっている。


「ふふ。あの2人は少々抜けているところもありますが、やる時はやる人達ですから」

 そう言ってクリスティーナは誇らしげに笑みを浮かべる。

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