貴族連合軍の名将たち
貴族連合執政官アーサル公爵の命令を受けて、領内深くに艦隊を進める帝国軍を撃退すべくウェルキン提督とモンモランシー提督はそれぞれの任地から離れて移動しながら合流を果たし、共に艦を並べて戦場へと急行していた。その最中、モンモランシー提督は今後の具体的な計画を検討するためにウェルキンの旗艦ヴァンガードに乗艦した。
「私が思うに、帝国軍は常識を遥かに超えた進撃速度で短期決戦を繰り返し、こちらに反撃の隙を与えないまま一気に戦線を押し込もうという算段でしょう」
そう主張したのはモンモランシー提督。彼はジュリアスの提唱した電撃戦構想の基本戦略を少ない情報の中からほぼ看破していた。
「一見無謀な作戦ではあるが、戦線の維持で手一杯となりつつある我が軍に対しては有効な作戦と言わざるを得んだろう。もしこのまま帝国軍の侵攻を許せば、貴族連合の版図は3割は奪い取られると考えた方が良いだろうな」
帝国軍の展開している艦隊の規模などからウェルキンは3割という数字を推測した。
帝国軍の作戦が短期決戦である以上、この侵攻が長期に渡って展開されるとは考えにくい。となれば、必ずどこかのタイミングで進軍を止めざるを得ないはずだ。
「だが、それを悠長に待ってはいられない。もし、連合の版図が3割も削られれば、帝国との国力差は絶望的なものになるだろうからな」
「今や帝国は、大貴族が掌握していた権益がローエングリン公によって接収されて挙国一致体制を確立しつつあります。相対的に武力国力は強化されたと言って良いでしょう。翻って我々の貴族連合は従来通りの大貴族による寄合所帯状態。これでは追い込まれても不思議はないですな」
「……」
帝国の大貴族達がそうだったように、連合の貴族達も貴族による支配体制を当然のものと考えている。それはウェルキン侯爵家という何代にも渡る名門家系に生まれたウェルキン提督も同様だった。
しかし平民出身のモンモランシー提督は違う。能力や実績ではなく、家柄で人事が大きく左右されるという不利な立場に立たされ続けてきた彼にとって現体制には何の思い入れもない。むしろローエングリンが帝国に築いた新体制に好感を抱くほどだ。
「まあとはいえ、せっかく中将にまでなったのですからね。連合に滅びられてはこれまでの苦労が水の泡になってしまいます」
「……では話を戻そう」
ウェルキンはそう言うと、自身の左手首に巻かれたブレスレット端末を操作する。次の瞬間、周囲に帝国軍の侵攻を受けた星系とその周辺星域の星図を移した立体映像が映し出された。そしてウェルキンがさらに端末を操作すると、その映像に赤く点滅する幾つもの光が出現する。これは現在把握している帝国軍艦隊の所在地を反映したものだ。
「帝国軍は広域に艦隊を展開しているが、その中核を担っているのは、このガウェイン提督の艦隊だと私は見ている」
「つまり、そこさえ叩けば、敵軍の各部隊間の連携を断ち、進撃を停滞させ、うまく行けば反抗作戦の契機になるというわけですか?」
「そうだ。少なくとも敵軍の作戦行動を大きく狂わせられるはずだ」
「では、時間も無い事ですし。早速行動を起こすとしましょう。ガウェイン艦隊の侵攻ルートを見る限り、シェルブール星系に陣取るのが最適と考えますが、如何ですか?」
「……私も悪くないと思う。だが、敵がそう都合よく我々と交戦してくれるか? 迂回ルートを取られたらどうする?」
「その時は、敵の背後に回り込んで退路を遮断するだけの事です。如何に我が軍が不利な立場にあると言っても、ここは我等の勢力圏。そこで孤立する事は敵も避けたいでしょう」
こうして、モンモランシー提督がシェルブール星系に艦隊を移動させる事が決定した。
一方、ウェルキン提督の艦隊は別行動を取って、ガウェイン艦隊の背後に回り込んで後ろから襲う役目に担う。
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モンモランシー提督は自身の艦隊をシェルブール星系に布陣させた。これに気付いたガウェイン提督はモンモランシーが予測した通り、退路を断たれて敵中に孤立するのを恐れてか正面決戦の道を選択した。
帝国軍艦隊を有効射程に捉えるより僅かに早く、旗艦ティフォージュの艦橋からモンモランシー提督の指令が各艦に通達される。
「全艦、砲撃開始!」
有効射程外からの砲撃では、エネルギーシールドに艦体を覆われた軍艦の装甲に効果的なダメージを与える事は困難だった。しかし、あえてモンモランシーが早めの攻撃に出たのは敵の注意を引くためである。
帝国軍艦隊の戦力は、戦艦12隻、巡洋艦16隻。対する連合軍の戦力は戦艦8隻、巡洋艦20隻。数の上では同じだが、艦隊戦の主力である戦艦の数が4隻も劣っている以上、戦力的には連合軍側の方が不利と言わざるを得なかった。
「砲火を1隻に集中させて、順番に仕留めていきなさい。戦いは戦艦の数だけで決まるわけではありません」
連合軍艦隊は、各艦の射撃統制の全てを旗艦ティフォージュの射撃統制システムにリンクさせる事で、非常に統一された艦隊砲撃を可能とした。その威力は絶大であり、僅か数分の砲撃戦で帝国軍の戦艦1隻を撃沈してしまうほどである。
激しい砲撃の応酬が展開される中、帝国軍艦隊旗艦ガラティーンに乗るガウェイン提督は苛立ちを覚えていた。
「おのれ! 連合軍め! ちょこまかと小賢しい!」
連合軍はこちらが前進すれば退き、後退すれば前へ出るという行動を繰り返し、絶妙な距離感を維持しながら交戦を続けていた。それによって帝国軍艦隊に確実な損失を与えているのだ。
「ええい! 全艦、最大戦速! 一気に距離を詰めて戦艦の火力で敵艦隊を殲滅するのだ!」
このまま長々と砲撃戦をしていては消耗戦に持ち込まれてしまうと考え、敵艦隊の集中砲撃の的になるのを覚悟で短期決戦を挑む事を決意した。ここは敵地のど真ん中であり、長時間留まって交戦を続けていては敵の増援が駆け付けてくるリスクもあるためだ。
帝国軍艦隊が全面攻勢に打って出た。戦艦の数で勝る帝国軍はその火力を遺憾なく発揮して一気に攻め立てるも、連合軍もモンモランシーの指揮の下で強固な防御陣形を取り、その攻勢を辛うじて食い止める。しかし、連合軍の戦艦バルミーが撃沈されたのを皮切り、連合軍の戦列に亀裂が生じ始めた。
「よし! この隙を逃すな!」
このまま一気に押し切ろうとガウェインが考える中、オペレーターが声を上げた。
「敵艦隊より戦機兵が発艦しています!」
「ふん。格闘戦に持ち込んでこちらの砲撃を避ける気だな」
艦砲射撃の射線上で格闘戦が展開されれば、味方の戦機兵を撃ち落とさないように砲撃の手を加減せざるを得なくなる。連合軍はそれを狙っているのだろうとガウェインは予想した。
そこでガウェインの取った策は、戦機兵を出撃はさせるものの、艦隊の周囲に展開して艦隊防衛に徹しさせるというものだった。戦機兵と艦隊の対空砲火による分厚い防空網を築く事で敵の戦機兵に寄せ付けないようにしつつ、主砲の砲門はあくまで敵艦隊に向け続ける。
「は、背後に敵艦隊!」
「何!? くそ。援軍が来てしまったか」
それはモンモランシー提督とは別行動を取っていたウェルキン提督の艦隊だった。
背後に回り込んだウェルキン艦隊の動きは迅速であり、帝国軍が捕捉した直後には攻撃を開始。艦砲射撃の応酬で帝国軍艦隊の周囲を固めていたセグメンタタ部隊を薙ぎ払うと、爆撃装備のシュヴァリエ部隊を出撃させた。
爆撃装備を付けた戦機兵は主に対艦戦闘や対要塞戦闘で用いられるが、装備が重過ぎるために格闘戦では一方的に撃墜されてしまう傾向がある。そのため護衛機を随行させるのが基本編成になるのだが、通常装備のシュヴァリエ部隊が既にモンモランシー艦隊から出撃して帝国軍艦隊の周囲で戦闘を繰り広げていたために、ウェルキンはシュヴァリエ部隊のほとんどを爆撃装備で出撃させ、戦機兵による近接攻撃で一気に勝負を決めようと考えた。
ガウェインはすぐにもセグメンタタ部隊に迎撃を命じるも、彼等は戦闘中の敵機に針路を阻まれてそれどころではなかった。
「巡洋艦ロード・アキレスが撃沈!」
ガウェイン艦隊の最後衛に位置していた宇宙巡洋艦ロード・アキレスがシュヴァリエ部隊の攻撃を受けて爆沈した。爆撃装備のシュヴァリエの火力は、ラプターのビームランチャーに比べれば劣るものの、大群で襲い掛かれば軍艦1隻を撃沈できるほどの破壊力を発揮できるのだ。
ロード・アキレス撃沈の報を聞いたガウェインは舌打ちをし、撤退を決断する。
「全艦、直ちに撤退! 針路を3時方向に向けろ! 敵の包囲網が完成したら、撤退すら不可能になるぞ!」
包囲網の完成前とはいえ、前後の二方向からの集中攻撃は苛烈を極めた。また、艦隊の間近にまで迫ったシュヴァリエ部隊を振り切るのも困難であり、ガウェインはとにかく撤退と防御の2つに専念した。その結果、艦隊の半数を失うという損害を出しながらもガウェイン艦隊はシェルブール星系の重力圏外に脱出。ワープ航法で敵の追撃を振り切り、全滅という最悪の事態を回避する事に成功した。
だが、これで敗軍の将というレッテルを貼られた事に変わりはない。
「これでは総統閣下に申し開きが立たん……」
ガウェインは苦虫を食い潰したような顔をしながらも、艦隊司令官として生き残った艦の指揮を執り続けた。




