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バーミンガム星系の戦い・前篇

 リクス・ウェルキン侯爵率いる貴族連合軍は、宇宙機動要塞アンダストラを主軸に、ヴァンガード級宇宙超戦艦2隻、マジェスティック級宇宙戦艦11隻、ペンシルベニア級装甲巡洋艦16隻で編成された大艦隊である。

 この艦隊をウェルキン侯はアンダストラの作戦指令室から指揮していた。


「いやはや。軍艦のように移動できるとはいえ要塞を指揮すると言うのはどうも慣れんな」

 元々艦隊司令官であり、船乗り的な気質を持つウェルキンは、要塞から指揮を執る事に違和感と窮屈さを感じていた。


 ウェルキンの言葉を聞いた艦隊参謀長クリトニーは笑みを浮かべる。

「ふふ。まあ、そう言わないで下さいよ。この要塞に連合の命運が掛かっているのですから。それより先ほど先行させた偵察部隊よりバーミンガム星系に敵が集結しているのを発見致しました」


「……やはり、バーミンガム星系か。あそこを突破したら、我が軍はキャメロットまでの進軍ルートが一気に開けるからな」


 クリトニーからの報告を聞いた時のウェルキンの反応は素っ気ないものだった。帝国軍が迎撃戦力を用意・展開するために要する時間や帝国軍が死守しなければならい拠点などを考えれば、帝国軍が布陣するポイントは自ずと絞れてくる。バーミンガム星系はウェルキンが想定していた会敵ポイントの1つだったのだ。


「如何致しましょうか? バーミンガムを迂回するルートを取りますか?」


「いや。派手に暴れるのも今回の作戦の内。立ち塞がる敵軍を正面から蹴散らしてこそ敵に当たる心理的影響も大きいというものだ」


「確かに。では、全軍をバーミンガム星系へと向かわせましょう」


 貴族連合軍艦隊は、バーミンガム星系へと針路を向けた。



─────────────



 バーミンガム星系に集結している帝国軍は、ドレッドノート級宇宙戦艦26隻、インヴィンシブル級宇宙巡洋戦艦32隻、さらに要塞攻略戦に備えて格納庫にセグメンタタを可能な限り詰め込んだ輸送艦6隻の戦力を擁している。数としては不充分であるが、ヘルの政権掌握後の軍制改革に途上にある中ではこれが限界だったのだ。

 総司令官は第一提督ファースト・アドミラルヘンリー・ガウェイン上級大将。

 旗艦ガラティーンに乗艦して指揮を執る彼は、連合軍の機動要塞が直に射程圏内に入ろうとしているのに落ち着いていた。


「敵軍、射程距離に入りましたッ!」

 オペレーターの声がガラティーンの艦橋に鳴り響く。

 それに対してガウェインは「撃て」と指示を飛ばした。


 その命令は通信機を介して帝国軍の各艦隊に伝達され、戦闘の火蓋は切って落とされる。

 帝国軍艦隊から解き放たれた、無数の閃光が宇宙空間を切り裂き、連合軍艦隊と機動要塞に襲い掛かった。そして連合軍艦隊と機動要塞からも無数の閃光が放出される。

 艦艇数自体は帝国軍の方が勝っているが、機動要塞アンダストラを持つ連合軍の方が総合的な火力は上と言わざるを得ない。また、アンダストラの要塞砲やヴァンガード級の主砲は戦艦をも一撃で消滅させられるほどの威力を持つため、帝国軍艦隊はこれを回避する形でしか艦隊を展開できなかった。

 幸い、アンダストラの要塞砲とヴァンガード級の主砲は固定式なため、動きを注意深く観察しておけば、艦隊が射線上に入らないようにする事は充分可能だった。


 戦闘が始まってからしばらくは砲撃戦が繰り広げられるが、このまま膠着状態になる事を恐れたヴァレンティア艦隊の司令官クリスティーナは副司令官ジュリアスの提案を受けてラプター部隊を出撃させる。ラプターMk-IIの配備は間に合わなかったものの、ヴァレンティア艦隊にはパールライト奇襲作戦で使用したラプター部隊がそのまま今も配備されていた。


「あの要塞に張られているシールドは強力だ。ラプターのビームランチャーでも致命的なダメージを与えるのは難しい。だが、要塞の周りの敵艦隊を潰す事はできる。敵艦隊を潰せば、こっちの全火力をあの要塞に叩き込める」


「とはいえ、あの要塞も空母並の戦機兵ファイター搭載数を持つはず。格闘戦ドッグファイトともなれば、数での不利は免れないでしょう」


「でも、ラプターはその数の不利をひっくり返すほどの力があるはずだよ。勝算はあると思う」


「トムの言う通りさ! 俺もこれからラプターの第2陣を率いて出撃する。必ず敵艦隊を蹴散らしてやるよ!」


「……期待していますよ」


「おう!」

 心配そうに自身を見るクリスティーナの視線に気付かないふりをしながら、ジュリアスはヴィクトリーの艦橋を後にする。


 残されたクリスティーナはトーマスに不安の声を漏らす。

「今回は流石に相手が悪過ぎます。超大型戦艦、空母と巨大な敵を相手にするのは慣れているつもりでしたが、まさか要塞が攻めてくるとは」


「それは僕も同感だね。皆そうだよ。たぶん、この状況でも勝利を疑わずにいるのはジュリーくらいじゃないかな」


 先刻、総旗艦ガラティーンで行われた作戦会議でも意気揚々と雄弁に意見を述べていたのはジュリアスくらいのものだった。


 ジュリアスが率いる戦機兵ファイター1個連隊が艦隊を出撃する直前、他の帝国軍艦隊からもセグメンタタ部隊が続々と出撃。これに対して連合軍もシュヴァリエ部隊を出撃させた事で、戦闘は艦隊による砲撃戦から戦機兵ファイターによる格闘戦ドッグファイトへと移行していった。

 しかし、ジュリアスの率いる連隊規模のラプター部隊は、戦場へは向かわずに逆方向へと飛翔した。そして戦場を大きく迂回して敵の背後へと回り込もうとしている。ラプターの真価はその高い機動性と攻撃能力だけではない。パールライト奇襲作戦を成功させたステルス性能もだ。


「各機に告ぐ! 連合の諸君にラプターの性能をたっぷりと味あわせてやろうじゃないか! 俺達は鷹で、敵は獲物だ。最も多くの獲物を狩った部隊には俺から特別ボーナスを支給する! だから勝って生き残れよ!」

 ジュリアスはそう言って皆を鼓舞する。ジュリアス自身、この戦いを決して楽観視しているわけではないが、人の上に立つ立場になった以上、部下を不安にさせるような言動をしているわけにもいかない。彼は可能な限り平静を装い、兵士達を引っ張っていった。


 格闘戦ドッグファイトが展開されている宙域を迂回してジュリアス率いる別動隊は連合軍艦隊の背後へと回り込んだ。

 ラプターの性能の前に格闘戦ドッグファイトは帝国軍側の有利に働いた。

 連合軍にとってラプターとの戦闘は初の事であり、ウェルキンもラプター部隊がシュヴァリエ部隊を一方的に蹂躙する様には流石に驚きを隠せない。そのためについ、連合軍艦隊の直掩機すらも最前線に投入してしまい、艦隊の守りは薄くなっていた。


「この機を逃す手は無い! 全機、敵艦隊に突入! 艦隊を潰して、敵要塞を丸裸にしてやるぞ!」

 自ら先陣を切ってジュリアスはラプターのスラスターを全開にして連合軍艦隊に突入した。邂逅一番、最後衛のペンシルベニア級装甲巡洋艦にビームランチャーから高エネルギー帯の閃光を放ち、機関部を破壊。一撃で宇宙の藻屑へと変えた。


 ジュリアスに続くラプター部隊も連合軍艦隊の懐に飛び込むとビームランチャーを打ち込んでいく。連合軍の艦艇も対空砲火で弾幕を張るも、ラプターは縦横無尽に旋回してその砲火を潜り抜ける。

 最前線に投入された敵のシュヴァリエ部隊が戻ってくる前に敵艦隊を1隻でも多く沈めるべく、ジュリアス達は半ば強引とも言える攻勢を掛け続いた。



─────────────



 ラプター部隊の襲撃を受けて連合軍艦隊は、弾幕を厚くする目的で各艦は距離を詰めて陣形を密集させようとしたものの、それが味方の同士討ちを招き、連合軍艦隊の防空網は却って弱まってしまう。

 この事態に業を煮やしたウェルキンは要塞の指揮をクリトニー大佐に任せて、自らは比較的安全な要塞からヴァンガードへと移乗し、最前線へと身を投じる。

 その事に艦隊将兵の多くは歓喜し、兵士達の士気は否応なく高まった。


「このヴァンガードを中心に各艦は距離を取りつつ展開せよ!敵の戦機兵ファイターをこちらの十字砲火点クロスファイアポイントへと誘い込み、袋叩きにしてやるのだ!」


 ウェルキンは混乱する艦隊の陣形を即座に再編成し、さらにラプターへの迎撃態勢を強化した。

 これに続き、最前線で戦っていたシュヴァリエ部隊も続々と艦隊へと引き返してきたため引き返してラプター部隊は撤退していった。


「敵戦機兵(ファイター)部隊、撤退していきます」


 ウィリマース大尉の報告に、ウェルキンは満足そうな笑みを浮かべた。

 しかし、楽観視できる状況でもない。


「こちらの損害は?」


「戦艦4、巡洋艦6隻が撃沈。戦艦3、巡洋艦4が損傷です」


「ええい。戦機兵ファイター相手にこの様とは」


 味方が被った損害を確認したウェルキンは苦虫を嚙み潰したような顔をした後、ある策を実行に移す。

「本艦を前進させろ!主砲を敵艦隊に向ける!」


「ですが閣下、いくら主砲を撃とうとしても敵はすぐに射線上から退避しようとします。それでは意味が無いのでは?」


「そうだ。だが逆に言えば、敵は射線上から全力で退避しようとするという事だ。例え陣形を崩してもな。あれだけの数の艦隊が陣形を維持したまま移動するとなればどうしても動きが鈍くなってしまう。主砲の餌食になるのを回避するために全力で逃げるだろうよ」

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