会談の行方
昨日は更新しそびれてしまったので、今日更新致します。
共和国側のジュリアスとクリスティーナ、ネオヘル側のレナトゥスとガウェイン、そして大公国側のエディンバラ大公夫人の三勢力による会談が始まった。
この会談の結果がどうなるにせよ。銀河の勢力図に少なからず影響を与える事は間違いなく、誰もが相手の出方を窺い慎重に事を運ぼうとする。
そんな中、まず最初に動いたのはエディンバラ大公夫人だった。
「共和国は、旧連合領における通商貿易の全権を対価に同盟を組もうと持ち掛けてきました。対するネオヘルは、現在共和国領となっている旧連合領の支配権を対価に同盟を持ち掛けてきた。さてさて。どちらも魅力的な話でどうしたものか悩ましいですね」
エディンバラ大公夫人の双方を天秤に掛けて報酬を吊り上げようという意図は、この場にいる誰もが瞬時に理解した。
しかし、理解した上で彼等にはその意図に乗るしか選択肢が無い。
彼女のわざとらしい発言を聞いたガウェインは鼻で笑う。
「旧連合領における通商貿易の全権?また随分と大きく出たな。しかしそんな事が本当に可能なのか?できもしない事を言っているのではなかろうな?」
会談の席にはついたものの、ガウェインは露骨に敵意を露わにしていた。
そんなガウェインの喧嘩腰に真っ向から対抗したのはジュリアスだった。
「ふん。最近めっきり名前を聞かなくなったと思ったら、まだ生きてたんだな。しかも元帥になっていたとは。元三元帥だった俺達への対抗意識からか?」
挑発するような口調で語るジュリアス。
「止めなさい、ジュリー。もう子供じゃないんですから」
「ガウェイン元帥もだ。ひとまず私情は忘れたまえ」
「……分かったよ」
「お見苦しいところをお見せしました、書記長」
クリスティーナとレナトゥスにそれぞれ注意され、ジュリアスとガウェインはやや不満を残しつつも引き下がる。
会議室は再び静けさが包み込むが、それを破ったのはレナトゥスだった。
「こうして戦争状態にある両勢力のトップが意図せずに顔を合わせるという事例のは、長い人類史を見てもそうは無いだろう。この歴史的な会談をもっと有意義に使うべきだと思わないかね?」
「へえ。流石は総統の再来と呼ばれるだけの事はあるな。声や見た目だけじゃなくて考え方まであいつに似てやがる」
「ジュリー、そういう挑発するような言い方は止めて下さいと言ったばかりでしょう」
「今のは誉め言葉なんだよ」
まるで拗ねた子供の様に唇を尖らせるジュリアス。
しかし一方のレナトゥスは満更でもない様子だった。
「総統閣下と直に会った事のある人物に、そう言ってもらえるとは光栄だな」
「……」
レナトゥスの返答に不満があったのか。不服そうな表情をジュリアスは崩さなかった。
そんな中、クリスティーナがレナトゥスを相手に口を開く。
「あなた方は帝都キャメロットを破壊し、銀河帝国を文字通り滅ぼしました。しかしながら、帝国はほぼ全てが我が共和国に従う道を選び、結果的に銀河を三分していた勢力の内の2つが手を結び、あなた方はこの銀河でより一層の孤立を深めたと言えるでしょう」
「そうかもしれませんな。ですが、それがどうしたというのです? 既に痩せ衰え、国の要であるキャメロットも失った帝国領など足手纏いでしかありますまい。しばらくは国内整備に奔走させられて、大きな会戦をする余裕も無いのではありませんか?」
先のスバロキアの戦いでは、帝国領中に散らばっていた小部隊がそれぞれの任地を離れて結集した事で、帝国軍はネオヘルの艦隊を凌駕する戦力を生み出した。
しかしそれは、あくまで緊急時の措置であり、もう1度同じ事が出来るかと言えば難しい話と言わざるを得ない。
そもそも共和国との条約による軍縮もあってネオヘルに比べると装備面でも遥かに劣る帝国軍は数による力押しでしかネオヘルとの戦いに活路は見出せないというのが現状である。
今後、帝国軍の戦力はそのほとんどが領土防衛や各星系の治安維持へ当てる事となるだろう。
そうなると、ネオヘルとの戦いに心強い味方を得たとは一概には言えなかった。
また、帝国は帝都キャメロットを失い、政府も崩壊したため、内政機能が麻痺状態にある。
現在、共和国はヴァレンティア伯爵の帝国臨時政府と共に新体制の構築と旧帝国領の秩序回復に奔走しており、足手纏いというのも間違いとは言い切れないかもしれない。
だが、レナトゥスの問いに対して、クリスティーナは一笑して返す。
「スバロキアの戦いでネオヘルはアルヴヘイム要塞と多数の艦艇を失いました。それを思えば、新たな仲間を得た私達はずっと幸福というものでしょう。それに共和国はこの私と隣にいるシザーランド大統領、そしてここにはいませんがコリンウッド大統領の3人で職務を分割しています。どれだけ国内整備が多忙を極めたとしても、私達の誰かがあなた方ネオヘルのお相手を致しますので、どうぞご心配なく」
「ふん。相変わらずお前達は3人揃ってべったりなのだな」
「ええ。私達は今も昔も一心同体。生きるも死ぬも一緒です」
クリスティーナが雄弁を披露している間、ジュリアスは頬を赤く染めて沈黙を守っていた。
ジュリアスもクリスティーナの主張にはまったく同意見であり、異議は一切無いのだが、真っ赤な赤の他人に面と向かって話すとなると流石に恥ずかしさを覚えたらしい。
「なるほど。共和国の大統領の連携の巧みさと絆の深さは我がネオヘルにもよく伝わっている。だが、年長者として1つ忠告をしておくと、それは諸刃の剣である事も覚えておいた方が良い。歴史上、複数の人間が対等の立場で国の指導者となった場合、いずれは意見の食い違いから対立して国を分裂させて滅亡の道を辿るのが常というものだからな」
「忠告はありがたく受け取っておきましょう。しかし、その心配は無用です。私達3人は一心同体。仮に彼等と袂を分かつような事になるくらいなら、私は死を選びます」
クリスがそう言うと、隣に座るジュリアスが声を上げる。
「おい! ちょっと待て! 死ぬってどういう事だ!?」
「な、何ですか。急に。あくまで仮の話です。本当に死ぬわけではないんですから、わざわざ深掘りしないで下さい」
「じゃあ死んだりしないんだろうな!?」
「さて。それはどうでしょうね。ジュリーやトムと敵対するなんて私には耐えられませんから。死んだ方がましだと考えるかもしれませんね」
クリスティーナは口ではそう言うが、実のところ何の迷いも無く死を選ぶというのが本音であった。
しかし、それを言ってはジュリアスが余計に食い下がってくると考え、わざと冗談めかして言う。
「クリスが死ぬって言うなら、俺だって死ぬからなッ!」
「ちょ、人前で簡単に死ぬなんて言わないで下さい」
「最初に言い出したのはクリスだろ」
「……確かにそうですね。すみませんでした」
そんな2人のやり取りを、レナトゥスとガウェイン、そしてエディンバラ大公夫人は静かに見守っていた。
割って入る隙も無かったので、一段落が着くまで待とうと無言の内に3人の意見は一致したのだ。
クリスティーナとの話を終えたジュリアスは、そんな状況に気付くと視線をレナトゥスとガウェインに向ける。
「っと話が逸れちまったな。この場を有意義にって言うのなら、レナトゥス書記長に聞きたい事がある」
「ほお。それは何だね?」
「お前は、一体何者だ?まさか本当にローエングリン総統だって言うんじゃないだろうな?」
「シザーランド、貴様、書記長閣下に向かって何と失礼な事を!」
ジュリアスの問いに真っ先に反応したのはレナトゥスではなくガウェインの方だった。
妙に焦った様子の彼は、再び席を立ち上がって声を荒げる。
「止せ、ガウェイン元帥」
「で、ですが、閣下」
「構わん。……シザーランド大統領、貴公の問いに答えるなら、私は誰でも無いさ。ただ強いて言うなら、私はローエングリン総統の事業を引き継ぐ者と言ったところか」
「……どういう意味だよ?」
「専横を極めた大貴族達が始めた50年にも渡る内戦は、民達の心を疲弊させ、人類社会そのものを衰退させてしまった。それを食い止め、民に希望の光を見せたのがローエングリン総統だ。銀河中の人々の中には総統閣下が見せたその光を忘れられずにもがいている者が大勢いる。そんな者達に、その光を見せ続ける。そのために今の私は存在している」
レナトゥスの話を聞いたジュリアスの脳裏にはある事が直感的に浮かんだ。
「……違う」




