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巨大要塞の正体

 ジュリアス率いる共和国軍艦隊は、ジュリアス直属の第1艦隊、ヴィクトリア・グランベリー大将率いる第2艦隊、アレックス・バレット大将率いる第3艦隊の3個艦隊で編成されている。


 今の時代、かつてのように数十個の艦隊が1つの戦場に集結して大会戦を展開する事はまず無くなっていた。

 惑星並みの大きさを誇る巨大要塞を攻めるにはやや戦力不足な感は否めないが、今すぐに用意できるはこれが限界だったのだ。


 とはいえ、この艦隊編成は旧突撃機甲艦隊ストライク・イーグルを彷彿させるものであり、兵士達の士気は否応なく高まった。


 しかし、この艦隊を率いるジュリアス達高級士官は悠長に構えてもいられない。

 旗艦インディペンデンスの会議室に集結し、数少ない資料を吟味して作戦の立案を急いでいる。


 ネオヘルの巨大要塞の射程があまりにも長過ぎるため、いつマルガリータが狙われるか分からない。

 時間を掛けて情報収集をする余裕も作戦を練り上げるゆとりも無く、全てを同時進行するしかなかった。

 無謀は誰もが承知の上だが、やるしかない。

 その思いを胸にして、この戦いに身を投じていた。


「集まった情報からしてネオヘルの新兵器は、星の核をエネルギー源にしたレーザー砲と考えられます」

 資料を片手に説明をするのは、第1艦隊副参謀長ジルベール・アントニー准将。


「……まさかこんなものを作る余裕がネオヘルにあったとはね」

 第2艦隊司令官グランベリー大将が苦々しい表情を浮かべながら呟く。


「まったくだ。だいたい大量破壊兵器は条約違反だろうに」

 第3艦隊司令官バレット大将は腕を組んで冗談めかした口調で言う。


「馬鹿ね。ネオヘルはその条約を結んだ帝国に不満がある連中が作った組織なのよ。条約を順守する気なんてあるはずがないでしょう」


「そりゃそうだがよ。ヘルの後継組織を名乗るなら、ヘルが結んだ条約くらい守って然るべきだろ」


「提督方、今はそのような事を議論している場合ではないでしょう。私達が今、労ずるべきはあの巨大要塞を破壊する方法です」

 そう言って2人の艦隊司令官を諫めるのは第1艦隊参謀長ルイス・ハミルトン少将。


「ハミルトン少将の言う通りだ。とはいえ、これだけの巨大要塞ともなると質量が大き過ぎて艦隊戦力だけで叩くのは難しい」


 ジュリアスの言う事は尤もだった。

 惑星並みの大きさを誇る要塞ともなれば、その大きさ自体が防御力となる。

 全盛期の旧帝国軍が全戦力を一ヶ所に揃えたとしても、要塞を破壊するのは骨が折れるだろう。


 かつてジュリアス達が、ニヴルヘイム要塞を小惑星群を利用して破壊した時には状況が違う。

 あの時は、帝国軍がアンダルシア星系に来ると分かっていたので、アンダルシア星系の小惑星帯で準備をするゆとりがあった。

 また、ヴァンガード級宇宙超戦艦のような高火力ビーム砲も無い。


「おそらくネオヘルは、ニヴルヘイム要塞の反省点を活かして要塞本体と砲台を切り離す形を取ったんだろうな」


 ニヴルヘイム要塞陥落の一番の決定打になったのは、要塞主砲ギガンテス・ドーラが発射直前に破壊され、砲台に溜まったエネルギーが暴発したからに他ならない。

 しかし、このネオヘルの巨大要塞は要塞本体と砲台が分離しているので、同じ手は通用しない。


「だが。手の打ちようはある。要塞と砲台が分離しているのなら、砲台だけ叩いてしまえば良い。砲台さえ潰してやれば、後は時間を掛けて要塞を料理してやれば良い」


「なるほどね。確かにあのバカデカイ要塞を狙うよりそっちの方が現実的ね。でも、そう簡単にいくかしら?敵だってそれは承知のはず。きっと何重にも防衛線を張ってくるはずよ」


「強行突破するしかないさ」


「まあ、それはそうでしょうけど」

 元より選択の余地はない。それは承知の上だが、それでも不安を拭い切れない様子のグランベリー。


 そんな中、席を外していたネーナが会議室にいる全員分の紅茶を用意して戻ってきた。

「皆さん、紅茶を用意しましたのでどうぞ。ずっと張り詰めた状態でいると良いアイデアも出ませんよ」


「これはこれは。気が利く副官殿だな。是非頂こうか」

 バレットが真っ先に紅茶を所望した。


 彼に続いて、他の者も次々と紅茶を求めて声を上げる。


 ネーナは一人一人に紅茶を振る舞い、最後に会議室の奥に鎮座しているジュリアスの前に紅茶を差し出す。

「ありがとうな、ネーナ」


「いえいえ。これが私の仕事でもありますからッ!」

 そうは言いつつも、ネーナはとても嬉しそうであった。


 その時、会議室に若い兵士が慌てた様子で駆け込んできた。

「し、司令、司令長官!大変です!!」


「ど、どうしたんだ一体?と、とりあえず落ち着け。帝都キャメロットが吹き飛ぶようなこのご時世。今更そんなに慌てるような事なんてないだろう」

 そう言ってジュリアスはネーナから受け取った紅茶を一気に口へと運ぶ。


「諜報部よりネオヘルの巨大要塞に関する詳細な資料を入手したとの報告がありました!!」


「ブーーッ!!」

 ジュリアスは口に含んだ紅茶をまるで噴水のように噴き出した。

 そして、それは全てネーナの顔面に命中してしまう。


「ゴホッ! ゴホッ! ……あ! ね、ネーナ、すまん! 大丈夫か!?」

 慌ててジュリアスは自身が纏っているマントでネーナの顔を拭こうとする。


「だ、大丈夫です。それよりジュリアス様のお召し物が汚れてしまいます! 染みになっては後で洗うのが大変ですから。ジュリアス様はご自身のお仕事に集中して下さい」

 そう言ってネーナはジュリアスを制止しつつ、ポケットからハンカチを取り出して自分の顔に飛んできた紅茶を拭き取る。


「あ、あぁ、悪いな。……それで諜報部が掴んだ情報を今すぐに見せてくれ」


「は、はい。これをご覧下さい」

 若い兵士は自身のブレスレット端末を操作して、データを会議室のサーバーに転送する。

 そして会議室のメインモニター、そして3Dディスプレイにはネオヘルの巨大要塞に関する資料が次々と表示された。


「こ、こりゃ、すげーな」


 その資料は、要塞の詳細の設計図であった。これを詳しく解析したら、要塞の弱点なども見つかるかもしれない。

 ジュリアスはすぐにこれを技術士官に回して大急ぎで調べ上げるようにと指示を出した。

 本来、艦隊に技術士官が常駐している事はない。

 しかし、今回はネオヘルの新要塞に関する情報が圧倒的に不足していたという事もあり、数少ない情報から少しでも手掛かりを得ようと、その資料を見て技術面から作戦立案のサポートをしてもらうために技術士官を数人同行させていたのだ。




 そしておよそ3時間後、技術士官が資料の検討を終えたという事なので、艦隊の高級士官達は再び会議室へと集結した。


「要塞の名は《アルヴヘイム要塞》。星からエネルギーを供給して打ち出すレーザー砲です。有効射程は、惑星スバロキアからでは帝国領に限定されるので、今すぐにマルガリータが狙われるという心配は無いでしょう」


 技術士官の報告に、会議室に集まった一同は安堵の息を漏らす。


「ただ、司令長官がお考えでした砲台への攻撃は難しいかと」


「ん? どういう事だ?」


「砲台は、ビームのエネルギーに悪影響を与えぬよう必要最低限の設備のみで装備のほとんどを砲そのものの機能に費やされています。そのため砲台自体にはシールド生成器ジェネレーターも設置されていません」


「なら好都合じゃないか。あんなバカデカい的が丸裸なんてよ」


「いいえ。そうではありません。この巨大要塞の天頂部分に星から抽出したエネルギーを砲台へと送る送電装置があるのですが、ここにはシールド生成器ジェネレーターも設置されており、ここから展開された強力なエネルギーシールドで砲台は守られているのです」


「つまりこっちがどれだけ砲台を攻撃しても、そのシールドで防がれるってわけか」


「はい。こちらがシールドの突破に戸惑っている間に、ネオヘル軍の護衛艦隊に包囲されて袋叩きにされるのは目に見えているかと」


「なるほどな」

 ジュリアスはふむふむと頷きながら呟く。


「どうなさいますか? これではこちらの作戦が成り立ちませんぞ」

 小難しい表情を浮かべたバレットが言う。

 砲台を叩くだけで良い。それは気休めとしてもやや弱かったが、何も無いよりは良い。という程度には皆の肩の荷を軽くしてくれていた。

 だが、それが打ち砕かれてしまったのだ。時間の無いこの状況では、歴戦の勇将も流石に動揺せずにはいられなかった。


 しかし対するジュリアスは、それほど悲観した様子はない。

「簡単な話だ。敵は俺達がこの情報を持っている事を知らない。つまり俺達の注意を引くためにも防衛艦隊は砲台周辺に展開していて、要塞本体は手薄になりがちって事だ。それにこれを見てみろ」


 ジュリアスがデスクの上に設置されているコンソールを操作する。

 会議室の大きなメインモニターにはアルヴヘイム要塞が映し出され、その構造が細かく表示された。


「このアルヴヘイム要塞は惑星の表面に張り付いている間、星の磁場の影響でエネルギーシールドが張れない。つまりは無防備な状態だ。これだけの質量体だから要塞そのものを潰すのは無理でも、シールド生成器ジェネレーターだけなら何とかなるかもしれない。その事を事前に知れたからこそ勝機も見えてきたってもんだろ!」

 そう言ってジュリアスはニコッと無邪気な笑顔を見せた。


 ここに集う指揮官たちは、帝国軍時代から戦場で何度も危機的な状況を経験してきた。

 しかしその度に、ジュリアスの自信に満ちた笑顔を見ると、皆の顔には自然と笑みが零れて次第に戦意はなぜか奮い立つのだ。

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