ネオヘルの新兵器
時は丸一日遡る。
惑星スバロキア。
帝国領に属するこの星は、小規模な町がある程度で経済的にも軍事的にも大した価値は無かった。
しかし、しばらくして後、この星の名は銀河中を駆け抜ける事となる。
それはある日、突然現れた。
スバロキアの住民がふと空を見上げると、そこに広がったのは青空ではなく、空一面を覆い尽くす銀色をした鋼鉄の物体だった。
かつての帝国軍のニヴルヘイム要塞のおよそ10倍以上という途方もない巨体を誇るそれは、二つの八角錘が重なったような形状をしている。
スバロキアの大気圏に突入する直前、スバロキアの地表に頂点が向いている方の八角錘が突如、8つに枝分かれした。
それはまるでタコが8本の足を広げて、惑星に食らいつこうとしているかのようである。
大気圏に突入すると、8本の足は摩擦熱で炎と分厚い黒い煙に包み込まれた。
しかし、それで8本の足が燃え尽きるような事は無く、大気圏への突入を果たした足は大地に食らいつき、もう絶対に離さないと言わんばかりに惑星に固定する。
少しして、この巨大物体が動かなくなると、この中に設けられている指令室にいるオペレーターの1人が声を上げる。
「デーニッツ提督、アルヴヘイム要塞、惑星スバロキアへの固定が完了致しました」
「よくやった。では早速、核に向けて掘削作業を開始せよ」
デーニッツの指示を受けたオペレーター達は、各部署へと指令を飛ばす。
やがてアルヴヘイム要塞と呼ばれたこの巨大物体の下部、8本の足の中心点に位置する部分から直径1kmもの巨大なレーザードリルが地面に向かって照射される。
レーザードリルは、超高熱で地面を焼きながら、地中深くへと進んでいく。
「レーザードリルがこの星の核に到達するまでにどのくらい掛かるか?」
デーニッツの問いに答えたのは、彼の副官を務めるクルト・フリーブルク中佐だった。
「およそ3時間ほどです。しかし、砲台へのエネルギー充填が完了するまでには丸一日を要する計算となっております」
「流石に掛かるな」
「はい。ですが、共和国に察知されるリスクが最も少ない航路と星という事で、ここが選ばれたのです。敵に気付かれる危険は限りなく少ないかと」
「そうでなくては困る。そのために、わざわざビテュニア方面で大規模な作戦行動まで実施して、奴等の注意を明後日の方向へ向けたのだからな」
その時、オペレーターの1人が「シュニーヴィント大将より通信が届いております」と報告する。
それを聞いたデーニッツはすぐに回線を開くよう指示をした。
デーニッツのすぐ手前には、四角型の3Dディスプレイが表示され、そこには1人の提督の姿が映し出された。
大柄で猛将タイプの指揮官だと一目で分かる、30歳前後くらいの提督は、その風格に相応しく大きな声を出す。
「デーニッツ上級大将、こちらは全ての準備が完了致しました。ご命令あり次第、すぐに侵攻作戦を開始できます」
「宜しい。予定では、あと27時間で全ての準備が整う。・・・そうだな。今より24時間、兵達に最後の休息を取らせて英気を養わせておけ」
「作戦を前にして休息、ですか?」
「今回の作戦はネオヘルの未来を決める大事な物。失敗は許されん。兵達に余計な緊張を与えておくのは得策とは言えんだろう」
「了解致しました。ではこれで失礼致します」
デーニッツとシュニーヴィントは共に敬礼を交わすと、通信が切れる。
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翌日。
アルヴヘイム要塞は、惑星スバロキアの核から膨大な星のエネルギーを吸い上げていた。
それは要塞上面の八角錐の頂点に設けられている送電装置を通して、マイクロ波に変換され、宇宙に向けて放たれる。
その膨大なエネルギーはスバロキアの衛星軌道上に浮かぶ巨大な円筒上の物体に取り付けられている受電装置へと供給される。
直径10km、全長46kmという巨大な建造物は、大きさこそまったく異なるが、大昔の地球時代に用いられた大砲のようにも見えた。
指令室にいるデーニッツは、巨大なメインモニターにて青空に薄っすらと浮かんで見えるその円筒上の物体を見る。
「フリーブルク中佐、兵全員に告げておきたい事がある。マイクを持ってきてくれ」
「はい、閣下」
フリーブルクが指令室に備え付けられている掌サイズの小さなマイクをデーニッツに渡す。
「諸君、そのままで聞いてほしい。今日は歴史に残る日となる! ネオヘルの総力を注ぎ込んで完成させたこの究極の兵器! この兵器が混乱を極めた銀河に秩序をもたらす! 亡き総統閣下のご意志と恩恵を忘れ、ひたすらに己の保身ばかりを図る今の帝国は、反逆者どもが作った共和国と迎合し、この銀河を我が物にしようと目論んでいる。しかしこの兵器によって奴等の邪悪な企みは打ち砕かれる! そして、銀河の全ては我等ネオヘルが支配するのだ! その時こそこの混乱の時代は幕を閉じ、真の平和が到来する!」
デーニッツの演説が終わると、指令室のオペレーター達が一斉に各所に指令を送る。
「提督、兵器の発射準備が完了致しました」
「発射だ!!」
デーニッツの命令が発せられた直後、スバロキアの衛星軌道上に浮かぶ円筒状の巨大砲台の砲門に強烈な光が灯る。
やがてその光は砲門より漆黒の宇宙空間へと解き放たれた。
真空の中を横断するそれは正に光の槍である。
幾多の星系を素通りして、その槍が矛先に捉えていたのは、銀河帝国の帝都キャメロットだった。
キャメロットの大気圏、そして大地をいとも容易く貫いた光の槍はそのまま星を貫通。
キャメロットは星の核を破壊されて、一瞬にして木っ端微塵に吹き飛んでしまった。
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帝都キャメロットが消滅した。
その事は、すぐに銀河中に知れ渡った。それと同時に惑星スバロキアと食らいついている巨大要塞の存在も銀河中に露見する。
惑星マルガリータの大統領府でも大騒ぎになっていた。
銀河帝国の帝都が一瞬にして消滅したのだ。
大統領府で最初に囁かれたのは、ネオヘルが新たにニヴルヘイム要塞を建造したのではないかという意見だった。
しかし、調査が進むにつれて事態はそれ以上に悪い事が判明した。
ジュリアス達は政府と軍部の重鎮を招集して緊急会議を開く。
「惑星キャメロットを破壊した巨大ビームは、惑星スバロキアより発射されたものだと言う事が分かりました。現在、同惑星にはネオヘルの物と思われる巨大建造物が取り付いており、その衛星軌道上には砲台と思われる物体も確認しております」
集まった情報をブラケット准将が順に説明していく。
「帝国領に隣接する星系に展開していたネオヘル軍艦隊が一斉に帝国領へと侵攻を開始しました。迎撃している帝国軍は、帝都キャメロットの消滅により指揮系統が混乱しており、効果的な迎撃態勢が取れずにいるようです」
そんな中、副大統領ジョン・ヴィンセントが口を開いた。
「なぜこれほどの巨大兵器が帝国領に入ったというのに、我が軍も帝国軍も気付かなかったのですか?」
「ネオヘルは私達が最も警戒していない宙域を航路に選んだのです。おそらく先のビテュニア方面の戦いも今回の攻撃の前哨に過ぎなかったのでしょう」
クリスティーナが険しい面持ちで説明する。
「流石に油断してた。まさかあんなものを作ってたなんて」
トーマスがそう言うと、会議室には動揺と混乱の声が飛び交う。
そんな中、ジュリアスが皆を一喝するためにデスクをバンッと勢いよく叩きながら席から立ち上がる。
「今はそんな反省会なんてしてる場合じゃないだろ!一刻も速くあの要塞を潰さないと、俺達もキャメロットと同じ運命を辿る事になるんだぞ!」
ジュリアスの主張に、最初に反応したのはクリスティーナだった。
「確かにジュリーの言う通りでしょう。ですが、迅速に動こうにも今すぐに集められる戦力では、要塞攻略は困難かと」
クリスティーナの言う事にトーマスも同意する。
「ネオヘルも要塞の守りに、かなりの数を集結させているはずだ。不用意に動いても返り討ちにされるだけだよ」
「そりゃそうだけど、あのキャメロットが吹き飛んだんだぞ。次はどこが狙われるか分からない。もしかしたら、ここが狙われる可能性だってあるんだ。悠長に構えている場合じゃないだろ!」
ジュリアスの言葉を聞いて少し悩んだ末、クリスティーナは決断した。
「……分かりました。ジュリーは今すぐに、可能な限りの戦力を用意して要塞攻略をお願いします。私は帝国軍に掛け合って協力を得られるよう取り計らいます。今の帝国軍では足手纏いになるかもしれませんが、今はお互いの目的も一致しますし、戦力は少しでも多い方が良いですから」
「ああ!宜しく頼むッ! ……それじゃあトムはヴィンセントと一緒に市民の対応を頼む。皆、混乱してるだろうからな。こんな時に国内の足並みが乱れると後が大変だ」
「了解だよ。……ジュリー、言っても無駄とは思うけど、無茶はしないでよ」
「ああ! 分かってるさ! ちゃんと帰ってくるから安心しろって!」
そう言ってジュリアスは無邪気な笑顔を見せた。




